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32歳、人生リセット、ただし異世界で  作者: トール
二章 自治都市への基盤

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遊撃魔道中隊の受難(2)

「中隊長、10時の方向にワイバーン3機!!、急接近します」


 緊迫した声が、通信機から響く。それは、第一小隊の隊員からの報告だった。リアは、クイーンビーとの「交渉」に思考を巡らせていたが、その報告にハッと我に返る。


「なんだと!?」


 リアは反射的に空を見上げた。10時の方向、つまり左斜め後方だ。遥か彼方から、3つの黒い影が、こちらへ向かって高速で飛来してくる。それは、巨大な翼を持つワイバーンだった。


 ワイバーンは、竜にも匹敵する強力な魔物だ。しかも、3機同時に襲いかかってくるとなると、遊撃魔道中隊の機動力をもってしても、非常に厳しい戦いになる。


「クソッ! こんな時に!」


 リアは舌打ちをした。まさか、ミツバチの魔物に気を取られている隙に、こんな強敵に襲われるとは。


「全隊に告ぐ! ワイバーンを警戒! 交渉作戦は一時中断する! 全隊、散開し、回避行動に移れ!」


 リアの鋭い指示が、部下たちに飛ぶ。しかし、時すでに遅し。ワイバーンたちは、すでにミツバチの魔物群を突破し、遊撃魔道中隊に迫っていた。


「隊長! 一機が、魔力弾を放ちます!」


 次の瞬間、ワイバーンの口から、燃え盛る炎の塊が放たれた。それは、マナの結晶樹に向かって一直線に飛んでいく。


 ドォォォォン!!


 巨大な爆音が森に響き渡る。炎はマナの結晶樹に直撃し、周囲の木々を巻き込んで、爆発した。


「ワイバーンは、我々を狙っているのではない……? クイーンビーを狙っているのか!?」


 リアは、その意図に気づく。ワイバーンは、はちみつを狙って、クイーンビーを襲撃しに来たのだ。


「中隊長、どうしますか!?」


 部下からの問いに、リアは即座に決断を下した。


「全隊、ワイバーンを迎え撃つ! 我々の任務は、はちみつの安定的な仕入れだ! クイーンビーを守るぞ!」


 リアの新たな戦いが、今、始まった。はちみつを巡る、三つ巴の戦いだ。



「各個撃破だ! 小さい奴から仕留める!」


 リアは叫んだ。スピーダーバイクの操縦桿を握り、急旋回する。狙うは、ワイバーン3機の中でも、一番小型の機体だ。ドッグファイトは何度も訓練で体験している。得意だ!


「第一小隊は右翼、第二小隊は左翼を援護! 第三小隊、私に続け!」


 リアの指示が飛ぶ。遊撃魔道中隊は、一瞬にして戦闘態勢へと移行した。スピーダーバイクの機動性を活かし、ワイバーンの攻撃をかわしながら、魔力弾を放っていく。


 ドシュッ!ドシュッ!


 リアの放った魔力弾が、ワイバーンの翼をかすめる。ワイバーンは、怒りの咆哮をあげ、リアに向かって炎を吐き出した。


「くっ!」


 リアはスピーダーバイクを急降下させ、炎を回避する。熱風が頬をかすめる。その隙に、後続の第三小隊が、ワイバーンの死角から魔力弾を浴びせる。


 ギャアアアアア!


 魔力弾を浴びたワイバーンが、悲鳴をあげながら、バランスを崩す。リアは、その隙を見逃さなかった。


「今だ! 魔力集中砲撃!」


 リアの号令に、第三小隊の隊員たちが一斉に魔力を込めた。彼らのスピーダーバイクから、収束された魔力弾が放たれる。その光は、ワイバーンの翼に命中し、ワイバーンはついに墜落していった。


「やったぞ! 一機撃破!」


 隊員たちの歓声が上がる。しかし、喜ぶのはまだ早い。残りの2機が、怒りに燃えて、遊撃魔道中隊に襲いかかってきた。


「落ち着け! 慌てるな!」


 リアは、自分に言い聞かせるように叫ぶ。

「次だ! 残りの2機を連携して仕留める!」


 マナの結晶樹を背景に、遊撃魔道中隊とワイバーンの空中戦が、激しさを増していく。

 そして、その下では、ミツバチの魔物たちが、クイーンビーを守るように、警戒態勢をとっていた。


「うぉぉぉっ!、ファイアジャベリン!!」


 リアは叫んだ。


 スピーダーバイクを急上昇させ、残る二機のワイバーンの頭上を取る。ワイバーンが炎を吐くため口を開いた瞬間、リアは魔力を両手に集中させた。


 燃え盛る炎が槍の形を成し、巨大な火炎の槍となる。それは、リアが得意とする火炎中魔法、ファイアジャベリンだった。


「これで、お前たちを仕留める!」


 リアは、狙いを定めて、火炎の槍を放つ。それは、まるで流星のように、ワイバーンに向かって飛んでいく。


 ドォォォォン!!


 火炎の槍は、ワイバーンの一機に直撃し、ワイバーンは爆発と共に燃え尽きていく。もう一機は、間一髪で回避したが、爆風に煽られ、バランスを崩した。


「今だ!」


 散開していた第一小隊、第二小隊が、残りのワイバーンに接近し、スピーダーバイクを巧みに操り、ワイバーンの翼にアロー系、カッター系、ボール系の小魔法を打ち込んでいく。


 ギャアアアアア!


 翼を焼かれ切り裂かれたワイバーンは、悲鳴をあげながら、制御を失い、地上へと墜落していった。


「やったぞ、隊長! ワイバーン全機撃破です!」


 部下たちの歓声が、空に響き渡る。リアは、額の汗を拭い、大きく息を吐いた。


「よし、全員、無事か? ミツバチの魔物たちに警戒を怠るな!」


 彼女は、ミツバチの魔物たちが、ワイバーンとの戦いを静かに見守っていたことに気づく。クイーンビーは、マナの結晶樹に固着したままだ。


「もしかして、クイーンビーは、我々がワイバーンを倒すのを待っていたのか?」


 リアの胸に、新たな疑問が湧き上がった。

 ワイバーンが消え去った今、再び、クイーンビーとの「交渉」が始まる。

 果たして、魔物との交渉は、成功するのだろうか?


 ◆


 ワイバーンとの死闘を制し、リアは大きく息を吐いた。遊撃魔道中隊の隊員たちも、スピーダーバイクをホバリングさせながら、互いの無事を確認し合う。クイーンビーは、ワイバーンの攻撃とこちらの戦闘に、微動だにせず、マナの結晶樹に固着したままだ。


「よし、全員、無事だな。さて、交渉を再開……」


 リアがそう言った、その時だった。


 ふと、上空から一匹のミツバチが、団子状態の団体に合流した。


 それは、特に珍しい光景ではなかった。だが、リアは、そのミツバチが放つ魔力に、違和感を覚えた。それは、他のミツバチの魔力よりも、わずかに強く、そして、どこか満ち足りているように感じられた。


「どうやら、新しい営巣場所を見つけたらしい」


 通信機から、第一小隊の隊員が静かに報告してきた。偵察ゴーレムが、そのミツバチの行動を追っていたのだ。


 リアは、ハッとした。


 クイーンビーが分巣のために集結していたのは、単純に新しい巣を探していたから。そして、ワイバーンが攻撃してきたのは、そのクイーンビーが持っている「はちみつ」を狙っていたから。そして、ワイバーンを撃退した今、ミツバチたちは、もはやここにとどまる必要がなくなったのだ。


「待て! 交渉する前に、去られてしまう!」


 リアは焦った。御屋形さまの命令は、はちみつの安定的な仕入れだ。もし、クイーンビーが別の場所に巣を作ってしまえば、この任務は失敗に終わってしまう。


「全隊に告ぐ! クイーンビーが飛び立つ前に、阻止する! ただし、攻撃はするな! 威嚇だ! 周囲を取り囲んで、飛び立たせないようにしろ!」


 リアの指示に、遊撃魔道中隊のスピーダーバイクが一斉に動き出す。彼らは、クイーンビーを取り囲むように、円陣を組んだ。


 しかし、時すでに遅し。クイーンビーの周りに固まっていたミツバチの魔物たちが、一斉に飛び立ち始めた。その中心で、一際大きなクイーンビーが、ゆっくりと浮上していく。


「くそっ、間に合わない!」


 リアは、歯を食いしばる。その時、クイーンビーが、リアに向かって、かすかな魔力の波動を送ってきた。それは、敵意でもなく、交渉の言葉でもない。


「お前たちは、我々の敵ではない。そして、我らも、お前たちの敵ではない。だが、我らの道を阻むなら、その限りではない。」


 脳内に直接響くような、威厳のある声。リアは、驚きに目を見開いた。魔物が、言葉を話す。いや、言葉として理解できる「意思」を伝えてきたのだ。


「まさか、クイーンビーは、我々と対話できるのか……?」


 リアは、信じられない思いでクイーンビーを見つめた。


 クイーンビーは、リアの問いに答えることなく、ゆっくりと上昇を続ける。


「待ってくれ! 交渉が、まだ……!」


 リアは、クイーンビーを追おうとスピーダーバイクを加速させる。


 しかし、その時、別のミツバチの魔物が、リアの前に立ちはだかった。それは、クイーンビーに付き従う、護衛の魔物だった。


「お前は、我らの主の足を引っ張るな。この場所は、お前たちにくれてやる。」


 そう告げると、護衛の魔物は、クイーンビーと共に、マナの結晶樹から離れていく。


 リアは、呆然と立ち尽くした。


 ワイバーンを倒し、交渉のチャンスを得たと思っていたのに、クイーンビーは、もう去ってしまった。


「中隊長、どうしますか……?」


 部下の声に、リアは力なく答える。


「……御屋形さまに報告だ。交渉は失敗した、と」


 遊撃魔道中隊の初出撃は、ワイバーンとの激戦と、魔物との「交渉失敗」という、奇妙な結末を迎えた。しかし、リアの胸には、一つの確信が残っていた。クイーンビーは、まだどこかにいる。そして、いつか、きっと再び出会うだろう。その時こそ、真の交渉が始まるのだと。


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