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最終話 僕と龍哉くんだけの『物語』

よかった……。


彼女をそのままにしたら、絶対にダメだと思ったから。


短剣同士を合わせたら記憶がつながったんだから。


もしかしたら感覚もつながらないかなっていう行き当たりばったりが成功して!!


短剣だけじゃ足りなくて、ペンダントも足したら何とかなりました。


ありがとう、勇者な僕と厄災さん!


うん。


あの笑顔の僕を見れたなら、僕もまんぞ、く……?


「あ、れ?」


体に、力が。


「沙穂っ!?」


龍哉くんが、とっさに僕を抱き抱える。


おかしい。


龍哉くんのぬくもりがあるのに。


僕の身体が、冷えたままで。


全然、温まらない。


さっきまで平気だったのに、なんで。


「これが、理由だと思うよ」


彼女が、僕の短剣とペンダントを持っていた。


僕が冷えにくくなる不思議なペンダント……!


それが、今まで死神な力から僕を守っていてくれたらしい。


「それを、僕に……」


「それじゃ、だめなんだよ」


彼女は、優しい顔をしていて。


彼女は、ペンダントを自分の首にかけて。


僕の短剣を、構える。


まるで。


今から、自分の胸に突き刺そうとするように。


「待って……」


「ボクの壊れた異能を正さないと、君は助からない」


僕は動けなくて。


さっきから、僕に必死に呼びかけてくれている龍哉くんは、もう彼女が見えなくて。


止める方法は、なくて。


「この短剣とペンダントに残った、優しい力なら、大丈夫だよ」


へにゃりと笑った彼女は。


「龍哉クンが笑顔でいないと、駄目だからね」


ペンダントごと、その胸に短剣を突き刺した。




暖かい、風が吹いた。


月明かりに照らされた、砂のように崩れた地面が、緑に覆われて。


冷え切った僕の身体も、ぬくもりで満ちていって。


「沙穂……?」


僕を抱えたまま、龍哉くんが、僕じゃない僕を見ていた。


「やっと、この目で見れたね」


真っ白な、僕だった。


身にまとっていた黒い喪服が、白く輝いて。


全身が、淡く白く輝いていて。


そして、少しずつ解けていた。


「だから、もうじゅうぶんだよ」


それが。


僕には、光に消えていった勇者の僕と厄災さんが重なって見えて。




「だめ!!」




僕は、彼女に近付こうと立ち上がろうとして。


義足がないのを忘れて、そのまま地面を転がった。


転がって、転がって。


でも、そのおかげで。


僕の手が、彼女の足に触れる。


一人で、行かせちゃだめだ。


そんなの、そんなの。


「そんな終わりじゃ、龍哉くんが笑顔でいられないよ!!」


僕の言葉に、彼女は大きく目を見開いた。


龍哉くんにとって、君も沙穂だから。


一人で逝ってしまったら、龍哉くんは心から笑えなくなっちゃうから!


「だから、一緒に生きよう?」


僕は、彼女の足に縋りついて。


「龍哉くんなら、僕二人分だって、受け止めてくれるから」


僕は、龍哉くんと一緒じゃなきゃだめな子だから。


君も、龍哉くんと一緒じゃなきゃだめなんだよ。


「僕だって、君みたいにつよくなりたいから。一緒に居てほしいんだ」


へっぽこな僕だけど。


二人一緒なら、半人前ぐらいにはなれると思うから。


「……うん」


僕の手を取って、起こしてくれた彼女が。


僕を抱きしめてくれる。


僕も抱きしめてかえす。


「ボク、面倒くさいよ?」


「僕も、面倒くさいから、大丈夫だよ」


へにゃりと、笑って。


へにゃりと、笑い返す。


「面倒でも、いい」


龍哉くんが、僕たちを一緒に抱きしめてくれる。


「沙穂が、いてくれるなら……なんだってするから」


ぎゅっと、龍哉くんの抱きしめる力が強くなって。


「ここに、いてくれ……」


絞り出すような、泣きそうな声に。


僕たちは顔を見合わせて。


「これは、勝てないね」


「うん、勝てない」


いつも僕には勝てないって龍哉くんは言うけど。


僕たちだって、龍哉くんには弱いんだからね。


龍哉くんのお願いには、勝てないよ。


「ここにいるよ。ボクも、一緒に居たいから」


「うん。僕と一緒に居るよ」


ぎゅっと、龍哉くんに抱きしめられて。


ぎゅっと、龍哉くんを抱きしめて。


「これから、よろしくね」


彼女の顔が、へにゃりと崩れて。


そのまま光になって崩れて。


僕に、光が降り注いだ。




気を失っていたみたい。


気付いたら、目の先にはお月様。


龍哉くんの顔も、見える。


「起きたか?」


「……うん」


僕は座っている龍哉くんの腕の中でお姫様抱っこされていた。


……うぅ、いつもしてもらってるのに初めてされたみたいな感覚。


これは間違いなく僕の中にいるね!


会話は、できないと思う。


今までと、違うことはいっぱい出てくるかもしれない。


……なんか、なくなった義足が、あの子がつけてた金の義足になってるし。


「ねぇ、龍哉くん」


「……なんだ?」


十割増しで格好良く見える龍哉くんの笑顔に、これ慣れるまで大丈夫かな?と不安になりつつ。


「二人分の僕だけど、よかった?」


今まで通りにはいかない気がする僕だし、迷惑かける気しかしない。


龍哉くんは。


本当に幸せそうな笑顔で。


「じゃあ、二倍幸せだな」


へにゃりと、笑ってくれた。


その言葉に、胸の奥が熱くなって。


僕は、言葉が出なくなって。


へにゃりと、笑い返すので精いっぱいだった。








これは、僕と龍哉くんだけの物語。


ボクと龍哉くんから始まって、僕と龍哉くんが終わらせた物語。


だから。


この物語は。


ここで、お終い。


ここから先は。


僕と龍哉くんの、日常だから。

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