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32歳、人生リセット、ただし異世界で  作者: トール
三章 魔法と錬金術の探求と「特別な力」の獲得

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斥候とこの大陸の地図(南)(2)

 グランデルからクレメンス子爵領都のオルドヴィスまでは、およそ150キロメートル。エト村からグランデルまでの3倍の距離が、彼の目の前に広がっていた。その間には、クレメンス領の衛星農村、そしてオルドヴィスの衛星農村が点在している。


 フェルディナントがスピーダーバイクを走らせ、次の衛星農村へと移動している最中、彼の横に一機のゴーレムが静かに着地した。先ほどグランデルからエト村に送り返した探索ゴーレムだ。彼の心配をよそに、ゴーレムの記録部には、簡潔なメッセージが残されていた。


「情報了解、対応はこちらで。調査続行願う。」


 そのメッセージを読んだフェルディナントは、安堵からほっと息をついた。御屋形さまが、この情報を重要だと判断し、対応してくれる。その確信が、彼の肩から重荷を下ろしてくれた。


 フェルディナントは、新たな決意を胸に、クレメンス子爵領都のオルドヴィスを目指し、再びスピーダーバイクを加速させた。


 次の衛星農村へと向かう道中、フェルディナントの目に飛び込んできたのは、北部の農村地帯でも多く見られたライ麦やオーツ麦の畑だった。乾いた気候に強いこれらの作物が、どこまでも続く絨毯のように広がっている。しかし、その中には、所々で黄金色に輝く小麦畑も姿を見せ始めていた。


 それは、大地の性質が緩やかに変化していることを示唆していた。北の厳しい気候から、南の肥沃な大地へと、少しずつ移り変わっていく。フェルディナントは、スピーダーバイクを走らせながら、この地の持つ潜在的な力を、その目に焼き付けていた。


 次の目的地、クレメンス子爵領都のオルドヴィスが視界に入った。北部地域の中心にふさわしく、活気に満ちたその都は、すべての行政機能が集中しているのだろうとフェルディナントは感じた。


 南へと続く道をスピーダーバイクで進むフェルディナントの目に、ついにオルドヴィスの北門が見えてきた。立派なやぐらがそびえ立ち、その上では見張りが厳重に任務にあたっている。彼らの主な武器は剣と盾のようだ。


 フェルディナントはスピーダーバイクから下車し、警戒しながら門へと徒歩で近づいていく。


 オルドヴィスでも、フェルディナントの目的は変わらない。エト村にまつわるあらゆる情報を集めることだ。噂話、儲け話、不審な調査の動きなど、些細なことでも構わない。


 この町に敵対的な情報がなければ、それに越したことはない。しかし、万が一に備え、どのような情報が世間に出回っているのかを事前に把握しておくことが、彼の使命だった。


 フェルディナントは、オルドヴィスの冒険者ギルドの扉をくぐった。そこはグランデルのギルドよりも活気に満ち、壁には依頼書が隙間なく張り出されている。彼は、その喧騒の中に紛れ込み、冒険者たちの会話に耳を澄ませた。危険な魔物の討伐、新しい鉱脈の発見、そして他領での噂話。あらゆる情報が飛び交うが、エト村にまつわる手がかりは、どこにも見当たらない。


 その後、彼は近隣の酒場へと向かった。ギルドとは異なる、より日常的な情報が飛び交う場所だ。昼間から酒を酌み交わす者、食事を楽しむ者、談笑する商人たち。フェルディナントは、彼らの何気ない会話の中に、エト村に関する噂や動向が隠されていないか、注意深く耳を傾けた。


 しかし、ここでも彼の目的は達成されなかった。フェルディナントは、酒場の片隅で静かに耳を傾けながら、安堵の息をつく。それは、喜ばしいことであった。この町では、エト村のことなど誰も気にもかけていない。その存在すら知らないのかもしれない。その事実は、この町がエト村に対して敵意や警戒心を抱いていないことを意味していた。


 一方、彼は冒険者ギルドの喧騒の中で、鋭い観察を続けていた。彼の視線は、冒険者たちが身につけている装備に注がれる。


 そこには、剣と盾を携えた剣士、重厚な鎧を身につけた前衛、そして長い槍を構えた槍士の姿があった。さらに、派手なローブをまとった魔法使いや、神聖な紋様を施された装束を身につけた僧侶らしき者も見られる。


 彼らの装備の多様性は、このオルドヴィスが、グランデルよりも遥かに大規模な冒険者ギルドを擁し、より多岐にわたる脅威に直面していることを示唆していた。それは、この地域の軍事力、あるいは潜在的な戦力を測る上で、重要な手がかりとなるだろう。


 フェルディナントは、冒険者ギルドの喧騒の中に身を置き、鋭い観察を続けていた。エト村の情報は得られないものの、代わりに別の話題が彼の耳に飛び込んでくる。その中心にいるのは、イーサン・ボルヘスという一人の人物だった。


 冒険者たちの間で、彼は「随一の腕前を持つ天才剣士」と評されていた。若くして開花させた才能、そして天才的な剣術の腕前。彼の最大の武器は、その類まれな「速さ」だ。超高速で繰り出される必殺技「三段突き」は、一瞬にして相手の急所を突く恐るべき技だと、彼らは口々に語っていた。


 フェルディナントは、この情報を冷静に分析した。イーサン・ボルヘスという傑出した人物がこの地に存在することは、この地域の軍事力、そして潜在的な戦力を測る上で重要な手がかりとなるだろう。


 フェルディナントは、この情報を心に刻み、街中を歩き始めた。彼の目は、人々の活気で賑わう市場に向けられる。そこには、大量の食糧が並んでいた。ライ麦やオーツ麦、小麦、家畜の肉、新鮮な野菜や果物。その品揃えは豊富で、食糧は潤沢に供給されているようだ。


 行き交う人々の表情は明るく、活気に満ちている。彼らの服装は質素ながらも清潔で、飢えや困窮の影は見られない。


 しかし、フェルディナントは、その表面的な賑わいの中に、闇の部分がないかを鋭く観察する。路地の片隅に身を隠すように商談する者たち、鋭い視線を交わす護衛らしき男たち。彼の目には、この町の繁栄の裏に潜む、見えない力関係や、不穏な動きが映し出されていた。


 フェルディナントは、この街の光と影を、すべて記憶に刻み込みながら、次の目的地へと足を進めた。


 それは、オルドヴィスに存在する唯一の特別な施設、領主館だった。


 フェルディナントは、街の喧騒から離れた丘の上にそびえるその威容な建物に目を向けた。領主館を囲む衛兵たちの装備は、街の門で見かけた者たちよりも格段に厳重だ。彼らは全身を重厚な鎖帷子で覆い、精巧な装飾が施された剣を腰に下げている。また、警備の兵士の数が多く、門の前や城壁の上には、常に複数の見張りが立っている。その厳戒態勢は、この都の中心が、クレメンス子爵の絶対的な権力によって守られていることを示唆していた。


 フェルディナントは、その厳重な警備を遠巻きに観察しながら、クレメンス子爵家の軍事力を推測した。この情報もまた、彼の報告書に記されるべき重要な項目の一つだった。


 オルドヴィスの南門から町を出たフェルディナントは、人目のない茂みへとスピーダーバイクを滑り込ませた。周囲に誰もいないことを確認すると、彼は機体に跨り、静かにエンジンを始動させる。


 彼の次の目的地は、ゼノクラシア王国の中心、王都だ。


 スピーダーバイクは唸りを上げ、フェルディナントを南へと誘っていく。オルドヴィスで得た情報と、ヴァルターがもたらしたであろう情報が、彼の頭の中で整理されていく。これまでの旅路で集めた情報が、王都でどのように評価されるのかを想像しながら、彼は南へと向かった。


 北の峻厳な地を治めるクレメンス子爵領と、王家直轄地の間にも、豊かな穀倉地帯が広がっていた。それは、この王国がどれほど豊かであるかを物語るかのような風景だ。王家直轄地の周囲にも、王族に連なる子爵や男爵たちが治める領地があり、豊かな実りをもたらす広大な農村が広がっている。


 やがて、遠くに王都を取り囲む高い城壁と、その上にそびえるやぐらが見えてきた。フェルディナントはスピーダーバイクを降り、徒歩で北門へと向かう。


 フェルディナントは、王都の北門をくぐり、冒険者ギルドへと足を運んだ。しかし、そこで彼が目にした光景は、オルドヴィスやグランデルの喧騒とはかけ離れたものだった。


 ギルドの中は驚くほど平和で、静けさに満ちている。壁に張り出された依頼書も少なく、冒険者たちの顔には、張り詰めた緊張感よりも、どこか退屈そうな表情が浮かんでいた。


 これは、王都の衛兵による厳重な警備に加え、この都市近隣には魔物が出現しないためだろう。平和は喜ばしいことだが、斥候としての情報収集という観点からは、フェルディナントの胸中に安堵と同時に、物足りなさが募る。


 王都での平和な空気に、フェルディナントは安堵と同時に、物足りなさを感じていた。この地で得るべき情報は、すでに手に入れた。これ以上留まることは時間の無駄だ。彼は即座に、次の行動を決断する。


「すぐさま王都を離れ、西のヴォルガスト伯爵領へと向かう」


 彼は人目を避けるように静かに王都を離れ、スピーダーバイクを西へと向けた。王都の喧騒が遠ざかり、再び風の音とエンジンの唸りだけが、彼の旅路の伴となった。


 王都の西に広がるヴォルガスト伯爵領地は、グランベール王国との国境を接している。この地域では国境紛争による小競り合いが絶えず、武器商人にとってはまさにお得意さまの地域だ。それだけに、名のある剣士や腕の立つ傭兵が多数存在しているに違いない。


 ヴォルガスト伯爵領へと入ったフェルディナントは、さっそく冒険者ギルドへと向かった。王都とは打って変わって、ここは活気と緊張感に満ちている。飛び交う情報の中に、彼の耳を惹きつける一つの名前があった。


 それは、アーサー・ジュバル。


 彼は、両手持ちの大剣使いとして、この地域では名の知れた存在のようだ。その圧倒的な力量ゆえか、彼の武勇伝が、冒険者たちの間で熱く語られていた。かつて奴隷となる前の凡庸な斥候だった頃、フェルディナントは王都の南西を拠点として活動していた。その彼でさえ、アーサー・ジュバルの名は耳にしたことがあった。


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