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32歳、人生リセット、ただし異世界で  作者: トール
二章 自治都市への基盤

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幕間(2)

奴隷として俺に買い取られたアリアの話

 わたしは、馬車での移動が苦手だった。


 ボロボロの馬車は常にギシギシと音を立て、少しの段差でも激しく揺れる。座席の薄いクッションでは、お尻が悲鳴を上げた。未舗装の道では、ゴツゴツした岩や木の根、水たまりを乗り越えるたびに激しい衝撃が全身を襲い、まるで嵐の海を航海する船のようだった。さらに、パンパンに詰め込まれた荷物や乗客で、馬は苦しげに歩を進め、速度は全く出ない。息苦しいことこの上なかった。


 こんな苦痛から逃れるため、わたしは遊撃魔道中隊が使用していたスピーダーバイクに目をつけた。


「乗り心地最優先で、オートドライブに改良して」

「発着点は、跳ねる小鹿商会と仮拠点の往復だけでいいわ」


 わたしの指示に、技術担当のゴーレムは静かに実験工作室へと向かう。


 こうしてわたしは、これまでの苦痛が嘘のような、快適な高速移動手段を手に入れたのだった。


 ◆


 快適な高速移動手段を手に入れたわたしは、足繁く御屋形様のもとへと通うようになった。それはもはや、単なる報告という名目ではなかった。


 わたしアリアがボロボロの馬車に揺られ、ようやく到着したのは、北のはずれにある小さな村。そこで奴隷として売られてきた身で、この地の新たな主となるお方と初めて対面した。


 その後、御屋形様に連れられて仮の拠点へと移ると、その空間の奇妙な珍しさにわたしは驚きを隠せなかった。


「ここが、御屋形様のお屋敷……」


 御屋形様は静かにわたしの生い立ちを尋ねられた。


「私の故郷は、北にあるローゼリア王国の首都、シルヴァネスです。父は、王都に屋敷を構える子爵でしたが、政治的な陰謀に巻き込まれ、家は取り潰しになりました。私と母、そして姉妹は……」


 わたしは、喉の奥に込み上げる痛みを押し殺しながら続けた。


「…私だけが、バルザック商会に売られたのです。父の友人だった商人を通じて、身の安全のためだと聞かされていましたが、結局はこうして奴隷として…」


 わたしは、故郷の栄光を語ることで、自身の有用性を訴えた。


「シルヴァネスは、豊かな魔法技術と交易で知られる大都市です。王都には王立図書館があり、希少な魔法書や歴史書が収蔵されています。貴族の子どもは皆、幼い頃から専門の教師に読み書きや作法を学び、魔法の才能があれば、王立魔術学院でその力を伸ばすことができます。」


 しかし、御屋形様はわたしの救済や、家族を陥れた貴族への復讐に手を貸すつもりはないようだった。


「貴女には、まずはバルザック商会との取引窓口とエト村との折衝窓口を務めてもらう。」


 その言葉に、わたしは心を決めた。


「承知いたしました。ご期待に沿えるよう、努めます。」


 わたしは、身も心も御屋形様に捧げようと誓った。そして、この場所が持つ快適な時間と空間を、わたしも手に入れるのだと。


 翌日から、御屋形様からこの世界の商売の基本を教わった。


「貴族としての教養は、商人にとって最高の武器だ。読み書き、計算、歴史、そして法律…これらは全て、交渉の場で相手を出し抜くための道具になる。」


 御屋形様の言葉を一言も聞き漏らさないように、わたしは真剣な表情でノートに書き留めた。御屋形様の独自の知識から断片的に語られる信用創造や複式簿記の概念も、何度も何度もメモを重ねた。ノートを読み返し、来るべきときに備えて、一生懸命勉強した。


 そうして準備を重ねたわたしは、御屋形様から最初のお仕事をいただいた。それは、バルザック商会との新たな取引交渉。しかも、御屋形様はわたし一人にその全てを任せられた。


 しかし、わたしは御屋形様の意向に沿う形で、見事に交渉をまとめ上げた。


 それからは、わたしの独壇場だった。わたしは、自らの手足となって動いてくれる有能な仲間たちを集め、強固な連携のもと、御屋形様が望む方向へと物事を進めていった。


 それからは、エト街の店舗は仲間たちに任せ、わたしは御屋形様の身の回りのお手伝いに励むようにした。


「えっ?なぜだって?」


 御屋形様のお隣は、とても心地よいのだ。もう誰にもこの場所は譲らない。


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