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蜥蜴と蝶の島  作者: 南田萌菜(ナンディ・モイーナ)
いつきぽうぽ

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8/11

3,アンダーソン君

「そうか、そんなことが…」

 洒落た青いクッションの上に胡坐をかいたアンダーソン…下村龍之介は、ふむふむと彼の癖である、顎を触るポーズで頷いた。


「そう、だから早く来ようと思ってたんだけど、これはアンダーソン君にも話さなきゃと思って…」

 八尋は同じクッションの色違い、赤いものを抱いて床にペタン座りをしている。

「それでパキカも忘れたと」

 アンダーソンはじろりと八尋を見た。

「ごめん…」


 アンダーソンは立ち上がり腰の後ろで手を組み窓の外を見た。

 彼の家は小高い丘の上にあり、街並みや遠くに海、さらに遠くに別の島の緑が見える。

「君の判断…、これは…」

 アンダーソンは暗い、落ち着いた声をだす。

 八尋はこのパターンを知っている。

「正しかったと言わざるを得まい」

 ほらきた。

 アンダーソンはこういうのが好きなのだ。

 くるっと振り向いて八尋を指さしポーズを決める。


「まあ今日はパキカのヒルトン(岡敦)対策だったわけだが。アンディ、君の出版すべきレベルのお姉さんナラシオンと比すれば、そのコンテンツ力の差は歴然だ」

 だそうです。


「ところでその千夏さんと言う方の話は初めて聞くのだが。その、やはり雪江さん同様むちむちなのだろうか?」

 八尋のすぐ横ににじり寄り、アンダーソンの息は荒い。

「ゆうちゃんよりも体が大きくて、かなり…。僕は水泳と関係しているんじゃないかと思うんだ」

「なるほど水泳…。考えたな」

 何をか。


「しかし君に以前見せてもらった雪江さんの写真。確かにお美しい方ではあったが、あまりあの姿と君の言うむちむちと言う言葉がかみ合わないのだが」

 アンダーソンは一連の会話に満足した様子で、笑顔でため息をつきながら八尋を見た。


「写真?ああ、これ?これは去年のお盆の写真だからまだゆうちゃんは中学生だよ」

 八尋はそう言ってスマホを取り出し、その写真を見せた。

 浴衣姿の、少し日に焼けた雪江が写っている。


「その写真だ。すらっとした方で、君の言う「むちむち」がどういうものをさすかよくわからないんだ」

 片肘をついたリラックスした態度でアンダーソンは困り顔を見せた。


「今の写真がないから何とも。でも今は本当にむちむちなんだ。一月に香取神社にお参りに行って、そこでゲームとかして。受験生だったしそれきりしばらく会わなかったんだ」

 ほうほうと顎に手を当て聞き入るアンダーソン。

「そして三月に高校受かったって報告があってお父さんとお祝いに行ったら、高校の制服姿で待っててくれたんだ。その時にはもう、むちむちだった…」

「なんてことだ…たったの二か月で…」

 二人は眉をひそめ、真剣な顔で語り合った。


 アンダーソンは頭がよく、進学塾の特進クラスに通っている。小学校を出たら島を出て私立中学、成績によっては県外に出る可能性もあるという。

 部屋も本棚が目立ち、参考書や問題集、図鑑が並ぶほか、小学生はあまり使わないようなサイズの辞書。漫画もあるがそれは歴史漫画、偉人を題材とした漫画だった。

 そんな絵にかいたような優等生の部屋で、優等生のような見た目の二人が、真面目な顔をしてそんなに真面目じゃない話を真剣にしている。


「制服のせいかとも思ったんだけど…、ひょっとして高校生になると自然とむちむちになるんじゃないかと思ったんだ。そうじゃなきゃあんなの説明がつかない…!」

「そんな話は聞いたことがない。僕には兄がいるが、彼には高校生になってもそんな身体的変化は見られなかった。」


「違うんだアンダーソン君。君のお兄ちゃんは男子高校生でしょ?ゆうちゃんは…」

「…女子高生!?」


 アンダーソンは顎に当てていた手を額にぺちっとあて、目を丸くして八尋の目を見た。


「ああ、なんてことだアンディ。君は、君はいつだって僕の思いもよらない…。君はこの島に来て、僕と出会って一年三か月になるはずだ」

「そうだね、三年生の三学期から」

「僕は君を歓迎する。君がこの島に来たことを、この島を代表して。そして君が僕と友達になってくれたことを心から嬉しく思う」

 アンダーソンは立ち上がり、大げさにそう言って握手を求めた。


「君時々それ言うね。もう何回も歓迎されてるんだけど。勝手に代表して」

 僕もアンダーソン君と仲良くなれてうれしい。それは思ってても言わないアンディは少し照れている。

 握手はしない。

「歓迎なんて何回したっていいんだ。祝い事は何回だって。それに君を歓迎することにおいて僕以外に代表できるものなんていない」


 なるほど。と八尋は思った。

 アンダーソンは頭いいくせにいつもこんな芝居がかった口調で変なことばかり言うものだから、八尋の中では奇人よりの評価ではあった。

 しかし時々こういうことを言うのだ。それは彼の人柄の良さによるものかもしれないし、あるいは案外偉人の言葉か何かで、彼の知識の深さによるものかもしれない。

 ともかく、アンダーソンに対し八尋はしっかりと尊敬している面があり、だからよく一緒にいる、一緒に居たいと思わせるのだった。


「ただ、さっきの話続きがあって…」

 八尋はうつむいて申し訳なさそうにアンダーソンを見た。


 それを聞いてアンダーソンはハッとする。

「聞かせておくれよ、君の話を。僕はいつだってそうしたいんだ」


「実は今日、いや昨日も別の人に会ったんだ。リンダのお姉さんに」

「リンダのお姉さん?あの御子に選ばれた?」

「そう。僕は昨日初めて見たんだけど、すごく美人だったんだ」

「へぇ、やっぱりリンダに似てその、物静かな感じかな」

 アンダーソンは言葉を選んだようだった。


「アンダーソン君は日見大祭で見てないの?僕はイカ焼きを見てたから」

「僕はイカ焼きを食べる君を見てた。いやあ、あれは実に笑った。あんなに一生懸命、しかもイカ焼きを二本も持って…」

 思い出し笑いをするアンダーソンを見て八尋は慌てた。

「ちょっとまって!僕はイカ焼き二本食べたけど一本ずつ食べたよ!」

「いーや、君は両手にイカ焼きを持っていた。僕の記憶力は知ってるだろ?イカ焼きを一本ずつ食べたくらいじゃあんなに笑わない。僕は君がイカ焼きを二本持ってたから笑ったんだ」

 アンダーソンはまだくすくす笑いながら言った。少し涙目になっている。

「そんな、いくらなんでもそんなこと…」

「いや、話を先に進めてくれ。イカ焼きの話の決着はいずれ、パキカで…!」

 半笑いのアンダーソンにムッとしながらも、八尋は詩織の話を始めた。


「その、リンダのお姉さんは明るくて、顔は似てたけど。そしてあまりむちむちではなかったんだ。たぶん…あれがスレンダーと言うものなんだと思う」

 頷くアンダーソンは眉をひそめ思考する。

「では君の女子高生になると途端にむちむちになるという話はなしになるな。制服による特殊効果でもなく…、何か発動条件があるのだろうか」


 二人は考え込んでしまった。

 そしてアンダーソンはなんだかもじもじしている八尋に気づいた。

「どうしたんだいアンディ、まだ何か続きが。それとも何か言いづらいことが?」


 八尋は顔を上げた。

「そして今日、家に帰る途中でまた会ったんだ。その時リンダのお姉さんは、その…メガネをかけて…」


 一瞬の静寂。

 そしてアンダーソンは頭を抱えた。

「なんてことだアンディ!君の業の深さときたら!ああ、うかつに君を歓迎なんかするんじゃなかった!」


 アンダーソンの言葉に驚き八尋は目を丸くし、彼を見上げた。

「え!さっき歓迎してくれたばかりじゃないか!」

 持っていた赤いクッションを彼に投げつける。

 

 アンダーソンは頭を押さえたり顎を触ったりして落ち着こうと部屋をうろうろ歩き回った。

「違う、違うんだ、アンディ、すまない。僕が、僕なんかが軽率に歓迎していい人物ではなかったのではないかと、そう思って。なんなんだそのキャパシティは…。まさかメガネもなのかい?」


 八尋は焦って手を振って、少し照れているようで早口になる。

「昨日はかけてなかったんだ。でも今日はかけてて。その違いが。昨日との違いで、その…」


 その様子を見てため息をつくアンダーソン。

「いや、さっきの言葉は訂正する。やはり僕は君を歓迎する。ただ、少し悔しかったんだ。僕は自分のことを頭がいいと思っているんだが、それがまさかこんな形で差が、こんなにも大人な同級生がいるなんて」


 アンダーソンは慈しみすら感じる表情で八尋を見た。

 八尋もそれに応えるよう見つめ返し、なんか頷いた。


「ところでゆうちゃんち香取神社でしょ。お正月には家の手伝いで巫女さんやってて…」

「まだあるのかい!?」


 話は尽きなかった。

 これが友情なんだと思う。

 思春期の入り口に立つ二人の、ぎりぎり卑猥にならない程度の性の目覚め。

 こういうのいいですよね。


 のちのパキカバトルの結果、八尋はイカ焼きを二本持ってたことになります。

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