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プロローグ あと一駅すぎたら

 ――あと一駅すぎたら。



 毎朝同じ時間、決まった車両の同じ場所。

 ドアから一番近いすみっこを定位置にして、俺はいつも本を読んでいる。

 早い時間だから乗客はまばらで、入学以来ずっと同じポジションに座ってる。

 乗った駅から三駅目、そろそろだ。


 開いた小説に視線を落としながら扉に意識を向ける。

 電車がホームに滑り込み、俺のすぐ横にあるドアがスライドして開く。


 来た。


 視線を本から離さず、乗り込んでくる一人の足音に耳を澄ませる。

 すぐ横を通ったのは、俺とは別の制服を着た男子高校生だ。

 彼はいつものように俺の向かいに座る。

 さりげなく視線を動かしてちらっと様子をうかがうと、彼は鞄から文庫本を取り出した。


 横溝正史……?


 渋いな、と思いつつ自分の本に目を落とす。最近ミステリーにはまっているらしい彼につられて、俺は館ものにどハマりしていた。


 相変わらずイケメンだなぁ。


 時々、視線を上げて彼をチラ見する。

 伏し目で本を読んでいる顔はとんでもなく整っていて、ピアスもしてるし髪も茶色で明るい。多分、クラスでは間違いなく一軍所属の陽キャ男子。自分のクラスにいたら、俺はプリント配る以外で絶対に声をかけられないタイプ。

 なのに通学中、彼はスマホの画面じゃなくて小説本を開いて読んでるんだ。意外だから、ついつい見てしまう。


 二十分ほどで、電車は彼が通う高校の駅に着く。ブレザーのデザインで高校がどこなのかはわかっている。元々男子校で最近共学になった、有名私大の付属高校だ。


 彼は本を鞄にしまって電車を降りていく。

 出ていったのをちらりと確認して、俺は自分の本に目を戻す。


 入学して半年。毎朝向かい合わせで本を読んでいる。

 名前も知らないし、声も聞いたことない人。

 でも、本の趣味は合うかも。

 なんて考えては、今日は何を読んでるのかな、と思ってちらちら見てしまう。


 早朝の電車に乗るようになってはや数ヶ月、俺は彼のことが気になっている。


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