表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32歳、人生リセット、ただし異世界で  作者: kkitarx78
二章 自治都市への基盤
14/88

西初級ダンジョン

投稿内容を間違えました。8/31全面修正。

 第二大隊は、大隊長である元冒険者 ライアスの指揮のもと、西ダンジョンの入り口に立っていた。西ダンジョンの入り口は、東のそれと瓜二つで、切り立った崖にぽっかりと空いた横穴が、その深淵を覗かせていた。


「これが西のダンジョンか……」


 ライアスは静かに呟いた。彼の声は、長年の冒険で培われた自信に満ちていた。その視線は、闇の奥へと吸い込まれていく。


「東の大隊はどうなっているだろうか……」


 ライアスの背後には、第二大隊の面々が整然と並んでいた。彼らもまた、かつては過酷な運命を強いられていた者たちだが、その顔には、新たな人生を切り開くという強い意志が宿っていた。ライアスは彼らを一瞥し、力強い声で指示を出した。


「第一中隊は入り口付近の安全を確保せよ。第二、第三中隊はテントを設営、ここを拠点とする。偵察は三人一組の小隊で、無理はするな。目的はマッピングだ。まずはダンジョンの構造を把握する。奥に進むのはその後だ」


 ザックと同じく、ライアスもまた、慎重な姿勢を崩さなかった。探索の目的はあくまでも情報収集。無益な戦闘は避けるべきだと考えていた。


 中央本部からの通信が届き、第二大隊へ指令が出された。同時に、東ダンジョンにおける第一大隊の様子も報告を受けていた。


「よし! 第一中隊は私に続け!」


 ライアスはそう言い終えると、カンデラを掲げ、横穴へと一歩を踏み出した。その足取りは、経験豊富な冒険者のそれだった。ダンジョンの入り口はひんやりとした空気に満ちていた。


「この先、何が待ち受けているか……」


 ライアスはカンデラの光を頼りに、一歩また一歩と慎重に進んでいく。通路は緩やかな下り坂で、やがて開けた広間へと続いた。広間の中心には、東のダンジョンと同じく、巨大な水晶が鈍い光を放っている。そしてその奥には、さらに深くへと続く道が何本も分かれていた。


「第二小隊、右の通路を。第三小隊、左の通路を調査。第一小隊は私とこの広間をマッピングする。マッピング業務を最優先とし、戦闘は避ける。もし敵と遭遇した場合は、通信で私に報告し、私の指示を待て」


 ライアスは隊員たちに厳重な指示を出すと、第二、第三小隊はすぐにそれぞれの通路へと移動し、探索を開始した。ライアスは、東のダンジョンでも水晶が発見されたことを知っていた。この水晶に触れることで、何らかの現象が起きるのではないかと推測した。彼は警戒しながらも、水晶に手をかざした。


 ひんやりとした感触が彼の指先から全身に広がった。


「ジジジッ……こちら第二小隊。ダンジョンの奥で、ゴブリンを発見! 敵は二体、他は見当たらず。どうやら巡回している模様。如何しますか、指示を」


 通信機から、第二小隊の隊長の声が聞こえてきた。ザックの報告通り、やはりゴブリンがいたか。ライアスは、東の大隊が独断で戦闘に入り、ザックに叱責されたことを思い出していた。彼は同じ過ちを繰り返すまいと、慎重に言葉を選んだ。


「ジジジッ……こちら第三小隊。ゴブリン二体発見、こちらも巡回している模様。指示を」


 続けて第三小隊からも同様の報告が入った。ライアスは冷静に状況を分析する。ゴブリンは二体。数も少なく、脅威とは言えない。しかし、彼らの任務はマッピングだ。


 ライアスは通信機を手に、はっきりと指示を出した。


「第二、第三小隊に告ぐ。ゴブリンを刺激するな。交戦は避けて、静かに迂回し、マッピングを継続せよ。敵の巡回ルートを詳細に記録し、報告せよ」


 ライアスの指示は、戦闘を是としない明確なものだった。元奴隷の彼らが、手柄を立てたいという気持ちも理解できる。だが、このダンジョンは何かを封印するために造られた。ゴブリンは単なる魔物ではなく、封印の守護者なのかもしれない。迂闊に手を出せば、何が起こるか分からない。


「了解!」


 各小隊から返事が返ってくる。彼らは、ライアスの指示に迷うことなく従った。ライアスは、隊員たちが彼の意図を理解し、冷静に行動していることに満足した。


「ふむ……。これで良し。あとは、マッピングを完了させるだけだ」


 ライアスは、第二、第三小隊の報告を待つ間、水晶の広間の詳細なマッピングに取り掛かった。


 程なくして、ライアスの手元には、西ダンジョンの第一階層の情報がほぼ集まった。各小隊が迂回しながらも詳細にマッピングを進めた結果、この階層の全貌が明らかになり、第二階層へ続く下り階段の場所も判明した。残るは、わずかに残された不明部分の埋め立てだけだ。


「よし!」


 ライアスは満足げに頷いた。当初の目的はほぼ達成されたと言っていい。彼は通信機を手に取り、第二、第三小隊に最終の命令を下した。


「第二、第三小隊は、再度探索に入り、不明部分のマッピングを完了させよ」


 ライアスの声に、隊員たちは緊張した面持ちで耳を傾ける。そして、次の言葉に、彼らの顔が輝いた。


「なお、今回はゴブリンとの会敵は殲滅を許可する。第一小隊はここにて待機。以上」


 その瞬間、第二、第三小隊の面々は、待ち望んでいた命令に目を輝かせた。ゴブリン程度なら、元冒険者である自分たちには敵ではない。手柄を立て、大隊長に認められる絶好の機会だ。


「了解!」


 隊員たちの活気に満ちた返事が通信機から響く。ライアスは、彼らの意気込みを感じ取りながらも、静かに待機する第一小隊に目を向けた。殲滅を許可したのは、彼らの士気を高めるためだけではない。このダンジョンに潜む真の危険を探るため、彼らの実力を試す意図もあった。


 ライアスは、広間の中心に佇む水晶に再び視線を向けた。彼自身の直感が、このダンジョンの奥深くには、ゴブリンなどとは比べ物にならない脅威が潜んでいることを告げていた。


 その後、各小隊はゴブリンとの小競り合いを繰り返しながらも、第一階層のマッピングを順調に進めていった。壁に刻まれた古代文字や壁画、そして複雑に入り組んだ通路の形状が、すべて地図として正確に記録されていく。罠や隠し部屋らしきものは見つからず、この層には存在しないのだろうと結論付けられた。


 ライアスは通信機を手に取り、第一中隊に帰還命令を出した。


「よし! 第一中隊は、これにて帰還。本部にて第一階層の地図作成を優先せよ」


 彼の声は、命令を下す大隊長としての厳格さを帯びていた。


 第一中隊は、第一階層の踏破を誇りに思いながらも、静かにダンジョンの入り口へと引き返していくのだった。ライアスは、彼らの後ろ姿を見送りながら、静かに佇んでいた。彼の直感が告げるように、このダンジョンは、ただの遺跡ではない。この先に何が待ち受けているのか。ライアスは、静かにその全貌が現れるのを待っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ