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32歳、人生リセット、ただし異世界で  作者: トール
三章 魔法と錬金術の探求と「特別な力」の獲得

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東中級ダンジョン(4)

 イサクの姿は、見るも無惨なものだった。


 彼の体は、ダンジョンの魔力によって不完全な魔物と融合し、皮膚は溶け崩れ、骨格が露出している。意識は全く戻らない。


 第一小隊によって地上へと運び出されたイサクの体は、中央指令テントに運び込まれたが、そこには、救急ドローンが待機しており、イサクの体を積み込み次第、総合病院へと搬送されていった。


 ◆


 無機質な白い光が、手術室の清潔な床を照らしている。冷たい空気に満ちた部屋の中央に、一人の男が横たわっていた。その肉体は、皮膚は溶け崩れ、骨格が露出している。無数のケーブルが彼の腕や頭に接続されている。


「被験者の体長、体高スキャン完了」


 機械的な声が響く。男の身体は3Dスキャンによって精密に計測され、そのデータが即座に別のモニターに転送されていく。


「バイタル安定」


 男の心臓は規則正しく鼓動し、呼吸も穏やかだ。だが、その意識はまだ戻らない。


「人型モデルタイプBを準備」


 声の主がそう告げたとき、部屋の奥の重い扉が開き、人型をした大きな物体が台車に乗って運び込まれた。それはまるで、筋肉と皮膚を剥ぎ取られた彫刻のようだ。光沢のある合金製の骨格がむき出しになっており、その中に電子回路やワイヤーが複雑に配置されている。


 人型ゴーレムが運び込まれた。ただ、それは外装だけだった。まるで彼自身のもう一つの身体になるのを待っているかのようだった。


「タイプBと被験者の神経接続」


 医療ゴーレムの最後の言葉が、静寂に満ちた手術室に響き渡る。これから始まるのは、男の意識がゴーレムと接続される、人類史の新たな一歩だ。


 ◆


「御屋形さま、第一大隊長ザックです。東中級ダンジョンの攻略結果について報告いたします」


 だが、すぐに返ってきたのは、聞き慣れた、しかし予想していなかった声だった。


「ご苦労、ザック大隊長。報告を始めよ」


 モニターに映し出されたのは、御屋形さまではなく、なぜか首席補佐官らしく振る舞うアリアだった。


「…アリア?」


 ザックは、思わず端末を落としそうになった。御屋形さまへの直通回線に、なぜ首席補佐官のアリアがいるのか。そして、なぜ彼女が御屋形さまの代理として話をしているのか。


「報告を始めて」


「…はい」


 ザックは慌てて体勢を立て直し、敬礼をした。御屋形さまの直通回線に何らかの不測の事態が起こったのだろうか。御屋形さまご自身に何かあったのかもしれない。彼の脳裏に無数の可能性が駆け巡る。しかし、今は与えられた任務を全うするべき時だ。


「第一大隊は指示のあった東中級ダンジョンの攻略に成功しました」


 ザックの声は、かすかに震えていた。その感情を押し殺し、彼は淡々と報告を続けた。

「作戦は計画通り進行。ダンジョン深層部に到達し、ダンジョンコアの破壊に成功しました。損害は、死傷者1名、重傷者3名、軽傷者10名」


 アリアは無言で画面上のデータをスクロールしているようだった。彼女の視線が、報告書の内容を正確に追っているのがわかった。


「……優秀な結果です、ザック大隊長」


 アリアは初めて、事務的な声ではない、個人的な感情を帯びた声で言った。

「しかし、死傷者1名は残念でした。重傷者の状態も気になります。一体何があったのですか?」


「……申し訳ありません」


 ザックは、静かに謝罪を口にした。


「第二階層で、想定外の事態に遭遇しました。いままで我々の遭遇したことのない、不完全な魔物でした」


 彼は言葉を続けながら、当時の緊迫した状況を思い返していた。

「その魔物は、通常の魔法攻撃では通用しませんでした。しかし、その弱点が『魔力そのものへの干渉』だと判明。私たちは即座に広域魔力中和魔法陣**を展開し、迎撃しました」


「その魔法陣が成功し、魔物を弱体化させたところ、ダンジョンの核、ダンジョンコアが突然出現しました。私たちは、コアを破壊し、ダンジョンを完全に制圧しました」


 一連の出来事を淡々と語るザックの声に、アリアはただ耳を傾けていた。そして、ザックは重い口調で、死傷者について語り始めた。


「その不完全な魔物に体躯を乗っ取られ死亡した者が一名、その際、高出力魔法を使用したため、高純度魔力に焼かれ負傷した者が一名。また、魔力中和魔法陣による影響で、魔力が枯渇し倒れた者が一名。そして、ダンジョン崩壊に巻き込まれて、重傷を負った者が一名出ました」


 アリアは、モニターに映し出された彼の顔をじっと見つめている。その瞳には、事務的な命令ではなく、一人の人間としての感情が揺らいでいた。


「わかりました。すでに、死体と重傷者三名は、総合病院へ搬送していますね。貴殿は大隊をまとめ、帰還して下さい。ご苦労様です。」


 アリアは、冷たいまでに冷静な声でそう告げた。彼女は画面上のデータと、ザックの表情を交互に見ていたが、その瞳の奥に隠された感情を読み取ることはできなかった。


「はい、承知いたしました」


 ザックは敬礼し、通信は途切れた。彼は安堵のため息をついた。任務は無事に完了した。犠牲者は出たものの、作戦そのものは成功したのだ。しかし、彼の心にはかすかな違和感が残っていた。


 アリアの言葉には、どこか奇妙な響きがあった。彼女は死傷者について深く尋ねることもなく、ただ淡々と、事務的に対処した。通常であれば、御屋形さまは、たとえ一人でも犠牲者が出れば、その詳細を尋ね、ねぎらいの言葉をかけるはずだ。


「……何か、おかしい」


 ザックは呟いた。


「通信兵!」


 彼は声を張り上げた。通信端末を操作していた兵士が、素早く振り返る。


「はい、大隊長!」


「総合病院へ運ばれた4名の様子が判明したら逐一報告せよ。特に、重傷者として報告した三名と、そして…」


 ザックは言葉を区切り、一呼吸置いた。彼の脳裏に、先ほどの光景が蘇る。


「……そして、死者として報告した一名の状態も、だ」


 ザックの言葉に、通信兵の顔が強張る。彼もまた、その不自然さに気づいていたのかもしれない。


「…承知いたしました」


 通信兵は敬礼し、すぐに医療班への連絡を始めた。


 ザックは通信兵からの報告を、真剣な表情で聞いていた。


「ルークとレオンは、無事に部隊に復帰したと?」


「はい、大隊長。遊撃魔道中隊第四小隊に配属されたばかりだそうですが、ワイバーンとの交戦でも見事な連携を見せ、小隊長からも高く評価されています」


 通信兵の言葉に、ザックは安堵のため息をついた。彼がかつて率いた第一大隊の隊員だったルークとレオンは、過酷な任務でそれぞれ腕と脚を失い、第一線を退いていた。しかし、彼らが義手と義足を得て、再び戦場に戻ってきたという知らせは、ザックにとって何よりの朗報だった。


「そうか、無事に復帰できたか……」


 彼らの活躍ぶりを聞き、ザックは希望を抱いた。彼らのように、今回の任務で負傷した三名の部下たちも、きっと回復できるだろう。


 しかし、彼の思考はすぐに別の人物へと移った。


「問題は、イサクか……」


 イサク。今回のダンジョン攻略で、高純度魔力に焼かれ、意識不明の重体となった部下だ。彼は以前、ルークやレオンと同じくザックの部下として戦場を駆け抜けていた。だが、ルークとレオンが負傷して部隊を離れた後、彼は第一大隊に残り、ザックの右腕として任務を支え続けていた。


 ザックは、イサクの現在の状態が気になって仕方がなかった。なぜなら、今回の通信兵からの報告には、イサクに関する情報が一切含まれていなかったからだ。


「通信兵、イサクの様子は?」


 ザックは、焦りを隠せない声で尋ねた。通信兵は端末を操作し、首を横に振った。


「申し訳ありません、大隊長。医療班に確認したのですが、イサクに関する情報は、現在閲覧できません。上層部からの指示で、情報が秘匿されているようです」


 その言葉に、ザックの胸はさらにざわついた。御屋形さまの直通回線でアリアが不自然な対応をしたこと。そして、イサクの情報だけが、意図的に隠されていること。この二つの事象は、決して無関係ではないだろう。


 ザックは、東中級ダンジョンからの撤退準備が進む中、固く拳を握りしめた。


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