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おわりのおわり

 ようやくひと段落。

 あまりにあっけない落ちを持ってきてしまいました。。。

 新しいキャラが出てきますが、彼らの素性は後で出てきます。

 成年が一歩、踏み出す。

 それだけで、空気が変わった。


 夜が変質した(・・・・・・)


 なんら変わったことはしていない。ただ、踏み出しただけだ。

 それなのに、あたりに異様な重圧(プレッシャー)がかかる。


「っっっ!!」


 ミアを脅していた巨漢が、声もなく悲鳴を上げた。

 それは、耳に響くことなく、あたりに木霊することなく、霧散した。


「あ」


 巨漢は目を見開きながら、地面に崩れ落ちた。

 そして、悶絶する。気絶することを許さない一撃に為す術なく、地面をのた打ち回る。その姿を、呆気ないほど容易く倒れた大男を見ながら、アックスは複雑そうな顔をする。


 何故なら、この一撃はアックスが放ったものでない。

 アックスは、一撃で倒すことなく数度拳劇を楽しもうと考えていたからだ。一撃で倒れてしまっては、せっかくの楽しみが減ってしまう。

 それなのに、巨漢は倒れてしまった。

 倒されてしまった(・・・・・・・・)


「なんで、こんなことになってるんすか?」


 若い男の前に巨漢が倒れている。身動きが取れない巨漢の頭に、男は無遠慮に足を踏み下ろした。

 鈍い音が鈍く響く。しかし、それを咎めようとする者は、一人としていない。一人として、立っていなかった。

 夜のスーパーに、さらに人影が増えていた。

 深夜にしてはおかしなほど多くの人影が見える。それもそのはずだろう、後から集まってきた人数は10名ほど居た。

 そして、20数名の巨大な男が例外なく地面に倒れ伏している。


「それは、こっちのセリフだよ。せっかく良いところだったのに」


 アックスは、自然体で若い男と向き合う。

 不機嫌そうな顔に、少しすねた態度が不満を示していた。


「そうですか。他者の領域で好き勝手しては示しがつかないとは思わなかったんですか?」


 そんなアックスの姿に、若い男は苦笑いを湛えながら、横にいる同僚に説教を任せた。

 どちらも若い。

 見た目は20代の前半だろう。

 巨漢を倒したのは褐色の肌に、黒い髪、青色の瞳をもつ男。アックスに向かって諭すように説教をしたのは、ハニーブロンドの髪に緑の瞳の男。


 片方は軍人が着るような厚い布地の制服を着ている。

 片方は、知的なグレーのスーツをきっちりと着ている。


 ともに正反対の容姿と要式。

 しかし、アックスに対し共通の感情(・・・・・)を共有している。何故なら、彼らは家族(・・)なのだから。

 血をわけた(・・・・・)家族。血の繋がり(・・・・・)がある家族なのだから。


「う~ん。まあ、ここは俺の領土じゃないけど、どうにでもできるかと思って。それに――――、彼らを取られたくなかったからね」


「そうでしょうか?見ていましたが、それは奪ったことにならないのですか?」


「見てたの?まったく、油断できないなー。まぁ、奪った奪わなかったは本人たちに決めてもらおう。


 どうする? 一緒にくるかい?」


 アックスは、置いてきぼりにされているヨナスとミアを振り向く。

 そこには、変わらず恐怖に引き攣る顔があった。


 その態度に、後から来た男たちは露骨に嫌な顔をする者もいれば、苦笑いを湛える者、興味深げに二人を見るもの。それぞれの反応を示している。

 不思議なことに10名ほどいる人数の中で、誰一人として無関心なものはいなかった。

 誰もが黙って、中心にいるヨナスとミアを見る。話しかける者はいない。話す者はいない。ただ、じっと観察するように見ている。


 ヨナスとミアはその視線の中で、どうすべきか迷っていた。

 いや、より正確には、何を決めるべきか分からない、と言うべきだろう。


 いつの間にか、アックスとウォルガを巻き込んだはずのヨナスとミアが巻き込まれている状況になっている。

 なにがどうなっているのか。何故、巨漢たちは抵抗することなく地面に倒れているのか。二人には全く分からない。理解できないことだらけで、何を聞かれているかもいまいちピンときていないようだ。


「どうする?ここに残ってもいい、俺たちと来てもいい。ああ。そうなるとドイツを出ることになるのかな?まぁ。出国手続きはこっちでするから、来るか来ないかを決めてほしい。できれば、今この場で」


 アックスは、二人の目の前にしゃがみ込んで目線を合わせながら話す。

 二人の恐怖に染まる顔がよく見える距離だ。

 いや、近づかなくともよく見えている。よく解っている。

 理解、してしまっている。


 理不尽に感じることはない。

 不愉快に思うことはない。

 悲しくなることはない。


 そういうのには、慣れている。昔から、慣れてしまっている。今更、気にすることもないことだ。しかし、周りの、家族の反応が違うことも、また知っている。

 だから、アックスは目線を合わせることで皆からの目線を少しでも減らす。

 二人から、二人の答えを聞きたいと思っているからだ。


「君たちが作るスイーツは素晴らしい。俺はそれをさらに食べたい。食べつくしたい。でも、来たくないなら来なくいい。会いにも来ない。考える時間をあげたいところだけど、ここに留まるのは、今ちょっとできない。だから、答えて」


 ゆっくりと、一言一言かみしめるように、アックスはヨナスとミアに告げる。

 おそらくこれが、最後だ。

 最初で最後の、誘い。

 これ以降は、二度と二人の前に成年が現れることはないだろう。

 これが、最期(・・)

 唯一のチャンス。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・どこに行くんだ?」


 ヨナスが、応える。

 その声は弱弱しく、力がこもらない問いかけだった。


「・・・・・・・・わたしも、しりたい、です」


 ミアも応える。

 真っ青な顔に涙を湛えた瞳。あまりに痛々しい姿だ。


「・・・フランス。だよ」


 しかし、そんな恐怖に引き攣る二人に態度にアックスは笑う。

 楽しそうに、嬉しそうに、笑った。

 答えてくれたことが嬉しかった。話してくれたことが嬉しかった。

 怖がられることには慣れている。恐れられることには慣れている。

 それでも、応えてくれないことに傷つく。見てくれないことは哀しい。


「一緒に、行こうよ」


 嬉しそうに、楽しそうに、幸せそうに。

 まるで甘い、甘いスイーツを食べているときの顔で、アックスはヨナスとミアを誘った。





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