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32歳、人生リセット、ただし異世界で  作者: トール
四章 圧力と妨害

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幕間(4)

 ゼノクラシア王国の勝利の喧騒から遠く離れた、人里離れた「マナの泉」。そこは、この国に流れる魔力の源である。アリアをはじめとする精鋭部隊をすべて王都奪還に派遣した俺は、ここで、たった一人、襲い来るワイバーンの群れを迎え撃っていた。


「こちらエアペガサス01(ゼロワン)、御屋形さま応答願います」


 無線機から響くのは、ダービーの声。俺は、その通信に冷静に答えた。


「ダービー、迎撃を許可する」


 俺の言葉に、ダービーは応える。その巨体は、一瞬にして飛行形態へとアッセンブルされた。背中から巨大な翼が展開し、まるで天使のように、エアペガサス01(ゼロワン)と名付けられた空挺輸送機から大空へと舞い上がる。その姿は、俺が最高級の素材と技術を惜しみなく注ぎ込んで造り上げた、“マナクリスタル・デバイス”の最高傑作だった。


「承知いたしました」


 ダービーの声は、機械的ながらも、確かな意志が宿っていた。


 ワイバーンの群れが、マナの泉に向かって急降下してくる。彼らの鋭い爪と牙は、マナの泉の近くに設けられたクイーンビーの巣を狙っていた。


 しかし、その前に立ち塞がるのは、ダービーという名の白い翼だった。


 ダービーは、慣れた様子でワイバーンを迎え撃っていく。その動きは、まるで空のバレエのようだった。ワイバーンの火炎を巧みにかわし、その巨大なブレードで敵を叩き落としていく。ダービーの機体から放たれる魔力弾は、ワイバーンの装甲を貫き、次々と空から落下させていった。


 ギャアアアアア!


 ワイバーンが、怒りの声を上げる。だが、ダービーに感情はなかった。ただ、マナの泉を、クイーンビーの巣を守るという、与えられた任務を遂行するだけだった。


 ◆


「御屋形さま、ただいま帰還いたしました。全部隊全兵士、帰還です」


 王都の解放から数日後、アリアの声が、マナの泉のほとりでワイバーンを掃討していた俺の耳に届いた。彼女は、王都奪還という大役を果たした。その背後には、第一大隊長ザック、第二大隊長ライアス、そして遊撃魔道中隊長リアの姿があった。


 俺は、彼女たちの無事な帰還を心から喜び、静かに労いの言葉をかけた。


「お疲れ様です。皆よくやってくれた。十分に休養を取ってくれ。それと、リア?」


 俺はリアに声をかけた。彼女は、スピーダーバイクから降り、疲労の色を隠せないでいた。


「お疲れのところ悪いんだけど、クイーンビーのお守りを頼む。もう、疲れましたよ」


「了解です」


 リアは、早々に第一小隊と第二小隊にクイーンビーの巣防衛任務を命じる。クイーンビーは、まだ分巣の兆候は見られなかった。普段はリアが管理しているのだが、今回は彼女たちを王都へ派遣していたため、俺が代わりに面倒を見ていたのだ。


「御屋形さま、戦後処理のことですが」


 アリアが、冷静な声で尋ねてきた。彼女は、もう次の戦いを始めていた。それは、軍事的なものではなく、政治的、そして経済的な戦いだった。


「ああ、アリアに任せるよ。よろしく」


 俺は即座に答えた。彼女は、その才能を存分に発揮し、戦争で失われたすべてを取り戻してくれるだろう。


「承知いたしました」


 アリアは、そう言うと、再び踵を返した。彼女の背中は、首席補佐官のそれではなく、王国を再建する指導者のそれだった。


 ◆


 クレメンス子爵の指揮の下、旧王都の王宮は、すでにゼノクラシア王国軍の支配下にあった。戦後の混乱が残る中、一人の兵士が、無表情に子爵の元へと歩み寄ってきた。彼は、王宮の奥で、ロイヤルファミリーの安否を確認する任務に当たっていた。


「報告いたします」


 その声は、感情を一切含まない、ただ事実を伝えるだけの声だった。


「ロイヤルファミリーの生存確認ですが、国王、王妃、第一王子、第二王子、第三王子、第一王女、第二王女の死亡を確認しました」


 その言葉が発せられた瞬間、クレメンス子爵の顔から、すべての色が失われた。彼は、王都奪還という勝利の喜びに浸っていたが、その報せは、彼を再び絶望の淵へと突き落とした。


 兵士は、淡々と報告を続けた。


「遺体は、王座の間と、その周辺で発見されました。国王は剣を手に、最後まで抵抗されたようです。王妃は、第一王女を庇うように倒れていました。王子たちは、それぞれ剣を抜き、敵と戦った痕跡があります」


 その言葉は、まるで他人事のように冷たく、クレメンス子爵の心に深く突き刺さった。


「そうか……」


 子爵は、震える声でそれだけを呟いた。彼らが戦い、命を懸けて守った王都は、すでに彼らの血で染まっていたのだ。


「第三王女セレスティア様は、事前に避難されていたようで、無事確保されています」


 兵士が付け加えたその言葉だけが、この悲劇の中で、唯一の希望だった。


 クレメンス子爵は、深く息を吐き出した。勝利の美酒に酔いしれる暇など、彼にはなかった。王国の滅亡は、すでに決定的な事実だった。彼が守り抜いたのは、もはや王国そのものではなく、この地に生きる人々、そして、その人々の希望の光である、一人の王女だけだったのだ。


 彼は、静かに王宮の奥を見つめた。そこには、数多の血と、滅びた王家の魂が、静かに横たわっている。クレメンス子爵の心には、新たな決意が芽生えていた。この悲劇を二度と繰り返さないために、彼は、セレスティア王女と共に、新たな王国を築き上げることを誓った。


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