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つづきのおわり③

 魔物や妖怪が出てきますが、普通の武器も使っています。拳銃の種類など分からないので、そこは想像力にお任せします。

 いよいよ、クライマックスに近づいています。

 怖い。怖い。怖い。


 ミアは震えた。震えるしかなかった。ヨナスの腕の中で、子供のように震えることが今のミアにできる精一杯だった。

 ヨナスは、そんなミアの姿を見て巨漢とウォルガに震えているのだ、とは思わなった。ヨナスもまた、アックスの姿が視ているからだ。


 その本質が視える。


 なんということはない。

 この二人の目の前に、二人の近くにいる成年こそ、この場で一番恐ろしい存在なのだ。

 ヨナスの直感は正しかった。

 この二人に二度と会ってはいけないと思ったことは、正しすぎるほどに正しかった。

 間違いなく、会ってはいけない、出会ってはいけなかった生き物。


 それが、ヨナスとミアの目の前にいる。


 人間の目の前にいる。

 人とリザードマンのハーフの少女の目の前にいる。

 あまりに無防備に。あまりに自然と。

 それは、恐怖だ。


 交通事故はいつ起こるかわからない。災害はいつ襲い掛かるかわからない。難病にいつかかるかもしれない。

 そういった、日常の中の避けられない、避けようのない事態でも現象でもなかった。

 避けようと思えば避けられた。

 店を開けなければ、来店を許さなければ、椅子や机を進めて留めさせなければ。

 そうした、ちょっとしたことで避けられたはずだ。少なくとも、この怪物と会うことはなかった。

 楽しそうで陽気な成年のままの姿で記憶することができた、はずなのに。


 二人の目の間には、怪物がいた。

 どうしようもない現実に今まで遭遇してきた。経験してきた。体験してきた。なのに、なのに。

 これは、桁が違う。

 次元が、違う。


「うん?」


 二人の恐怖の眼差しに気が付いたのか、アックスがヨナスとミアに目を向ける。

 目線を向ける。

 それだけで、二人の顔が硬直した。

 蛇に睨まれた蛙のように。微動だにできなくなった。


 逃げることの放棄は、負けだ。

 諦めることは、死だ。

 勝ち目を逃したら、終わりだ。


 アックスは二人の恐怖にひきつる顔を瞳に映した。映した瞬間、ウォルガが巨漢に向かって駆け出した。いや、迫った。まさしく、一瞬で肉薄した。

 巨漢はウォルガを迎え撃つように、角を突き出す。

 巨大な角だ。闘牛の角。先が鋭く尖り、巨漢の肩幅近くまである太い角。その威容は盾と矛を同時に繰り出すかのようだ。


 一瞬の邂逅。


 血を流したのは、ウォルガだった。


 静寂があたりを包む。


「へぇー」


 一瞬の静寂後、驚いたような声を出したアックス。驚きというよりも、関心に近い声色だ。


「これはこれは。勢ぞろい、か」


 そして、あたりを見渡す。

 スーパーの周りには、目前にいる巨漢と同じような体格の男が20人以上いた。いつの間に来ていたのか。これほどの人数で、それも巨大な姿、いくら周りが漆黒の闇でも接近してくれば嫌でも気が付く。いや、気が付いていた。

 少なくとも、アックスとウォルガは感知していた。

 ヨナスとミアは、アックスに気を取られ気づくことができなかったが、破裂音(・・・)で周りの状況がようやく分かった。


 破裂音。

 ウォルガの腕から流れる血。


「飛び道具なんて使うんだ、君たち。なんて言うか・・・イメージに合わないよ。その筋肉は何のためにあるんだい?」


 スーパーの入り口付近にいる巨漢が、おもちゃのような銃を構えている。

 銃がおもちゃだと思えるほど、その巨漢の腕は太く大きい。まるであっていない。

 小口径の銃だと勘違いしてしまいそうだが、実際に近くで見ることができれば、それは大口径の拳銃であることがわかる。

 間違っても片手で撃てるほど、衝撃が小さい銃ではない。


 その銃の先に、アックスがいる。


「卑劣だと笑いたければ笑え。少なくとも、素手で貴様らに勝てると思えるほど、我らは短い時を生きてはいない」


「笑わないさ。笑えないよ。そんなものを使おうと、使うまいと、結局負けるんだから。いや、ソレのせいで君たちの負けは確定した、といっていいかな」 


 大口径、それも肩を撃たれたならば腕ごと千切られる威力を持つ銃を向けられながらも、平然と、悠然と、余裕たっぷりにアックスは笑う。

 笑う。


 その姿に、銃を持つ巨漢が身を引いた。無意識にではない、意識して一歩退いた。

 迫力があったわけでも、圧迫感を感じたたわけでも、ましてや恐怖を感じたからではない。


 無邪気。


 あまりに、無防備。

 まるで誘っているように。

 拳銃の前に無防備な体をさらけ出している。

 それはあまりに異質だ。こと人間から見たら、巨漢たちも異質であるだろう。けれど、これは性質が違う。あまりに、違う。

 その違いに、巨漢は体を退いたのだ。

 しかし、退いた先に灰色の獣がいた。


「まぁ。あんまり、ウォルガの前でそんなことはしないほうがいいと思うけれどね」


 アックスの言葉は、拳銃を構える巨漢に最後まで届くことはなかった。

 早業。

 巨漢の前にウォルガが居た。いつ居たのか、いつ移動したのか。その場の誰もが視認することができなった。気が付いたら、巨漢がスーパーに突っ込んでいた。

 分厚いコンクリートと鉄筋の壁を突き破り、スーパーに侵入していた。


「は?」


 その一言は、誰が漏らしたものだったか。

 ヨナスかミアか、それとも周りにいる巨漢たちか。

 わからないが、一つだけはっきりしていることは、アックスだけは理解しているということ。笑みを湛えながら、ウォルガの背中に視線を注いでいる。

 

「さてさて。ウォルガが一番厄介な奴を倒してくれたから、俺も少しはやりますか」


 黒い成年が一歩、夜の舞台へと上がる。




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