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つづきのつづき②

 ほとんど、動いていない・・・・。もう、彼らはスイーツしか食べないキャラになってしまいましたが、やればできる二人です。今回は、ヨナスとミアの事情が分かると思います。

 アックスとウォルガはスーパーの片隅で、スイーツを食べていた。

 どうやら、昼間営業しているらしいヨナスとミアは、外で座って食べられるように何脚かの椅子と机を出しているらしい。

 仕舞ってあった椅子と机を外に出してもらい、二人はその場でデザートを食べていた。


 もちろん、きちんとお金を払って。


 出来たてのものを求めていたアックスは、それに小躍りして喜びを表した。

 持って帰っては時間がかかる。だから、すぐに食べられて嬉しい、と少女と店長に抱きつきながら感謝した。

 それに困ったのはミアで、いきなりのはハグに戸惑い成年の喉におもいいっきり肘をぶつけてしまった。

 しかし、アックスは少しもひるむことなく思いっきり抱きしめ、ヨナスからすぐに引き離されることとなった。

 力加減でいえば、ヨナスの方が荒々しく暴力的ではあったが、アックスは臆することなく笑っていた。


 そんなやりとりを、やはり手を出すことも口を出すこともなく、ウォルガは黙って見ていた。


 自分には関係なにとばかりに。

 しかし、しっかりと目線を向けて。

 そこに、感情がないからか、少女も店長も視線に気づかない。


 自分が知らないうちに見られていることに、気付かない。


 アックスが席に着くと、ウォルガも席につく。

 それこそ、ヨナスとミアを観察していなかったかのように。

 ヨナスがはじめウォルガを警戒したのは、彼があまりに希薄だったからだ。


 体は大きい。

 銀色に近い灰色の髪は酷く目立つ。

 目は鋭く、何を考えているか判らない無表情。


 そんな特徴的なのに、印象に残りにくい。

 馴染む。

 と、いっていいのだろうか。

 あまりに、風景に馴染んでいる(・・・・・・・・・)

 だから、記憶に留まりにくい。


 例えば、思い出を思い起こすとき、人物は思い出しても、風景の細部までは思い起こすことはない。その場の風景を、細部に至るまで記憶している者などいないだろう。

 ウォルガは人物ではなく、風景のように、細部の印象が薄い。希薄、なのだ。

 警戒しなければ(・・・・・・・)意識できない(・・・・・・)


 しかし、アックスはその逆。

 一番に印象に残る。決して忘れない。数年後に再会しても、初めの出会いまで鮮明に思い出すことができるだろう。

 強烈、なのだ。

 心の中に、刻みつけていく。

 そして、無意識のうちに目に留めても、覚えてしまう。

 そんな存在感がある。

 それが、アックスの人柄ゆえか、それとも別の何かか。

 

 恐ろしほど希薄なウォルガ。怖ろしいほど強烈なアックス。

 そんな二人が、そろってスイーツを食べている。いや、食べているのは、ほとんどアックス一人だ。ウォルガはたまに、一口もらう程度で食べずに眺めている。

 甘い物が苦手なのか、それとも、単に食べたくないだけか。

 それは分からないが、その目元が、少しだけ柔らかくなっているようにも見える。


     ★


「変な二人、ですね・・・」


 ミアが、楽しそうに食べているアックスと、ただただ無表情に眺めているウォルガを伺い見て、呟いた。


「そうだな。・・・あんまり、一人で近づくなよ」


 ヨナスはまるで危険人物に近づくなと釘を刺すような迫力で、ミアの目を見る。


「・・・悪い人たちではないと思いますが」

「男はすぐに悪人になる」


 何を根拠に言っているのか判らないが、店長も男ですよね、の一言をミアは飲みこんだ。

 この大柄で繊細な心を持つヨナスは、自分のことを心配しているのだと分かっている。

 だから、ミアはヨナスのことが心配でならない。


 変な気苦労を与えていないか。

 気を使いすぎて疲れていないか。


 そういった心配を、常にヨナスに対して抱いている。

 

 頼るべき相手であり、信頼すべきものはヨナスしかいない。


 ミアは、他に手段など持っていない。

 だから、共に居ることのできる唯一のヨナスを心配している。


 そうミアが思っているが、ヨナスもまたミアを支えとしている。

 ミアが居無くなれば、それこそ、ヨナスは生きることすら放棄すると考えるほどに。

 それは、「愛」と呼ばれる感情だと認めているが、それよりももっと重い物だとヨナスは自覚している。

 自分の腕が世界に認められることが無くなっても。路地で売るスイーツを作るだけで精一杯になっても。悔しく、惨めな思いを幾度味わおうとも。


 ミアが居てくれるなら、ヨナスは自分の居場所はどこでもいいと思っている。


 それが、ヨナスが抱える事情だ。

 これは、どうにもならない。心が“それ”を求めてしまっている。


 例え世界に誇れる腕前を持ちながらも、ミアが傍から居なくなることの方がヨナスにとっては恐怖すべき事なのだ。

 ミアが抱えている事情を踏まえて、広い世界に出ていってしまっては、必ずミアは離れていく。

 これは確定事項だ。


 二人は雁字搦(がんじがら)めに、お互いを縛ってしまっている。

 それは、ある意味で支えあっている。

 強靭にして脆く。

 儚くとも堅固。

 そが、二人の間にある絆の形だ。


 しかし、今宵、この時、この夜の瞬間に、新たな形が生まれることになる。



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