エピローグ そして 序章へ
視点はアックス。楽しそうです。楽しそうなのは彼一人ですが、ここから吸血鬼として本格始動します。
ヨナスとミアを連れ帰って、お店を見学をさせて、契約を済ませてのあれこれをしていたら、1週間なんてあっという間に過ぎてしまった。二人の店の開店はまだ先になるけれど、今から楽しみだ。
試作品のオリジナルスイーツを何個か試食させてもらったけれど、どれも絶品!これから好きな時に食べられるとなると、もう最高!!
ヨナスの腕は確かだし、ミアの制服はシックながらも可愛らしいものを選んだからまず間違いなく話題になる。わざわざ、特注で頼んだ甲斐があった。
まぁ、知り合いのファッション関係の自営業をしている変わり者の紳士が、たまたま尋ねてきていたから頼んだんだけど。いい選択をした。
「ってな感じで、順調。まぁ、罰として家出期間中に溜めてた書類全般まる投げされたけれど・・・」
「そうか」
「なんて言うか、やっぱり運命とかあるんだね。信じてないけれどさ。ああ。これから、楽しみだよ。良い宣伝にもなるし、今計画してるビジネスにも関わってくるだろうしね」
「よかったな」
「うん。良かったよ!これも、それも、ウォルガのおかげだね。スーパーに行こうっていってくれなかったら無かったことだし」
「そうでもないだろう」
「そうでもあるよ!ああ、そうだ。スーパーで思い出したんだけれど、襲ってきた連中の身元、わかったよ」
はじめてヨナスとミアの店で買ったスイーツを持って帰った時の夜。無遠慮に突貫してきた四人の正体。
あのときは、何とも思ってなかったけれど、何とも思わず殺してしまったけれど、やっぱり、生かしておくべきだった。
「ヨハネス・ハイネスの連中だったって。シャ―バが言ってた」
「・・・」
「潰れて、潰されていなかったんだって」
「・・・」
「不手際、とかじゃなくて。意図的に、隠蔽していたらしい。まぁ、魔術師教会の連中がやりそうなことじゃあ、あるよね。飼犬、いや、飼鼠にでもしてたのかな?」
「・・・」
「不愉快だよ。不快だ」
「どうする?」
とんとん、と。机の足をつま先で蹴りながらウォルガが促してくる。
今日の夜は、曇り空が広がって、月も星も見えない。
そんな中で、俺とウォルガはホテルの最上階、そのさらに上。屋上でお茶を楽しんでいた。風はないし、なにより、明かりは一切灯されていない。お互いの顔を視認することすら難しい暗闇が広がっているけれど、気にならない。
俺にはウォルガの顔がはっきり見えているし、ウォルガには俺の気持ちが分かっている。
暗闇は俺たちにとって障害でも何でもない。
お互いのことが分かっているなら、恐がることは何もない。そもそも、闇は好きだし、暗いところは心地いいし、夜は優しい。
恐がること自体、俺には分からない。
怖れること自体、信じられない。
恐怖なんて、感じられない。
「・・・今は、どうも。仕掛けることはしない。けれど、牽制ぐらいは、しておこうかな」
じゃないと、好きなスイーツも食べられないしね。
「そうか」
「レイドを動かすのは大きすぎるから。カミーラあたりに動いてもらって、脅しとしてティテスを使う。けれど、やっぱり、ウォルガが一番に見張ってくれていると俺としては安心、ていうか、妥当だから」
だから、動いてくれ。
「わかった」
「ふふ。狼王が敵になるってわかったなら、どうするかな?」
「さぁ」
「まぁ。あいつら自体、俺を敵に回してるっていう自覚はあるから、たぶん、諦めないと思うけれど。・・・なんだかね。それほどいいものかな?権力って」
「魅力的には映るんだろう」
「そうだね。俺がここから、この座から降りれば、あいつらが思い通りに、いや、他もそうか、自由ではないにしろ、動きやすくはなるよね」
欲しい物を欲しいままに、手に入れることができるようになるかもしれないよね。
「幻想でしかないがな」
「幻の想いって魅力的に映るんだよ」
「そうだな」
俺は、空を見上げて、曇り空に、手をかざす。
そのまま、手を伸ばしたまま、手をかざしたままで、ちょっと考える。これからのこととか。考えながら、考えないままに、思う。
ああ、なんて、素敵な夜なんだろう。
かざした手を横にずらす。横に払う。
「良い夜だ」
満月が、俺の頭の上にある。
星星が、輝いている。
「うん。良い夜」
そこには雲がなく、雨が降りそうだった曇天はものの見事に消えうせた。いや、消したんだけど。
正確には、移した。
「また、叱られるんじゃないか?」
「雨が降る日を一日ずらしただけだよ。大したことじゃない」
「宣戦布告か?」
「あはは。この程度、なんの布告にもならないし、なんの警告にもならない。いうなれば、集合の合図だよ」
「そうか」
「ああ。久しぶりに、ちょっと遊べそうだし。なら、みんなで参加しよう。招待客も交えて、ね」
俺の血を沸かしてくれるかもしれない者に対して、俺なりの敬意を表して。
「全力で、相手をしよう」
全力で遊んであげよう。
開幕を告げたのはお前らだ。だから、閉幕は俺がしよう。
俺が飽きたときに、俺が遊び疲れたときに、幕を引くこととしよう。
だから。
「存分に楽しませてくれよ?」
この夜のように、素敵な時間を過ごさせてくれよ?