新たな試練
翌朝以降、俺は洞窟を出て、食料確保のために森の中を歩いていた。豊穣な森の恵みは、様々な獣を引き付ける。兎【スピードラビット】、犬【ハンタードッグ】、狼【シャドウウルフ】、猪【レッサーボア】、鹿【ウィスパーディア】、熊【グリズリーベア】などが水場に順々に現れる。
それらを確保していくたびに、雷魔法が上達していく。
サンダー(雷撃): 最も基本的な雷魔法。雷を放ち、敵に直接ダメージを与える。
スパーク(感電): 敵を感電・麻痺させる。
また、資材を確保、マジックバックに入れるだけで、解体、整理してくれるようになる。最初にボア解体で苦労したのはなんだったのだろうか。
「このマジックバック、本当に便利だな」
感嘆の声を漏らしつつ、俺はさらに森の奥へと足を進める。これまで手に入れた食料と資材で、当面の生活は安泰だ。しかし、この世界で生き抜くには、より強力な魔法と、未知の知識が必要だと感じていた。
その日の夕方、空が茜色に染まり始めた頃、森の中で奇妙な光景を目にする。地面から生えるように、見たこともない巨大な植物が群生していた。その植物は、鈍い銀色に輝く葉を持ち、中心には水晶のような果実が実っている。
「なんだ、あれは……?」
警戒しながら近づくと、植物の周りには強力な魔力が渦巻いているのが分かった。その魔力は、俺の雷魔法とは異なる、どこか生命力に満ちた温かい波動だ。果実に触れてみると、俺の体に電流が走る。しかし、それは痛みを伴うものではなく、体に活力が満ちていくような不思議な感覚だった。
どうやらこの植物は、「マナの結晶樹」と呼ばれる、この世界特有の貴重な資源らしい。その果実、「マナ・クリスタル」は、魔法の威力を高め、魔力を回復させる効果があるという。
俺は早速、マジックバックに「マナ・クリスタル」を収穫した。その瞬間、マジックバックが淡く光り、中身が自動的に整理されていく。
「解体、整理だけじゃなく、こういうこともできるのか…」
マジックバックの新たな機能に驚きつつ、俺は「マナ・クリスタル」を一つ口に含んでみた。すると、体中に熱い力が巡り、魔力が急速に回復していく。これがあれば、長時間にわたる魔法の行使も可能になるだろう。
新たな発見に胸を高鳴らせながら、俺はさらに森の探索を続けた。しかし、喜びも束の間、突如として大地が激しく揺れ始める。
「地震か…?」
いや、違う。森の奥から、けたたましい咆哮が響いてきた。地響きは、その咆哮に合わせて増幅していく。尋常ではない魔物の気配を感じ、俺はすぐに身を隠した。
やがて、巨木をなぎ倒しながら現れたのは、全身が硬質な岩で覆われた巨大なゴーレムだった。そのゴーレムは、獲物を探すようにゆっくりと周囲を見回している。
どうやら、この「マナの結晶樹」の守護者らしい。ゴーレムはマナの結晶樹に近づく者を、容赦なく排除するようだ。
俺はマジックバックから「マナ・クリスタル」を取り出し、魔力を高める。そして、ゴーレムの注意を引きつけるため、手近な木に向かって「サンダー」を放った。
「くそっ、やっぱりデカいな…」
ゴーレムは俺の存在に気づき、鈍重な動きでこちらに迫ってくる。その一歩一歩が、大地を揺るがす。
俺はこれまでに学んだ雷魔法を駆使し、新たな試練に立ち向かうことを決意した。
俺は息をひそめ、大地の揺れに耳を澄ませた。ゴーレムの鈍重な足音が、すぐそこまで迫ってきている。その全身を覆う岩の装甲は、まるで巨大な城壁のようだ。あれに正面からサンダーをぶつけても、せいぜい表面を焦がすくらいだろう。
「くそっ、どうやって弱点を探す…?」
考えを巡らせる間にも、ゴーレムの巨腕が振り下ろされる。俺は間一髪でその一撃をかわし、大地を抉る轟音を聞いた。このままではジリ貧だ。
俺はゴーレムの動きを観察した。その一歩一歩は重く、体を捻るたびに岩の塊が軋む。その隙だ! 俺はマジックバックから新たな「マナ・クリスタル」を取り出し、口に放り込む。体中に満ちる温かい力が、魔力を急速に回復させていく。
「よし…!」
俺はゴーレムの左足の、岩と岩の継ぎ目に向かって、集中して「スパーク」を放った。ビリビリという甲高い音とともに、閃光がゴーレムの足元を包み込む。ゴーレムはわずかに体勢を崩し、その動きが鈍った。
「今だ!」
麻痺は一瞬だ。その隙を逃さず、俺はゴーレムの胸部にある、ほんのわずかに輝くひび割れに向かって「サンダー」を連発する。
ドドン!ドドン!ドドン!
三発の雷撃が、正確に同じ場所に命中した。雷の力が岩の装甲の奥深くまで浸透していくのがわかる。ゴーレムの胸部に走るひび割れが、さらに大きく、深く広がった。
ゴーレムは再び咆哮をあげ、怒りに満ちた目で俺を見据える。だが、その動きは先ほどよりも明らかに遅くなっている。俺は再び「マナ・クリスタル」を使い、魔力を満タンまで回復させた。
「終わりだ!」
俺は残る全ての魔力を、胸のひび割れに集中させた。光が収束し、雷の槍となってゴーレムの胸に突き刺さる。
ズガガガガガガガガン!
全身を貫くような衝撃と轟音とともに、ゴーレムは動きを止め、その巨大な体がバラバラと崩れ始めた。俺が放った雷撃は、ゴーレムの核を破壊したのだ。岩の破片が降り注ぎ、煙が晴れると、そこにはただの岩山となったゴーレムの残骸が横たわっていた。
俺は疲労困憊でその場に座り込み、深く息を吐いた。初めての本格的な戦闘は、想像以上に過酷だった。しかし、その勝利は、この世界で生き抜く自信を俺に与えてくれた。ゴーレムが崩れた場所に、淡い光を放つ小さな石が転がっているのが見えた。どうやら、このゴーレムもまた、何らかの貴重な資材を持っていたようだ。
俺は、ゴーレムの残骸の中から淡く光る小さな石を拾い上げた。それは、俺が雷撃を集中させた胸のひび割れから出てきたものだ。手に取ると、岩の冷たさとは違う、どこか温かい生命力を感じる。
「これが…ゴーレムの核か」
マジックバックに収穫すると、淡い光とともに、情報が頭に流れ込んできた。
『ゴーレムの魔石:ゴーレムの核。魔力を帯びた素材と結合させることで、ゴーレムを創造できる』
さらに、別の情報が閃光のように脳裏を駆け巡る。
『スキル:錬金術Lv.1を獲得しました』
『錬金術:素材と素材を結合させ、新たなものを創造する技術』
錬金術。この世界で生き抜くために必要な知識だと感じていたものの一つだ。俺は早速、ゴーレムの魔石と、その辺りに転がっている小さな岩をマジックバックに入れた。
「よし、これで…」
マジックバックは淡く光る。しかし、期待していたような巨大なゴーレムは現れなかった。代わりに、マジックバックからコロンと転がり出てきたのは、手のひらサイズの、なんとも不格好な岩の塊だった。かろうじて人型を成しているものの、まるで子供の工作のようだ。
「失敗か…」
俺は肩を落とした。やはり、ゴーレムを創造するには、核となる魔石だけでなく、より強力な素材と、高い錬金術の技術が必要なようだ。しかし、小さな岩人形は、かすかに震えながら、俺の足元でピタリと止まった。どうやら、最低限の魔力は宿っているらしい。
「まあ、これも一つの成果か」
俺は岩人形をマジックバックに戻し、改めてゴーレムの残骸を見つめた。これほどの巨大なゴーレムを生み出すには、一体どれほどの素材と魔力が必要だったのだろう。俺の道のりは、まだ始まったばかりだ。




