表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/43

第39話 静寂と願いと代償と……

気が付いたら、周りは静かで。


仲間のみんなも、誰も動いていなくて。


僕を取り囲むように、魔族たちが群れていた。


みんな憎悪にまみれたような顔をしていた。


人みたいなのから異形まで、おんなじ顔をしていた。


「あは」


乾いた、変な声が漏れた。


そっか。


憎いんだね。


僕たちも、それだけのことをしてきたから。


理解はできるかな。


うん。


でもね。


だけどね。


僕の大事なものを全部奪って、僕がどう思うかわかるかな?


もう、僕の周りには誰もいないよ。


僕の大事なものは、全部ないんだよ。


だから。


もう。


「あは」


抑える必要なんてない。


寒い。


寒いんだよ。


龍哉くん。


でもね。


龍哉くんがいてくれたから、僕は温かかったから。


それでよかったんだよ。


この力はね、寒いんだ。


命を吸うと、僕の命も吸われるようで。


死に近付いていくんだよ。


だけど、だれかに命を分け与えると温かくなる。


そういう力なんだよ?


だからさ。


今までは分け与えることで、温かくしてバランスをとってたんだけどさ。


全部、僕よりもっと寒くしたら。


寒くないよね?




空気が、乾いた音を立てた。


周囲の建物に、亀裂が走って。


取り囲んでいた魔族たちが、一斉に膝をついた。




何が起こったのかわからない顔で。


驚愕の顔で、僕を見ていた。


魔族の中でも強いだろう何人かが、それでも僕に向かってとびかかってきて。


その剣で、槍で、爪で、僕を突き刺す。


「あは」


痛い。


痛いよ。


……でもね。


龍哉くんがいないことに比べたら、気にするほどのこともないね。


僕が、剣を、槍を、爪に触れると。


すべて、崩れた。


僕の身体にあいた穴は、溢れるほどに奪った命で、あっさりと埋まっていった。


これで、龍哉くんも救えたらと思っても。


それは全部手遅れで。


何もかもだめだめな僕に、失望しかなくて。


それでも、生きるために、僕には。


止まるという選択肢はなかった。




先ほどまでの憎悪はどこにいったのか。


恐怖に震える魔族たちに、向かって。


「あは」


乾いた笑いとともに。


その命を、吸い尽くしていく。


魔族も。


仲間の亡骸も。


街の人々も。


街の建物も。


すべて、すべて吸い尽くしていく。


吸い取った命で、更に異能を深めていく。


広く、速く、強く。


すべてを飲み込むように。


何もかもが砂のように崩れていく中で。




──どんな願いも叶えてあげよう。




神様のその言葉に、すべてを賭けて。







僕の前に、一人の男の人が膝をついていた。


空は裂け、大地は焼け、何も残っていなかった。


すべてが瓦礫と化した世界には。


もう、僕とその人しかいない。


「もはや貴様は、勇者などではないな……」


魔王と呼ばれていた、ゲームだったら人気キャラになりそうな外見のその人は。


僕の手で、すべてが終わった世界の、最後の生き残りだった。


「際限なく死をもたらす、もはや神のごとき所業……死神とはよくいったものよ」


最早苦笑しか浮かんでいない魔王の言葉に、僕も苦笑を浮かべるしかなかった。


「ボクは弱いから、こうするしかなかったんだよ」


「よく言う」


事実だよ。


僕が、へなちょこでよわよわなのは変わってない。


だから、すべての命を奪ってでも、命を奪う方向に力を深めた。


すべての命を奪ったから、ようやくあなたの命に手がかかったんだよ。


僕は、そっと取り出した、白い短剣を構える。


龍哉クンから作った、遺骨の短剣。


それに、僕の力を乗せて。


もう、力を吸い尽くされて動けない魔王に近付いていく。


「一思いにやるがよい」


「うん」


力のない魔王の声に、僕も力なく頷く。


最後の一人になってしまった魔王は、抗う気力もなく。


僕の、力ない一突きで。


あっさりと倒れた。


僕を、憐れむように見つめて。


塵と崩れて消えていった。







異能を深めるたびに。


銀色だった僕の髪の色が抜けていった。


色が抜けきった髪は、嘘みたいに乾いた白色で。


龍哉クンが好きだって言ってくれた、銀色の髪はもうなくて。


きっと、龍哉クンにわかってもらえないかもって思ってしまった。


でも。


それでも。


終わったよ、龍哉クン。


それに、今の龍哉クンとお揃いと考えたら悪くないかもね。


僕は、そっと大切に真っ白な短剣をしまい込むと。


いつの間にか、僕の目の前には扉があって。


「見事だったよ、八星沙穂くん」


開いた扉から現れた、光で出来た神様に、僕は乾いた笑みを向ける。


「いやはや、予想とはかなり違うが、こう早いのも悪くない」


「願いを、叶えてくれますか?」


何か、感想のようなことを言ってくれてるみたいだったけど、それを遮る。


だって、僕には、それしかなかったから。


それに縋って、守るべきはずだった人たちも、すべてを終わらせてきたんだから。


「もちろん。どんな願いも叶えてあげよう」


そう語る、神様に。


僕はずっと思っていた願いを伝える。


「龍哉クンが、死なない世界を」


どんな形であれ。


龍哉クンが生きていてくれるのなら。


「本当に、その願いでいいのかい?」


僕がゆっくりと頷くと。


「君が、あの日に戻ってやり直すこともできるのだよ」


そんな魅力的な神様の言葉に。


僕はゆっくりと首を振る。


「ボクではもう、駄目なんです」


もう、僕は終わってしまった。


もう、彼のそばにいていい存在じゃない。


成長も止まって、食べることも寝ることもいらなくなって。


何より、それがもう僕の根っこにまで入り込んでる。


「今のボクが、戻るだけですよね?」


「そうなってしまうね」


だとしたら、僕は龍哉くんの害にしかならない。


異能を振り切った結果、命を吸うことしかできなくなった壊れた僕では。


「今のボクを元に戻して、やり直すことはできないですよね?」


「そうだね。二つは叶えてあげられない」


僕の言葉に、神様から予想通りの答えが返ってきた。


だから、いい。


「龍哉クンが、死なない世界を願います」


「いいだろう。君の願いを叶えよう」




だから。


ゆっくりと、遺骨の短剣を振り上げる。


その切っ先に、神様の願いが宿ったと、わかったから。


「ねぇ、龍哉クン──」


僕のいない世界で。


それでも、僕は君を。


僕の命をなげうってでも。


「今度は、ちゃんと、君を助けて見せるから」


振り下ろした切っ先が、地面に突き立ち。


確かに願いが、世界に届いたのを感じた。




「その願いでは、君は報われないのでは?」


僕は、願いが叶ったことを確かに感じて、微笑み。


「ううん、龍哉クンには辛い思いをして欲しくないんだよ」


そして、僕が龍哉クンを失う思いをして欲しくないんだよ。


「死なないでいてくれる、それだけで、いいんだ」


龍哉クンが死なないでいてくれる。


それだけで、僕の心は温かくなるから。








それが、どれほど残酷な仕打ちだったかを。


この時のボクが知るのは、ずっと先の。


今のボクにとっては、少しだけ先のお話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ