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32歳、人生リセット、ただし異世界で  作者: トール
二章 自治都市への基盤

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東初級ダンジョン(4)

 既に、3つ中隊はそれぞれ作戦に従事し、疲弊、疲労、消耗している。まずは隊を立て直さなくてはならない。第一大隊長ザックの考えは、慎重だった。


 どの程度まで疲弊し、消耗しているのか。物資や装備の損耗はどの程度か。具体的な数字をもとに、まずは戦闘能力の現状を把握すること。


「各中隊、損耗度合いを報告せよ」


 各中隊の報告を聞き終えたザック大隊長は、テーブルに広げた地図をじっと見つめる。


「よし、明日夜明けとともに、第三階層のオークを叩く。総力戦だ。」


 ザックの脳裏には、次の手が次々と浮かび上がっていた。


 30人の大隊を預かり、更には無尽蔵の体力と、命令を忠実に遂行する力を有するゴーレム隊。彼らがこの戦場で、どれほどの貢献をしてくれたか、計り知れない。


 おめおめと、「多大な損耗を被りました。継続的な戦闘遂行能力を喪失していると判断いたしました。このまま作戦を続行した場合、さらなる損害の拡大は避けられません。」などど御屋形さまに報告できるはずがない。



「直ちに後方への移動準備を。そして、各中隊は、負傷者の手当てを最優先しろ。我々はまず、態勢を立て直さなくてはならない。そして、明日夜明けとともに、総力戦だ」


 大隊長の静かで、しかし揺るぎない声が、通信室に響き渡った。


 ゴーレムたちは、まるで意思を持つかのように、正確かつ無駄のない動きで負傷兵を運び、テントの中に担ぎ込んでくる。


「負傷者の状態はどうか?」


「大隊長殿。重傷者2名、中程度の負傷者が7名、軽傷者が15名。重傷者については、手足を失った兵士が2名。しかし、命に別状はありません。応急処置は完了しました。後方への搬送はいつでも可能です」


 衛生兵は淀みなく答えた。その声には、任務を遂行した確かな自信が満ちていた。ゴーレムたちに指示を出し、ゴーレムたちは一斉に動き出し、負傷兵を後方へ運んでいった。


 ザックは安堵のため息をついた。死者が出なかったことは、不幸中の幸いだった。



 静かに夜が明け、朝靄が立ち込める中、ザック大隊長の力強い声が、疲労の色を隠せない兵士たちの間に響き渡った。


「各員傾聴!!」


 その言葉に、兵士たちは一斉に顔を上げ、彼の言葉に耳を傾けた。彼らの瞳はまだ完全に休息を取り戻していないが、その奥には、昨夜の休息と物資の補充によって、かすかな光が灯り始めていた。


「我々は、昨日の作戦において、第三階層のマッピングに成功を収めることができなかった」


 ザックの声は静かだった。隠すことのない事実を語るその姿勢に、兵士たちは静かに頷いた。彼らはみな、昨日の戦いの厳しさを身をもって知っていた。


「しかし、それは敗北ではない。第三階層の魔物であるオークの部隊に多大な損害を与えることができた」


 その言葉に、兵士たちの顔にわずかながら誇りが浮かんだ。自分たちの消耗と引き換えに、敵にも同等の痛手を与えたのだ。


「そして、次の作戦は。オークの殲滅作戦である。持てる力の限り、オークを切って切って切りまくれ」


 ザックの言葉が、徐々に熱を帯びていく。その声は、兵士たちの心に直接響くようだった。


「マッピングは、それからだ。諸君の検討を期待する。以上!!」


 ザックはそう言い放つと、兵士たちをまっすぐに見つめた。彼の目は、決して無理強いするものではなく、ただひたすらに、彼らの力を信じ、期待していることを示していた。


 その視線に、兵士たちの間に静かな、しかし確かな活気が戻ってきた。彼らは昨夜、わずかな時間ながらも休息を取り、食料を口にし、水筒を満たした。そして何より、仲間たちが死んでいないという事実が、彼らの心を支えていた。


「「はっ!」」


 兵士たちが一斉に返事をし、各自の配置につく。ザックは、その様子を満足げに眺めた。


「よし、進め!」


 彼の号令とともに、第一大隊は再び、第三階層へと足を踏み入れていった。夜明けの光が、彼らの背中を、そして彼らの足跡を照らし始めていた。


 第一階層、第二階層とも魔物の復活は見当たらず、正確な地図をもとに粛々と歩みを進める第一大隊。隊員たちの顔には油断の色はない。


 階段に差し掛かった第一大隊は、静かに足を止めた。第三階層への入り口は、不気味なほどの静けさに包まれている。


 ザック大隊長は、先行する第一中隊のオズワル中隊長に視線を送った。オズワルの顔には、疲労の色は残っているものの、その瞳には鋭い光が宿っていた。


「第一中隊は先行し、斥候せよ」


 ザックの声は低く、しかし明確に響いた。


「ハッ!」


 オズワルは力強く応え、第一中隊の兵士たちを振り返った。


「各員、前方に展開!慎重に、進め!」


 オズワルの号令とともに、第一中隊は音もなく階段を下り始めた。彼らは、昨日までの死闘で得た経験を最大限に活かし、一歩一歩、慎重に、しかし素早く動いた。


 第二中隊、第三中隊も、それぞれの持ち場で警戒を続ける。後方のゴーレム部隊は、万が一の事態に備え、静かに待機していた。


 ザック大隊長は、その場に留まり、静かに第一中隊の動きを見守っていた。彼の心中には、昨日までの慎重さとは異なる、静かな、しかし確かな自信が満ちていた。


(この静けさ、不気味すぎるな……)


 彼の直感が、何かがおかしいと告げていた


 第一中隊からの無線連絡が、ザックの耳に飛び込んできた。雑音混じりの「ジジジッ」という音の後に続く報告は、彼が想定していた最悪の事態ではなかった。


「オークの部隊を発見。第三階層の『聖域』に集結している模様」


 その言葉に、ザックは安堵のため息をついた。オークが分散している可能性も考慮していたが、一箇所に集まっているのなら、一気に殲滅することが可能だ。


「よし」


 ザックは通信兵に指示を出す。


「第二、第三中隊、第三階層へ侵攻せよ。第一中隊は、聖域の手前で待機」


 静かに、しかし力強く命令が下された。


「了解!」


 第二中隊、第三中隊の隊長が、それぞれ力強く応える。彼らの声には、疲労の色は消え、勝利への確信が満ちていた。


 ザックは、地図を広げ、聖域の位置を確認する。そこは、第三階層の中心部に位置する、広大な洞窟だった。


(あそこか。一気に叩くぞ)


 彼の心には、確固たる決意が満ちていた。昨日までの慎重な判断は、今日この日のためのものだった。


「全隊、前進!」


 ザックの号令とともに、第一大隊は再び歩みを進めた。彼らの行く先には、第三階層の「聖域」が待ち受けていた。


 ザック大隊長の「全隊、突撃!!」という号令が、洞窟の壁に反響し、兵士たちの心に火をつけた。


 疲労困憊であったはずの兵士たちは、この一瞬、その全てを振り払い、鬨の声を上げながら一斉に聖域へと突入した。彼らの背後には、轟音を立てて進むゴーレム隊が続く。その巨体はオークの目を引きつけ、兵士たちの進路を確保していた。


 オークたちは、聖域の中心に密集していた。彼らは何らかの儀式を行っていたのか、兵士たちの突然の侵入に混乱した。その隙を逃さず、第一大隊は勢いよく白兵戦に突入した。


 第一中隊が先陣を切る。オズワル中隊長の指揮のもと、彼らはオークの群れに切り込み、混乱をさらに広げた。彼らの剣と盾が、オークの粗末な武器を弾き、正確に急所を貫く。


 第二中隊は、盾を構え、オークの突進を受け止めた。彼らの後方から、第三中隊の弓兵たちが矢を放ち、オークの頭数を減らしていく。


 そして、ゴーレム隊が真価を発揮した。彼らは、一切の感情を持たず、ただ命令に忠実に、オークの群れをなぎ倒していく。その鋼鉄の拳が振るわれるたびに、オークの悲鳴が聖域に響き渡った。


 しかし、オークもただではやられない。体格に勝るオークたちは、その怪力で兵士たちを圧倒しようと試みる。


「怯むな!奴らは昨日の負傷が癒えていないぞ!」


 ザック大隊長の叫びが響く。その声に、兵士たちは再び奮い立った。彼らは、昨日与えた損害が、今この瞬間、自分たちを助けていることを知っていた。


 戦いは、血と汗と、そして泥にまみれた。剣がぶつかり合う音、叫び声、そして、オークが倒れる鈍い音が、聖域を支配した。


 第一大隊は、消耗していた。しかし、その消耗を上回る決意と、圧倒的なゴーレムの力が、彼らを勝利へと導いていく。


 そして、ついに。


 聖域の中心にいた、ひときわ大きなオークが、ザック大隊長の一撃によって倒れた。その瞬間、オークたちの抵抗は弱まり、次第に、戦場の音は静まっていった。


 激戦の余韻が残る中、第一大隊の兵士たちは互いの無事を確かめ合った。倒れ伏したオークの死骸が、まるで幻のように光の粒子となってダンジョンの床に吸い込まれていく。その光が完全に消えた後、ひときわ大きなオークがいた場所に、一つの古ぼけた鍵が落ちていた。


 ザック大隊長は、その鍵を手に取った。それはただの金属の塊ではなかった。表面には、複雑な紋様が刻まれ、見る者を惹きつけるような不思議な光を放っていた。


「大隊長、それは…」


 レイブン第三中隊長が、驚きを隠せない様子で尋ねた。


「ああ、これは……」


 ザックは、鍵の重みを手のひらで感じながら、このダンジョンの最深部へと続く、特別な扉を開ける鍵なのではないかと考えていた。


 一方、ゴーレム隊による第三階層のマッピングを終え、このダンジョンは三階層構造だと判明、これ以上の探索はできなかった。


 勝利の歓喜と疲労の中、兵士たちの間には、新たな期待と好奇心が満ちていく。彼らは、この鍵が新たな冒険の始まりを告げていることを直感的に理解した。


「諸君、この鍵は、我々の探索の次の段階を示すものだ」


 ザックの声は、疲労を一切感じさせない、力強い響きを持っていた。


「これを手に、我々はさらに次のダンジョンへと進む。そして、この地の謎を解き明かすのだ」


 兵士たちの顔には、再び、新たな目標に向かう決意が浮かび上がっていた。第一大隊は、ただの勝利に酔いしれることなく、慎重にこのダンジョンからの撤収に努め、未知なる新たなダンジョンへと、再び歩みを進める準備を始めた。


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