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おわりのおわり②

 一旦、一段落します。ここでの視点はアックスになります。

 星空が薄く覗く夜。

 今日はいい夜だった。なのにどうして俺は、お説教を受けてるんだろう。それも、3時間かけて叱られているんだろう?


「ふぅ~。まったく、そこまで怒ることないじゃないか」


「そこまで怒ることです。何度目か覚えておいでですか?」


「何が?」


「家出の回数ですよ」


「15回。ここ、一年、いや半年で」


「・・・正解です。自覚があるのなら控えてください」


「自覚があるからって控える理由にはならないよ」とは、さすがの俺でも言えなかった。

 だから、「ごめんね」の一言でこの話題を終わらせる。

 そうしないと、この先も説教が続きそうだ。さっきだって、家出の回数を当てなかったら、辛辣な言葉が待っていた。当てても、外しても結局お説教なんて・・・。

 まぁ、俺の我儘のせいではなあるんだけれど、そんなに目くじらたてて怒ることでもない。はず。

 それに、今回の家出は大きな収穫があった。


     ★


「・・・・」「・・・・」


 ヨナスとミアは、唖然として目の前の店内を眺めている。いや、眺めているのかな? 目が虚ろだ。此処まで来るのに、緊張していたけれど。なにか関係があるのかな?

 ミノタウルスの縄張りから―あの無駄に筋肉質で頭から牛の角を生やしていた連中―ヨナスとミアをつれ出して、俺はフランスに渡った。


 二人の荷物は営業車とともに運んだから、特に荷作りに時間をかけることがなかったからスムーズに、日が昇る前につくことができた。

 いやー。ヨーロッパは移動が楽でいい。


「どうかな? 狭いなら改造してもいいし、改築してもいい。もちろん、資金はこちらから出すけれど、貸賃は高くなるよ。まぁ、売り上げ次第ではすぐに返すことができると思うし・・・。って、聞いてる?」


 なんだろう、さっきから二人とも魂が抜けきった顔をしている。


「お~い・・・」


 ヨナスの顔の前に左手を、ミアの顔の前に右手をひらひらさせる。

 ・・・どうしよう、二人とも全く反応を見せないよ。


「う~ん。どうしたのかな?」


 まったく無反応な二人の前に立ち尽くす。

 数千年を生きている俺でも、打つ手がないほどの重症だ。

 どうしてこうまで二人は追い詰められているんだろうか?


「全く心あたりがない・・・・」


 此処に、俺の縄張りであり、俺の(フランスでの)家でもある一等地のホテルに来る前は緊張気味だったけれど、ちゃんと互いに自己紹介をし、軽く契約内容を話した。

 最初は今までと同じように営業車で回ると言っていたけれど、一か所に留まってスイーツを作ることに専念してほしいと俺が言ったら頷いてくれた。


 少し、躊躇していたけれど何故か諦めた顔をして承諾した。


 理不尽な事言ったつもりはないけれど、きっと今までの生活を変えることに抵抗があったんだろう。

 それなら、住みやすい場所で店を開けれるようにと、一通りの設備が整ってすぐに住める場所として、俺の経営しているホテル、俺の寝床―ホームグランド―に来てもらったんだけれど・・・。


「・・・気に入らなかった、のかな?」


「違う!」「そうじゃないです!!」


「うわ!びっくりするなー」


 ただの独り言にまさか返事が返ってくるとは思っていなかったから、本気で驚いた。


「こ、こ、こ、こ、っここ、を、借りて、い、いい、いいのか・・・?」


「うん。此処以外にもあるよ。ホテルが嫌なら、メインストリートのお店を」

「ごめんなさい!!!」


 え?えええ!?

 なに?なにが「ごめんなさい」なの!?


「あ、ああ。ごめん・・・」


 凄い慌てて謝られたけれど、それはいったいどういう意味があるんだ?俺もつい、謝っちゃったけど。


「で。どう?ここでいい?契約内容は明日の朝、シャーバと話し合って決めて。本格的なことは、来週ぐらいになると思う」


「ちょっと待ってくれ!本当に、いい、のか?」


「うん。気にいってくれればね。でも、厨房の方は改築しないといけないと思うけれど。必要な道具や設備は言って」


「本当に、いいのか?」


「・・・さっきと同じ質問だよ、それ。いいよ。嫌なら、嫌だと言ってくれ」


「そ、そうじゃない。そうじゃ、ないんだ。・・・なんというか、現実、実感が、なくて」


「・・・あの」


 ヨナスはさっきから同じことしか言わないし、ミアは暗い顔をしているし。なにがそうさせるのか知らなけれど、どうしたら納得してもらえるのか。


「・・・あの」


 う~ん。やっぱり、メインストリートの方が商売としてはやりやすいのか?ホテルなんて、しかも高級ホテルなんて来る客層は決まってるし。

 接客となると絡みづらい客もいるし。


「・・・・・・・・・・・あの!」


「うわ?ああ。ごめん、ごめん。考え込んでた。何?どうしたの?やっぱり、ここはダメ?」


 やっぱり、気にいらないのかな。直接接客するミアにしてみたら、こういった場所は緊張して働きづらいかも。

 メインストリートの方の店も明日ぐらいに案内できるよう、手配しておくか?


「え、いいえ。・・・・そうじゃ、なくて。その・・・・・・私は、どうすれば、いいんでしょうか?」


「うん?・・・ああ。制服のこと?それは、どうしようか?まぁ、格式張らなくていいと思うけど。う~ん。他の店との釣り合いもあるから、何着か見てもらって気にいったものを着てもらおうかな」


「そうじゃなくて!!」


 いきなり大声に、俺はミアを直視する。さっきからずっと、いや、スーパーでの一件からずっと俺のことを怖がっていたミアが、やっと俺を見てくれる。

 その瞳には、恐怖があったけれど、それ以上に悲愴な覚悟があった。


「・・・そうじゃ、なくて」

「ミア・・・」


 ヨナスが、ミアの肩にそっと手を置いた。

 なんだか、二人の間では通じ合っていることらしい。

 俺だけがのけ者になった気分だ。


「私も、いて、いいんですか・・・・?」


 絞り出すように、吐き出すように、ミアは悲愴を目に宿しながら俺に言った。


「は?いいよ。俺は二人に来てほしかったんだから。居無くなってもらったら困る」


 それがあまりに必死に見えたから。俺は普通に答えた。

 だって、そんなに悲愴に思うことはない。そんな必死になることはない。

 二人がここでスイーツを作って、俺が食べに来て、食べられたらそれでいいんだから。


「だから。此処に居てよ、ミアもヨナスも」


 そうじゃないと、俺が困る。

 そう言った後に、シャ―バが来て俺は二人と別れた。

 日が昇って、沈んだ後日に会ったときは、ミアは初めに会った時のように笑ってくれた。





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