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32歳、人生リセット、ただし異世界で  作者: トール
三章 魔法と錬金術の探求と「特別な力」の獲得

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遊撃魔道中隊長の憂鬱(2)

 遊撃魔道中隊長リアは、クイーンビーとの約束を思い出していた。


「我らは、この『マナの泉』の力を利用して、より良質なはちみつを生み出したい。そのためには、この泉を、ワイバーンや他の魔物から守る必要がある。」


「我らは、新しい巣を作るために、安全な場所を求めている。この泉だけでは不十分だ。お前たちの領地の中に、安全な場所を提供してもらえないか」


 ということは、先々2か所でみつばちの巣のお守りをする必要があるのではないか?


 クイーンビーとの約束は、実質的に二つの任務を意味する。一つは、「マナの泉」の護衛。ワイバーンをはじめとする魔物から、この貴重な場所を守らなければならない。そしてもう一つは、御屋形さまの領地内に新設される、ミツバチの新巣の護衛だ。その候補地は先日説明を受けたばかりだ。


 一つの部隊で二つの重要な地点を守る。しかも、片方は領地から離れた険しい山岳地帯だ。遊撃魔道中隊だけでは、人員も、時間も、明らかに足りない。


 中隊の拡張、いや第二中隊の増設をおねがいしなくては!!


 リアは通信モニターに向かい、敬礼をする。


「御屋形様にお願いがございます」


 その声はいつも通り凛としている。だが、すぐに返ってきたのは、聞き慣れた、しかし予想していなかった声だった。


「どんなお願いですか」


 モニターに映し出されたのは、御屋形様ではなく、なぜか首席補佐官らしく振る舞うアリアだった。猫は優雅に首を傾げ、琥珀色の瞳でリアをじっと見つめている。リアは一瞬だけ戸惑い、再び姿勢を正した。


「遊撃魔道中隊のいち部隊で二つの重要な地点を守る。しかも、片方は領地から離れた険しい山岳地帯です。遊撃魔道中隊だけでは、人員も、時間も、明らかに足りません。是非、第二中隊の増設をおねがいします」


 リアは、理路整然と自らの見解を述べた。モニター越しでも、その真剣さが伝わってくる。アリアは小さくため息をつくと、優雅に前足を動かした。


「それでは、小隊をひとつ増設して、増強中隊として活動してみてください」


 アリアの声は、いつもの猫らしい甘えを含んだ声とは違い、御屋形さまの意志を正確に伝える、冷徹な響きを持っていた。リアは、敬礼をしながらも、胸の内に新たな決意を固める。


 遊撃魔道中隊、増強中隊へ。この新しい編成で、二つの任務を完遂してみせる。


 ◆


 リアとの通信を終了した自称首席補佐官のアリアは、技術担当ゴーレムに疑問を呈した。


「第二大隊第二中隊のジョンには魔力はあったかしらね。」


「平均的な魔力量です」


「それと、第一大隊の重傷者、義手の彼と義足の彼の魔導士化は進んでいるの?」


「はい。順調です」


 技術担当ゴーレムは、合成音声で淡々と報告した。


「なら、決まりね。三人を招集してちょうだい」


 アリアは満足そうに尻尾を揺らし、その琥珀色の瞳は次の展開を見据えていた。新たな戦力は、すでに動き出している。


 ◆


 山頂の窪地に、巨大なマナの泉が光を放っている。その泉の横に設けられた、遊撃魔道中隊の中央指令テント。増設第四小隊の三名が、リア中隊長の前に整列している。


「本日付けで遊撃魔道中隊、増設第四小隊配属となりました。小隊長ジョン、義手のルーク、義足のレオンです」


 三人が一斉に声をそろえる。ジョンは、かつて第二大隊第二中隊長として活躍していたが、部隊壊滅の責任を負い、小隊長に降格したという重い過去を背負っている。ルークとレオンは、戦場で重傷を負い、義手と義足の魔導義肢を身につけたばかりの魔導士だった。


「よし」


 リアは、その返事を簡潔に返した。彼女の視線は、三人の新入りに注がれている。新しく加わった小隊は、これからの任務の成否を握る鍵だ。魔導士としての能力は未知数。まずはその把握が急務であった。


「よし、第四小隊には早速だが、クイーンビーの警護を頼む。現在まだ分巣の兆候はみられないので、ちょっかいを出してくるワイバーンを迎撃する簡単なお仕事だ」


「はっ」


 ジョンは、即座に返事をした。簡潔なやり取りの中にも、お互いの信頼と緊張が入り混じっていた。


「第四小隊、発進します」


 三機のスピーダーバイクは、スムーズに発信していく。すぐに監視巡回路に入り、みつばちの巣の周囲を警戒している。


 スピーダーバイクの操縦は十分なようだ。あとはワイバーンが来てからの判断となる。


「交代時間まで、慎重に警戒せよ。ワイバーンを発見した場合、即座に報告を」


「第四小隊、了解です」


 リアの憂鬱はまだ解消されてはいないようだ。


 交代の時間が経過し、第一小隊と哨戒任務を交代した第四小隊は、再度中央指令テントでリアの指示を待った。


「任務ご苦労様。休憩に入れ。体の手入れをしっかりとな。」

「はいっ!」


 リアの指示に、ジョンは簡潔に答え、ルークとレオンは敬礼で応えた。テントを出た三人は、それぞれが持参した手入れ道具を取り出す。


 ジョンは、自分のスピーダーバイクのエンジン部分を軽く叩き、不具合がないか確認した。その視線は、隣で自身の義手を熱心に磨いているルークに向いた。


「ルーク、義手の調子はどうだ?」


「問題ありません、ジョン小隊長。魔力の通りもスムーズで、違和感もありません」


 ルークはそう答えながら、義手の指先まで丁寧に布で拭いた。その動きは滑らかで、まるで生身の腕のようだ。


「レオン、お前の義足は?」


 ジョンは、次にレオンに目を向けた。レオンは義足の付け根部分を触り、具合を確かめていた。


「こちらも良好です。長時間の操縦でも、安定して力を伝えられます」


 レオンは義足に触れながら、どこか誇らしげに答えた。


「そうか。くれぐれも無理はするな。お前たちの体は、もうお前たちだけのものではない。この小隊の、いや、我々遊撃魔道中隊の重要な戦力だ」


 ジョンは静かにそう言い、自分の武器である魔導銃の手入れを始めた。その言葉には、降格した元中隊長としての重みと、新たな小隊長としての責任感が滲んでいた。ルークとレオンは、その言葉を真剣な表情で受け止めた。


 三人の間には、まだ見えない信頼の糸が結ばれ始めていた。


 ◆


「リア隊長!3時方向にワイバーン2機。」


「よし、第二小隊に1機任せる。第四小隊、わたしに続け!」


 リアの鋭い声が、無線を通じて全隊員に響き渡った。


「はい!」


 ジョンは即座に返事し、ルークとレオンもそれに続いた。3機のスピーダーバイクが、一斉にリアの背を追って加速する。


 ワイバーンは、太陽の光を浴びて鈍く光る鱗を揺らし、悠然と飛行していた。その巨体は、一目で強力な魔物だとわかる。ワイバーンの咆哮が山々に木霊した。


「第四小隊、展開!」


 リアの指示で、3機は扇形に広がり、ワイバーンを包囲する形をとる。ジョンは冷静に指示を飛ばした。


「ルーク、左翼を狙え!レオン、右翼だ!私は本体の動きを封じる!」


 ルークの義手から放たれた魔力弾が、ワイバーンの左翼に命中した。しかし、ワイバーンは怯むことなく、鋭い爪を剥き出しにして反撃の構えを見せる。レオンもまた、義足に魔力を集中させ、ワイバーンの右翼に魔力で固められた強烈な蹴り攻撃を仕掛けた。


「各機、攻撃は続く。決して無理はするな。ワイバーンをこの空域から排除するぞ!」


 リアは、先頭に立ちながら強力な魔力弾を放ち、ワイバーンの注意をひきつける。第四小隊の初陣は、早くも激戦の様相を呈していた。


 シュゥゥゥーッ


 ジョンの撃った魔道銃が、ワイバーンの右下肢を破壊する。


 グォォォッ。


 ワイバーンは、雄たけびをあげてジョンを睨む。


 だが、幾ら結成したてとはいえ、3機の魔導士に囲まれたワイバーンに勝ち目はなかった。


 3方向から撃ち込まれる魔道銃になすすべもなく、撃墜されていった。


 ワイバーンを回収するゴーレムの機械的な動きを眺めながら、リアは今回の第四小隊の働きを静かに振り返っていた。


「ジョンの判断は的確だったな。」


 ワイバーンの右下肢を正確に撃ち抜き、その動きを止めた一撃。あれは長年の経験と冷静な判断がなければできない芸当だ。降格したとはいえ、その指揮官としての能力は健在だとリアは確信した。


 そして、ルークとレオン。彼らが義肢を操る様子は、もはや体に馴染んでいない新兵のものではなかった。ルークは義手から放たれる魔力弾でワイバーンの左翼を牽制し、レオンは義足で魔力強化を施し、素早く、力強い蹴り攻撃を仕掛けた。二人の連携は流れるようにスムーズで、まるで長年組んできたコンビのようだった。


「今回の任務、見事だった。」


 リアは無線越しに静かに告げた。


「ジョンの判断力、そしてルークとレオンの連携は期待以上だ。特に、義肢の特性を活かした攻撃は素晴らしかった。お前たちは、遊撃魔道中隊に新たな可能性を示してくれた。この調子で、今後の任務も頼む。」


 その言葉は、彼らの努力と能力を認め、未来への期待を込めたものだった。リアの評価を聞き、第四小隊の3人は、それぞれが新しい居場所での自分の価値を示せたことに安堵した。


 リアは、第四小隊の戦力化にめどが立ち、一安心したものの


「次は、分巣先への誘導だな。クイーンビーに候補地の説明をどうしようか」


 彼女の憂鬱はまだ晴れることはなかった。


 リアは、通信モニターの向こうに映る巨大なハチの姿に、静かに語りかけた。通常の意思疎通が難しい相手だ。言葉や身振り手振りでは、複雑な地形や環境を正確に伝えることはできない。


 リアは深く息を吸い込み、魔力を集中させた。彼女の掌から、淡い光が立ち上る。それは、ただの光ではない。リアがこれまで見てきた、領地の景色、木々の緑、流れる川のせせらぎ、そして何よりも、新巣の候補地である広大な花畑のイメージを具現化したものだった。


 その光は、まるで生きているかのように形を変え、ミツバチの巣から飛び出した一匹の働きバチに吸い込まれていく。働きバチの目は、一瞬だけ琥珀色に輝いた。


 働きバチを通して、リアの想いがクイーンビーに伝わる。


「我々の領地には、蜜源が豊富で、安全な場所があります」


 言葉ではなく、感覚として。


「そこは、風も穏やかで、水も豊かです。そして何より、マナの結晶樹が周囲に6本あります。」


 それは、ワイバーンの脅威から守られた安息の地の光景だった。候補地の豊かな自然、そして、遊撃魔道中隊がそこで警護にあたるという強い意志が、クリアなイメージとしてクイーンビーの意識に流れ込む。


 しばらくの沈黙の後、クイーンビーの巨大な羽根が微かに震えた。それは、同意の合図だった。リアの提案を、クイーンビーは受け入れたのだ。


 リアは安堵の息を漏らした。だが、それはまだ先のことだ。分巣の様子はまだ見えない。


「よし、クイーンビーは受け入れてくれた。」


 彼女は、新たなミツバチの巣を、御屋形様の領地内に設営し、それを守るという、もう一つの重要な任務に、静かに思いを馳せていた。


 彼女の憂鬱は、少しおさまってきたかのようだった。


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