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32歳、人生リセット、ただし異世界で  作者: トール
五章 欠けたピース

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失われた記憶と欠けていたピース

 俺は、食料品の錬金術に没頭していた。その日の夕食は、カレー粉を使った料理にしようと思い立ち、自家製カレー粉のレシピを錬金術のメニューから呼び出す。


 自家製カレー粉は、クミン、コリアンダー、ターメリックの3つをベースに、好みに合わせて辛味や香りを調整するのがおすすめです。


 俺は、近くにいた調理ゴーレムに、レシピを見せる。


「これを作ってみろ」


 俺の言葉に、調理ゴーレムは、その巨体を揺らし、レシピをじっと見つめている。


「ガ、ガー……」


 ゴーレムは、首を傾げ、混乱しているようだ。


(まさか、このレシピが理解できないのか……?)


 俺は、ゴーレムの様子を見て、不思議に思う。


 材料

 クミンパウダー: 小さじ3

 コリアンダーパウダー: 小さじ3

 ターメリックパウダー: 小さじ3


 ゴーレムは、レシピを読み、その大きな頭を左右に振る。


「ガガ、ガー……!」


(どうやら、パウダーにする工程が抜けていることが混乱の原因か……)


 俺は、ゴーレムの様子を見て、納得した。


「よし、香辛料をパウダーにするところから始めよう」


 俺は、以前ジルベルトが、東のアースガルド王国の要塞都市から仕入れてきた香辛料を取り出す。それは、ウコン、クミン、クローブ、コリアンダー、トウガラシ、フェヌグリーク、シナモン、カルダモン、ブラックペッパーといった、色とりどりのスパイスや香辛料だった。


 俺は、ウコン、クミン、コリアンダーを手渡し、ゴーレムに告げる。


「まずは、パウダー状に整えてみようか」


 俺の言葉に、調理ゴーレムの目がきらりと光った。


「ガガ、ガガガガガ!」


 ゴーレムは、俺の言葉を理解したかのように、力強く頷く。


(よし、まずは基本からだ!)


 俺は、クミンパウダー、コリアンダーパウダー、ターメリックパウダーを、それぞれ小さじ3ずつゴーレムに手渡し、混ぜ合わせるように指示した。ゴーレムは、その大きな手で、慎重にスパイスを混ぜ合わせる。


 次に、俺は、カルダモン、シナモン、クローブ、ローレル、オールスパイス、ガーリックを少量ずつ取り出し、ゴーレムに手渡した。


「次は、このスパイスを少量ずつ入れて、香りを試してみよう」


 ゴーレムは、俺の指示に従い、一つずつスパイスを混ぜていく。


「ガガ、ガガガガガ……?」


 ゴーレムは、香りを嗅ぎ、首を傾げる。その様子は、まるで、俺に「これでいいのか?」と聞いているかのようだ。


 俺は、さらに、チリーペッパーとブラックペッパーを少量ずつ混ぜ合わせるように指示した。


「この辺は好みだからな。少しずつ入れて、辛さを調整するんだ」


 俺の言葉に、ゴーレムは、慎重に辛味を加えていく。


「ガガ、ガガガガガ!」


 ゴーレムは、力強く頷き、完成したカレー粉を、俺に差し出す。


 俺は、すべてのスパイスが混ぜ合わされたカレー粉をフライパンに移し、弱火にかける。


 ジュワワワワワワワ……!


 部屋中に、スパイシーな良い香りが漂う。


 俺は、その香りを嗅ぎ、目を閉じた。


(うっしっし……! 完璧だ!)


 俺は、この時点で、すでにカレーを食べたかのように満足していた。


 俺は、最高の香りを放つ自家製カレー粉を手に、調理ゴーレムに告げた。


「よし、チキンカレーを作ってみよう。」


 俺の言葉に、ゴーレムは、力強く頷く。その目は、すでに料理人としての情熱に燃えていた。


 俺は、鶏もも肉、玉ねぎ、トマト、生姜、にんにく、基本カレースパイス、塩を準備し、調理に取り掛かる。


 俺は、ゴーレムに、材料の切り方を指示し、俺は、魔力を使って、火加減を調整する。


 ジュワジュワ……!


 玉ねぎが炒められ、甘い香りが漂う。


 俺は、ゴーレムに、鶏もも肉、トマト、生姜、にんにくを鍋に入れるように指示した。


 グツグツグツ……!


 鍋の中では、具材が煮込まれ、スパイシーな香りが部屋中に広がる。


 そして、俺は、カレー粉を鍋に入れ、かき混ぜる。


 シュワワワワワワ……!


 カレー粉が溶け出し、カレーの香りが、俺の鼻腔をくすぐる。


「ガガ、ガガガガガ!」


 ゴーレムも、その香りに、興奮しているようだ。


 俺は、最後に塩で味を調え、ご飯を盛った皿に、カレーをかける。


 そして、俺は、スプーンでカレーを一口食べる。


「うっ……!」


(う、うまい……! 俺、天才か……!)


 俺は、この世界で、最高の料理人になったのかもしれない。


 しかし、


 美人は三日で見飽きる。


 美食は三日で食べ飽きる。


 そんな教訓を、俺は今、身をもって知ることになった。


「う、うまい……! 俺、天才か……!」


 俺は、調理ゴーレムとともに作ったチキンカレーの味に、感動の涙を流した。


 その日から、俺の毎日は、カレー一色になった。


 朝食はカレー。昼食もカレー。夕食もカレー。


(うっしっし……! こんなにうまいものが、毎日食べられるなんて、俺、マジで幸せだな!)


 俺は、毎日、カレーを食べ続けた。


 だが、三日目には、すでに異変が起きていた。


(うわぁ……。またカレーか……)


 俺は、カレーを前に、食欲が湧かない。


 そして、四日目。


「ガガ、ガガガガガ!」


 調理ゴーレムは、得意げにカレーを差し出す。


 だが、俺は、その香りを嗅いだだけで、胸焼けがした。


「い、いや、ゴーレム……。今日は、いい」


 俺の言葉に、ゴーレムは、首を傾げる。


 俺は、美食は三日で食べ飽きる、という教訓を聞きたいわけではない。だが、その教訓が、俺の脳裏に、深く刻み込まれてしまった。


 調理ゴーレムは、俺の理解不能な拒否にも動じず、ただ静かに後退し、退出していった。俺はベッドに大の字に倒れ込み、天井を見つめていた。素晴らしいカレーを作り上げた感動はどこにいってしまったのだろう……。


 数分後、扉がノックされる音がした。


「御屋形さま、アリアにございます」


 …ちくしょう、ゴーレムのやつ、報告しやがったな。


 俺は仕方なくベッドから飛び起き、返事をした。


「……入れ」


 扉が開き、アリアが静かに入室した。彼女の手には、カレー皿が2枚乗ったトレーがあった。


「調理ゴーレムからご報告がございました。この素晴らしいカレーを拒否されたとか」


 アリアは、淡々とした口調で、俺に告げる。


「ああ、悪いな。今日は少し気分が乗らなくて」


 俺は気まずく言い訳をした。


「わたくし、御屋形さまとご一緒いたしたく、まいりました。」


 アリアは、テーブルにトレーを載せて、俺をじっと見ている。


「わたくしには、このカレーは、辛すぎました。それで、クイーンビーのハチミツを合わせてみました。」


「むむっ? ハチミツだと?」


 俺は、アリアの言葉に、思わず声を上げてしまった。


(カレーにハチミツ……? いや、まてよ……。前世の記憶では、そういうレシピもあったような……!)


 俺は、アリアのハチミツカレーに、驚きを隠せない。


(マジか! アリアにそんな能力があるとは)


 アリアは静かに上家の席(自分の左側の席)に座って、俺に告げた。


「御屋形さまの前世の記憶から頂戴しました。リンゴのすりおろしも加えてあります」


 俺は、スプーンを手に取って、リンゴとハチミツ入りのカレーにむさぼりついた。


 口の中に広がるのは、スパイスの辛さを抑えた、フルーティーでまろやかな甘さ。それは、俺の前世の知識で作ったカレーとは、全くの別物だった。


 その味は、俺の脳裏に、遠い記憶を蘇らせる。


 家族みんなで一つの鍋を囲んで食べるカレー。それは、団らんの象徴だった。親が子どものために甘口を作り、大人は後から辛味を足す。誕生日や特別な日には、母が必ず作ってくれた。そのカレーは、喜びや家族の温かさを感じさせてくれた。


 はちみつ入りの甘いカレーは、単なる食べ物ではなかった。それは、家族のぬくもりや大切な思い出が詰まった、心の味だった。


 俺は、一心不乱にカレーをかき込み、気づけば、俺の目から、大粒の涙が流れ落ちていた。


 顎に垂れてきた水滴を拭って、俺は初めてそれが自分の涙だと気づいた。


 その瞬間、上家の席から右手が伸びてきて、アリアがその涙を拭ってくれる。そのしぐさには、まるで子供の俺を優しく見守る母の姿がダブっていた。


 俺の心にぽっかりと空いていた穴が、そのカレーによって埋められていくような感覚だった。


 俺は、恥ずかしげもなく、大声をあげて、泣き出した。


 子供の頬を濡らす大粒の涙を、母親の温かい胸がそっと受け止める。世界で一番安心できるその場所で、俺の小さな背中はまるごと包み込まれ、不安で震えていた肩の力がゆっくりと抜けていく。


 母親は何も言わず、ただ優しく強く抱きしめている。規則正しく聞こえてくるトクトクという心臓の音と、お腹から伝わる温かさは、子どもに「一人ではない」という安心感を与えてくれる。背中に回された大きな手が、ぽんぽんと優しくリズムを刻み、耳元で「大丈夫だよ」と静かにささやく。


 やがて子どものすすり泣く声は落ち着き、安堵に満ちた静かな寝息へと変わっていく。その姿を見つめる母親の表情は、慈愛に満ちた穏やかな光をたたえている。


 俺は、失われた記憶と、自分に欠けていたパーツを見つけ出した瞬間だった。






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