つづきのおわり②
やっと、いろいろな謎が解けます。
ヨナスとミアの関係。アックスの本性と、ウォルガの攻撃性が出ていると思います。
「・・・別にどうすることもない、かな。まぁ、二人が望めば手ぐらい貸すけれど」
そういって、アックスは、ヨナスとミアを見る。
この時、彼らはお互いの自己紹介などしていない。もちろん、名前も知らない。それこそ、客と営業者の関係でしかない。
それなのに、アックスは手を貸すといっている。理由がわかっていながら、助けるといっているのだ。
「ふん。そんなことはすまい。なぁ、おまえら。おまえらはここから出ても同じことの繰り返しなのだ。なばら、どこへ行こうと同じことだろう?」
アックスの言葉に焦ったのは巨漢だった。
まるで、ヨナスとミアを離すまいとしているかのようだ。
「・・・」「・・・」
しかし、焦る巨漢とは反対にアックスの言葉に、二人は特に反応を見せなかった。
それは、巨漢の言葉が正しいからだ。
ミアが行く先では、どこも一緒なのだ。ならば、ヨナスも同じだ。この生活は変えられないものなのだから。
「え?別に、お金いらないよ。ただ、俺のためにいっつもスイーツを作ってくれるなら。その約束を守ってくれるなら、お店も出してあげる」
反応しない二人に代わって巨漢の言葉に反応したのは、アックスだった。
アックスの提案に、今度はヨナスとミアも反応した。
「・・・・みせ?」
「うん。屋台でも、今みたいな営業車でも、それこそ、一店舗でもいいよ。俺の縄張り限定だけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うそだ」
「うん?」
ヨナスの声がよく聞き取れなかったのか、アックスが聞き返す。
「・・・・・・・・・・うそだ。そんなこと、ありえねー」
「うん?」
「ありえねーつってんだ!!」
「ああ。いや、ごめんね。聞こえてはいるだよ? ただ、うん。意味が分からない」
アックスはヨナスの大声に迷惑だとばかりに、顔をしかめる。しかし、ヨナスはそれどころではない。
なんだっ。なんなんだよ!こいつは!
まるで、ヨナスの心をもて遊んでいるかのように希望の言葉を投げかけてくるアックスに、ヨナスは強い苛立ちを覚えた。
今までそんなことを言ってきた種族はいない。
今まで多くの土地を放浪するように渡ってきたが、結局はどこも同じだった。
今まで縋り付きたくなるような言葉を投げかけてきたものに着いていき、どれほど失望させられただろうか。
それなのに、それなのに!
また、同じことを繰り返しそうになる自分にヨナスは強い苛立ちと、アックスに嫌悪を向ける。
「どこも同じだったのなら、どこへ行こうと同じだろ」
そんな滾るような激情のなか、冷えた声がヨナスの心に突き刺さった。
「ならば、好きな所へ行けばいい」
「てめっ・・・!」
ウォルガの言葉に、ヨナスは拳を握りしめる。
「好きな、所だと・・・・。そんなもんは、どこも同じだったっ」
「そうか。縋ることを諦めたなら、まぁ、そうだろうな」
「っ!」
「縋ることもできない者は、結局何も掴めない」
「言いたい放題言いやがって!何様だてめー!!」
ウォルガのあまりの言い草にヨナスが切れた。
それは、そうだろう。上からの言葉に、反論をさせない威圧感。決めつけるその態度に、ヨナスでなくとも声を荒げるだろう。
しかし、ウォルガはそんなヨナスを熱のこもらない目に捉えるだけだった。
「人狼」
アックスと同じようにどうでもいいように、ウォルガは自らの種族を明かす。
「じっ!?」
「人狼だと!!」
その一言に巨漢が牙を向いた。その頭部には、再び牛の角が生えていた。
吸血鬼。
人狼。
ともに、知らないものがいないほど有名だ。
わざわざ明記する必要もないほどに。
「なぜっ。人狼と吸血鬼が一緒にいる!」
「別に変じゃないよ?知ってる人もいるだろうけど、俺たちは同じ種族としても見られるしね。吸血鬼の下僕が、狼男っていう説もあるぐらいだし。吸血鬼の眷属が人狼っていうのは結構定説だよ」
ヨナスの狼狽ぶりにアックスが苦笑いで答える。
その傍らには、ウォルガ。
正面を向き、牙をむく闘牛に鋭い視線を投げている。
「よくも我らが縄張りに足を踏み入れられたものだな!」
殺意がこもった声で、巨漢が吠える
「古い昔のことを持ち出してこられても困るのだが」
対するウォルガは至って冷静だ。
「まぁ。攻撃するというなら。食い殺すまでだが」
冷静に相手を捕食しようと牙を覗かせる。
一触即発。
巨漢とウォルガの間に、絶対零度の殺意が湧き上がっている。
ミアはこの状況をどうにかしなければと、ヨナスの腕の中で考えていた。こうなたのは自分のせいだ、と感じているからだ。
巨漢が訪れたのはここにミアがいるからだ。たまたま二人が来たのは偶然だ。それなのに、争うことになるなんて、それは、おかしいことだ。
ミアはアックスを見る。
この中で、ウォルガを止められる、巨漢を諌められるのは異種族であるアックスだけだと思ったからだ。
人間であるヨナスに頼るわけにはいかない。今まで、多くの迷惑をかけてきたのだ。ここでこの平穏を、やっとつかめた幸せをなくすわけにはいかない。
ミアは、期待のまなざしをアックスに向ける。
アックスは、常のように笑っていた。まるで、恐れることなく、臆することなく。
目の前に、楽しそうなアトラクションが、ほしかったゲームが在るかのように。楽しそうに、眺めていた。
まるで、
スイーツを目の前にしているような、
期待を覗かせていた。
「っ!!」
このとき初めてミアはアックスを視た。
楽しそうにスイーツを見ていた。
嬉しそうに食べていた。
幸せそうに話ていた。
そんなアックスの姿ばかりを見ていた。
今のアックスはその姿とほとんど変わらない。
楽しそうに眺めている。
嬉しそうに期待している。
幸せそうに微笑んでいる。
なんで、そんな顔ができるの・・・
目の前に迫った巨漢より。牙を剥き出しにしているウォルガより。
アックスの姿が、恐怖そのものにミアの目には映った。