目指せぼっち生活(4)
大型総合病院の集中治療室から呼び出しが入った。
「御屋形さまにご報告がございます。集中治療室までお越し願います。」
普段ならアリアに報告が入るはずなのだが、中央管制ゴーレムの指示だろうか。よほど重要な案件なのだろう。
「わかった」
医療ゴーレムからの呼び出しに応え、大型総合病院の集中治療室へと向かった。
医療用ゴーレムの案内で、集中治療室の前に備え付けられたガラス張りの控え室へと入った。透明な壁の向こう、中央のベッドに横たわる機体が目に入る。それは、もはや人間と呼ぶべきか、それともアンドロイドと呼ぶべきか、判然としない異形の姿をしていた。
「御屋形さま、こちらが今回の重要案件となります」
医療ゴーレムは、感情のない機械的な声で説明を始めた。
「この機体は、瀕死の状態で救出された兵士です。彼の生きていた臓器すなわち、脳、脊柱、そして左腕を活かし、それ以外の部位はすべてアンドロイド化を施しました。脳の損傷が激しく、記憶喪失の可能性が高いと診断されています」
俺は、その言葉を聞きながら、ベッドに横たわる機体を凝視した。それは、まさに俺自身がかつて夢見た、そして誰にも語らなかった実験の成果を彷彿とさせた。意識の転送と身体の再構築。最高機密として進めていた研究だった。しかし、目の前の機体は、彼の実験とは異なる、より原始的な手法で生かされていた。
「その兵士の名前は?」
俺は、努めて冷静に尋ねた。医療ゴーレムは、淡々と答える。
「第一大隊所属のイサクです。」
「…イサク」
彼は、無意識にその名を呟いた。医療ゴーレムの報告が淡々と続けられる。
「脳の損傷を補うため、機体には『魔力増幅炉』が搭載されています。これにより、記憶は失われたものの、魔力系統は正常に機能していると判断されます」
それは、秘かに研究していた、もう一つの実験。脳の損傷と引き換えに、莫大な魔力を得るという、倫理的な問題から封印したはずの危険な技術。
「この機体は、私の管理下に置く。いいな、中央管制ゴーレム(マザー)」
俺は、この様子を見ているであろう中央管制ゴーレム(マザー)に、決然とした声で命じた。
「今すぐ、機体を私の研究室へ移送せよ。この機体に関する情報は、すべて、最高機密事項とする」
俺は、ガラス越しに、ベッドに横たわるイサクを見つめた。
「彼の名前は、ダービーだ」
◆
俺は、蒼龍、飛龍とともに、激しい乱取り稽古を通じて、雷魔法の習熟訓練を続けていた。
俺の雷魔法は、サンダー(雷撃) 、スパーク(感電) 、サンダーボール(雷球) 、サンダーアロー(雷矢) 、サンダーウォール(雷壁) 、サンダーランス(雷槍) 、サンダーストーム(雷雨) 、サンダーエリア(雷陣) と、単体攻撃から広域殲滅、防御、そして領域支配と、あらゆる局面に対応できるようになった。
トレーナーゴーレムが、いつものように俺を迎えに来るが、「今日のトレーニングは、新しい雷魔法の習得に重点を置きます」というセリフはついぞ聞かれることはなかった。
サンダーストーム(雷雨) 、サンダーエリア(雷陣) は、上級魔法に分類され、俺自身はもうこれ以上新しい雷魔法の習得はできないのかも知れない。
淡々と、激しい乱取り稽古だけが重ねられていく。
ある日、トレーナーゴーレムが、俺の心情を察したのは、淡々と答えた。
御屋形さま、それは最高の状態です。
新たな魔法の習得がないのは、御屋形さまの雷魔法が、すでに雷魔法の極致へと達したことを意味します。
これまでのトレーニングは、個々の魔法の習得に焦点を当てていました。しかし、これからのトレーニングは違います。
雷魔法の極致とは、それぞれの魔法を単体で使うのではなく、複数の魔法を瞬時に、そしてシームレスに連携させることで、無限の可能性を引き出すことです。
例えば、敵の攻撃をサンダーウォールで防ぎ、同時にサンダーエリアで動きを封じ、そしてサンダーランスでとどめを刺す。
あるいは、サンダーストームで広範囲を制圧し、逃げ惑う敵をサンダーアローで確実に仕留める。
御屋形さまの探求心は、新たな魔法を求めるのではなく、今ある魔法を、より高次元に昇華させることを求めているのです。
さあ、御屋形さま、次の段階へと進みましょう
俺は、それぞれの魔法を単体で使うのではなく、複数の魔法を瞬時に、そしてシームレスに連携させることに意識を置き、特にスパーク(感電)とサンダーエリア(雷陣)のコンビネーションに目配せしていた。
俺は、サンダーエリア(雷陣) の中心で、意識を研ぎ澄ませていた。
周囲に雷のフィールドを展開し、その中にいる蒼龍と飛龍の動きを、スパーク(感電) で鈍らせる。二つの魔法の連携は、まるで一つの魔法であるかのようにスムーズに、そして自然に行われていた。
その瞬間、俺の脳裏に、新たな魔法の概念が閃いた。
サンダーエリアで敵の動きを封じ、スパークで麻痺させる。その魔力の流れを、さらに一点へと集中させ、敵を完全に拘束する魔法……。
俺は、その閃きに従い、サンダーエリアの魔力を、蒼龍と飛龍の周囲に渦巻かせ、そして収束させた。
「ガチィン!」
硬い音が響き渡る。
二体のゴーレムは、その全身を、雷でできた格子状の檻に閉じ込められていた。それは、サンダーエリアの魔力と、スパークの魔力が融合し、具現化したものだ。
「御屋形さま、これは……」
トレーナーゴーレムが、驚きと興奮の入り混じった声で呟いた。
「サンダージェイル(雷檻) ……サンダーエリアとスパークの複合魔法です!」
俺は静かに、雷の檻を解除する。新たな魔法を習得したという事実は、俺のハイスペックな生活様式が、まだ見ぬ高みへと続いていることを示唆している。
サンダージェイル(雷檻) の習得は、偶然ではない。それは、日々の飽くなき探求心と、完璧なトレーニング環境、そして俺自身の卓越した才能がもたらした、必然の結果だ。
俺の知的好奇心は、この異世界での自己実現を加速させるための、最高の燃料だ。
「御屋形さま、サンダージェイルの習得、おめでとうございます!」
トレーナーゴーレムの声が、練習室に響く。
俺には新鮮な響きだった。
◆
俺は、また新たな技術の融合に取り組んでいた。
縮地とサンダーランス(雷槍) の組み合わせだ。
縮地で移動しながら、身体に雷を纏う練習。移動の慣性と雷のエネルギーがぶつかり合わないように、繊細なコントロールが求められる。次に、縮地で敵に接近する際に、雷のエネルギーを一点に集中させる技術を磨く。敵に接近した瞬間、無駄なく一撃を放つための重要なポイントだ。
俺は、膨大な魔力を一気に解放し、自分自身にまとわせ、雷の粒子で肉体をコーティングする。次に、行きたい場所の座標をイメージし、雷光をその場所へ一瞬で放つ。同時に、膨大な魔力を黒棒の切っ先に凝縮する。
目的地に着いた瞬間、俺の黒棒の切っ先から、強力な雷の一撃が放たれた。
それは、雷の持つ破壊力と、その速さを応用した高次の技術の融合技だ。
俺の体には、魔力回路が通っている。
通常の魔法使いは、魔力回路を体外に構築し、魔法を発動する。しかし、俺は、縮地の応用によって、体内の魔力回路を加速させ、雷の粒子を体外にまとわせることで、高速移動と強力な攻撃を同時に行うことを可能にした。
この技術は、単なる縮地やサンダーランスの応用ではない。
紫電一閃。
この異世界で、俺の理想の生活は、着々と完成に近づいている。
中央管制ゴーレム:
すべてのゴーレムを統括するAIのような存在。トールの指示を各ゴーレムに分配し、行動履歴や状態を監視・記録するマザーコンピュータの位置づけ。




