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32歳、人生リセット、ただし異世界で  作者: トール
三章 魔法と錬金術の探求と「特別な力」の獲得

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第二大隊の困惑(3)

 首席補佐官アリアからの指令を受けた第二大隊長ライアスは、早速新空港への移転準備を指示し、配備された「グリフォン」三機をそれぞれ中隊に一機ずつ、新型の重装甲ゴーレムを三機ずつ配備した。


 そして、訓練の強化を指示。各中隊単位で空挺降下訓練を施し、実戦を通して経験を積ませることを命じた。


 狙いは機動性の向上だ。従来の徒歩や馬車に比べ、圧倒的な速さで兵員を輸送できる。これにより、敵の意表を突く奇襲や、緊急時の迅速な援護が可能となる。


 また、戦術の多様化も目指している。空中からの降下は、地上部隊とは異なる戦術を生み出すからだ。この輸送機を使いこなし、敵の弱点を突く新たな任務に就くつもりだ。


 さらに、新たに配備された新型の重装甲ゴーレムを中心とした「マナの泉」防衛作戦を通じて、新型ゴーレムと空挺輸送機を組み合わせ、地上と空中の立体的な攻撃を展開する。これにより、第二大隊は練度を高め、より強力な部隊へと進化するだろう。


 空挺輸送機を用いた降下訓練は、困難を極めた。航空機から地上へ降下する技術を習得するためのこの訓練は、空挺部隊や特殊作戦部隊にとって、敵地への迅速な侵入や奇襲攻撃を可能にするために不可欠なものだったが、風属性魔法を使える隊員が全体で七名。風属性魔法が使えなければ、降下中の減速もままならない。


 魔法に頼らない、物理的な減速装置を準備するか、新たな風属性魔法の使い手を探し出し、育成するか、少数の精鋭部隊として、7名の魔法使いを核とした、空挺降下専門の精鋭部隊を編成するのか。


 ライアスの苦悩は極まった。


 目の前の部下たちは、訓練の度に疲労と恐怖で顔をこわばらせている。特に、空挺降下訓練は困難を極めていた。風の魔法が使える兵士はたったの7人。彼らが減速の魔法をかけなければ、他の兵士たちはただの「落ちる荷物」と変わらない。


「風が強すぎる。このままでは降下中に流されてしまう…!」


 報告を聞くたびに、ライアスの心臓は締め付けられる。無茶をさせれば、優秀な兵士たちを失う。しかし、訓練を怠れば、いざという時に部隊全体が壊滅する。このジレンマが、彼の精神を深く蝕んでいた。


 空からの奇襲という新たな戦術は、喉から手が出るほど欲しい。だが、その代償が部下の命だとしたら…彼は、ただただ、苦悩の中で答えを探し続けるしかなかった。


 ライアスの苦悩は、もはや極限に達していた。


 基本的な姿勢や着地方法を学ぶ基本降下訓練でさえ、風の魔法が使える兵士が不足しているために、訓練は困難を極めていた。風の制御を失えば、ただ落下するだけの兵士が地面に叩きつけられる。その光景を想像するだけで、ライアスの胃はキリキリと痛んだ。


 まして、まだ手をつけていないフリーフォール訓練は、想像を絶するリスクを伴う。高高度から自由落下し、最後に風の魔法で減速して着地するというこの訓練は、わずか7名の風属性魔法使いに、部隊全員の命運を託すことを意味する。


「このままでは、新しい戦術どころか、部隊そのものが崩壊してしまう…」


 ライアスの心は、理想と現実の狭間で引き裂かれていた。新たな戦術の可能性を追い求める一方で、部下の命を危険に晒すことへの罪悪感が、彼の精神を深く蝕んでいく。彼は、この絶望的な状況を打開する答えを、必死に探し続けていた。


 ライアスは、幾日も幾夜も、苦悩の淵で解決策を模索し続けた。そしてついに、一つの光明を見出した。


 それは、風属性の魔法が使える兵士に頼るのではなく、「魔導具」の力を借りるというものだった。


 靴底から反重力フィールドを発生させ、ゆっくりと降下することができる反重力ブーツ。これは、使用者の魔力を注入することで、一時的に風の抵抗を生み出し、落下速度を制御する効果を持つ。そういった魔導具は準備できないだろうか。


 ライアスは、これをグリフォンの魔導炉からエネルギーを供給することで解決できると考えた。降下する兵士に魔導具を装着させ、グリフォンから伸びるワイヤーと接続し、魔導炉から直接魔力を供給する。これにより、魔導具の燃費問題を解消し、誰でも安全に降下できるシステムを構築しようと決意した。


 この方法であれば、限られた風属性使いに頼ることなく、大勢の兵士を空挺降下させることが可能になる。


 更に、ライアスは苦渋のアイディアを絞り出す。第一中隊は7名の風属性魔法使いだけで編成しよう。第二、第三中隊には、反重力ブーツを装着した部隊としよう。


 そうとなれば、早速アリアに話をとおしてみよう。あわせて、欠員となっている第二中隊の隊員編成についても尋ねることとしよう。


 ライアスの苦悩は、ようやく一つの答えを見出したのだった。


 ◆


「首席補佐官さま、お願いがあります」


 ライアスからの通信に、アリアは静かに耳を傾けた。


「はい、お願いとは?」


 ライアスの声には、いつになく真剣な響きがあった。


「第二大隊の空挺降下訓練は困難を極めています。つきましては、降下時に速度を減速できる魔導具の開発をお願いします」


 続けて、彼は切実な願いを口にする。


「それとあわせて、欠員となっている第二中隊の編成を許可していただきたく…」


 アリアは、通信機越しに伝わるライアスの苦悩を察した。そして、その真摯な願いに、彼女もまた真剣な表情で応えようとしていた。


 技術担当ゴーレムが提案したのは、反重力ホバーボードだった。これは、空挺降下と地上の両方で活用できる革新的な魔導具だ。


 このホバーボードは、以下の機能を備えています。


 降下時の速度制御: 反重力フィールドを発生させることで、風の抵抗を生み出し、落下速度を制御する。これにより、風属性魔法の使い手が不足していても、安全な降下が可能となる。


 自動帰還システム: 任務完了後は、ホバーボードが自動で空挺輸送機に帰還するため、作戦に支障をきたさない。


 地上での高速移動: 降下後、ホバークラフトのように機体を地面からわずかに浮かせ、高速移動を可能にする。これにより、部隊の機動性が大幅に向上し、戦術の幅が広がる。


 この提案は、ライアスが直面していた空挺降下訓練の課題と、今後の作戦における機動性の問題を同時に解決する、非常に優れたものだった。


 さらに、人員増強についても動きがあった。


 風属性魔法使いが新たに三名配属されたのだ。これにより、第一中隊は風属性魔法使い10名の専属部隊となり、その活躍が大いに期待されることになった。


 一方で、第二中隊は残念ながら人員の補充が見送られた。


「第二中隊の補充については、もう少し待って。空挺降下訓練の練度向上を図っておいてください」


 アリアからの回答は、それだけだった。その簡潔な言葉に、ライアスは彼女の意図を読み取ろうとした。補充を保留する理由、そして、練度向上を優先させることの真意はどこにあるのか。ライアスは、今後の計画を立て直すため、静かに思考を巡らせた。


 ◆


 一方、始まりの村でパン屋に侵入して捕縛されたテオは、訓練場でスピーダーバイクの操縦に励んでいた。当初一人だった訓練仲間は、今では九名に増え、皆操縦にも慣れてきたところだった。


「それでは、訓練は次の段階へ進みます」


 トレーナーの指示とともに、彼らの前に運び込まれたのは、新しいホバーボードだった。それは、技術担当ゴーレムがアリアに新規提案した、「反重力ホバーボード」だった。降下時の速度制御に加え、地上の移動も可能な革新的な魔導具。


 このホバーボードが持つ意味を、テオたちはまだ知らない。しかし、いずれこの習熟訓練が終了した先に、彼らが向かう場所がどこなのかは、誰の目にも明らかだった。


 第二大隊──。


 ライアスの苦悩に応えるべく、遠く離れたこの場所で、着々と準備が進められていた。


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