第二大隊の困惑(2)
技術担当ゴーレムにアリアからの指示が下された。
「空挺輸送機を開発して頂戴。中隊を丸々運用できる程度運べればいいわ」
命令を受けた技術担当ゴーレムは、即座に空挺輸送機の開発計画を立案する。その計画は、御屋形さまの領地で入手可能な資源と技術を最大限に活用し、短期間での実現を目指したものだった。
『空挺輸送機の開発計画概要』
この空挺輸送機は、既存の技術を応用し、以下の主要な特徴を持つことになる。
名称: 「グリフォン」
動力源: 既存の魔力炉を改良した高出力エンジン
既存のゴーレムや飛行機に用いられる魔力炉を改良し、輸送機に求められる高出力を実現する。
機体構造: 軽量かつ高強度な複合素材
木材、金属、そして魔法の力を込めた鉱物を組み合わせ、軽量でありながら衝撃に強い機体を作り上げる。
輸送能力: 人員10名(1中隊分)と、小型ゴーレム数体を搭載可能
兵員輸送に特化し、降下用ハッチや、必要に応じて機内から直接攻撃可能な銃座を設ける。
主な運用: 奇襲、物資投下、偵察
敵の防衛線を回避し、目標地点の背後や上空から兵員を投入する。また、孤立した部隊への補給物資投下にも利用される。
技術課題と解決策
魔力炉の効率化と小型化:
解決策:既存の魔力炉の改良に加え、飛行中の空気抵抗を魔力に変換する技術を導入し、航続距離を延長する。
飛行中の機体安定性の確保:
解決策:ジャイロスコープと魔術的な安定化システムを組み合わせ、強風や乱気流の中でも機体を安定させる。これにより、空挺兵の安全な降下を保証する。
着陸時の衝撃吸収:
解決策:脚部に特殊なダンパーを内蔵し、不整地への着陸も可能にする。これにより、緊急時や偵察任務における運用範囲を広げる。
アリアが空挺輸送機の開発を命じた意図は、第二大隊の再建計画と深く結びついていると想定された。
奇襲能力の獲得: グリフォンは、第二中隊が壊滅した原因である奇襲への対抗策となる。敵の意表を突く攻撃が可能となり、第二大隊は戦術の幅を大きく広げることができる。
迅速な展開: 遠隔地のダンジョンや戦場へ、短時間で兵員を輸送できるようになる。これにより、迅速な援護や、劣勢に陥った戦況の打開に貢献する。
士気の向上: 新たな兵器の開発は、第二大隊の隊員たちに、未来への希望を与える。この輸送機は、失われた仲間たちの死を無駄にしないための、新しい戦い方を示してくれるだろう。
アリアから技術担当ゴーレムに下された空挺輸送機の開発命令。その真の意図は、ライアスや第二大隊の再建とは全く異なる、きわめて現実的かつ実利的なものだった。
アリアが空挺輸送機を欲していたのは、遊撃魔道中隊の負担を軽減するため、第二大隊を迅速に「マナの泉」へと輸送し、クイーンビーの巣を防衛させるという、ごく単純な目的のためだった。
「マナの泉」は、領地全体の魔力の供給源であり、御屋形様にとって最重要拠点の一つだ。クイーンビーの巣は、その「マナの泉」を狙って定期的に襲来するモンスターの脅威であり、遊撃魔道中隊が常に警戒にあたっていた。
しかし、遊撃魔道中隊は少数精鋭ゆえに、広範囲に及ぶ防衛任務を単独で担うには限界があった。そこでアリアは、遊撃魔道部隊よりも人員が多い第二大隊を輸送機で送り込み、クイーンビーの巣の防衛を肩代わりさせることを考案した。
これにより、遊撃魔道部隊は他の重要任務に専念できるようになり、領地全体の防衛体制が強化される。
ライアスは、空挺輸送機の開発を第二大隊の再建に向けた希望の光だと捉え、自身の部隊が特殊な任務を与えられることを期待しただろう。しかし、その期待は現実とは大きくかけ離れていた。
御屋形様やアリアにとって、第二大隊はあくまでも効率的な戦力運用のための「駒」に過ぎなかった。彼らの関心は、失われた第二中隊の再建ではなく、いかにして少ない労力で最大の効果を得るかという点にあった。
この空挺輸送機「グリフォン」の開発は、ライアスと第二大隊の運命を大きく左右する。
新たな戦場: ライアスは、期待とは裏腹に、クイーンビーの巣という過酷な戦場へと送り込まれることになる。これは、彼の再建計画を大きく狂わせる出来事となるだろう。
試されるリーダーシップ: クイーンビーの巣の防衛は、ヒュージスライム戦とは全く異なる戦術が求められる。ライアスは、この新しい戦場で、いかにして部下を率い、勝利を収めることができるか試される。
アリアの真意: アリアは、単に第二大隊を「マナの泉」に送り込むだけでなく、この任務を通じてライアスと第二大隊の真価を試そうとしているのかもしれない。
いや、アリアはそこまで深くは考察していなかった。
第二大隊長ライアスの通信端末に、アリアからの連絡が直接入った。
「ライアス、リアを手伝ってほしいの。『マナの泉』に第一中隊と第三中隊を交互に送り込んでちょうだい」
簡潔な命令に、ライアスは思わず言葉を失った。アリアの声はいつも通り事務的で、一切の感情が読み取れない。その口から出たのは、第二大隊の再建を巡るライアスの苦悩や、新しい訓練の成果とは無関係な、あまりにも現実的な任務だった。
ライアスが期待していたような、再起に向けた試練や、特別な任務ではなかった。アリアの思考は、きわめてシンプルだった。
課題: 遊撃魔道中隊が「マナの泉」の防衛で疲弊している。
解決策: 他の部隊に防衛任務を肩代わりさせる。
対象: 現在、再編成中のため比較的時間に余裕がある第二大隊。
アリアにとって、第二大隊は、遊撃魔道中隊の負担を軽減するための労働力に過ぎなかった。第一中隊と第三中隊を交互に送り込むという指示は、単純に部隊をローテーションさせて、両中隊の負荷を分散させるための効率的な運用案だった。
ライアスは、自らの再建計画がアリアの現実的な指示によって中断されることに戸惑いを覚えた。しかし、この命令は、第二大隊がまだ戦力として期待されている証拠でもある。たとえそれが、遊撃魔道中隊の「穴埋め」だとしても。
彼は、この任務を単なる雑務として終わらせるつもりはなかった。これは、第二大隊の再起を証明する絶好の機会だ。
新しい戦場: クイーンビーの巣の防衛任務は、ヒュージスライム戦とは全く異なる環境での戦いを意味する。ライアスは、この任務を通じて、新兵たちを実戦で鍛え、第二大隊を真の戦力へと引き上げることができる。
連携の強化: 第一中隊と第三中隊が協力して任務にあたることで、部隊間の連携を深めることができる。これは、部隊全体の戦闘力を底上げする上で不可欠だ。
ライアスは、アリアの指示をただの命令として受け入れるだけでなく、それを第二大隊の再建のための足がかりとすることを決意した。
「ライアス、追加情報よ。任務にあたっては、空挺輸送機を3機用意したわ。今後、遠方への遠征業務も増えると思うから、今のうちに手の内に入れておいてね」
アリアの声は、機械的ながらも、命令の背後にある明確な意図を伝えてきた。それは、クイーンビーの巣の防衛が、第二大隊の新たな日常となることを示唆していた。
ライアスは、この空挺輸送機が、かつて自身が夢見た再起のシンボルではなく、単なる便利な道具に過ぎないことを理解していた。だが、彼はこの状況を逆手にとることを決意した。
アリアが用意した3機の空挺輸送機は、第二大隊の戦術に大きな変革をもたらす。
機動性の向上: 従来の徒歩や馬車に比べ、圧倒的な速さで兵員を輸送できる。これにより、敵の意表を突いた奇襲や、緊急時の迅速な援護が可能となる。
戦術の多様化: 空中からの降下は、地上部隊とは異なる戦術を生み出す。ライアスは、この輸送機を使いこなし、敵の弱点を突く新たな攻撃方法を開発できるだろう。
効率的な運用: 第二大隊の第一中隊と第三中隊が交互に防衛任務にあたることで、部隊の疲労を分散し、いつでも万全の状態で任務に臨めるようになる。
ライアスは、この空挺輸送機を単なる「足」として使うつもりはなかった。
訓練の強化: 輸送機に搭乗する人員を、新兵を中心に構成する。彼らに空挺降下訓練を施し、実戦を通じて経験を積ませる。
新ゴーレムとの連携: 新型ゴーレムと空挺輸送機を組み合わせることで、地上と空中の立体的な攻撃を展開する。これにより、第二大隊は、ヒュージスライム戦での失敗を乗り越え、より強力な部隊へと進化する。
アリアの意図はシンプルだったが、ライアスはそれを自身の目的のために利用する。空挺輸送機は、彼の再起への道筋を切り開く、新たな武器となるだろう。
「了解いたしました。準備ができ次第、第二大隊第一中隊を「マナの泉」に派遣します」
ライアスは通信を終え、端末をデスクに置いた。アリアの声はもう聞こえないが、その命令は耳に残り、彼の心に重くのしかかっていた。
「マナの泉」への派遣。それは、第二大隊の再建をかけたライアスの計画とは大きくかけ離れていた。彼は、新兵をじっくりと鍛え、新型ゴーレムを駆使した新しい戦術を確立するつもりだった。しかし、現実は、ただの防衛任務という退屈な日々の始まりを告げていた。
ライアスは、この任務をどう捉えるべきか悩んでいた。彼の期待は打ち砕かれた。第二大隊は、特別な再建プログラムを与えられるのではなく、ただの消耗品として扱われるのか。ライアスは、失われた命の重みを背負いながら、この無味乾燥な任務をどう乗り越えればいいのか、答えが見つからずにいた。




