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第3話 ただいまとおかえりと

龍哉くんと一緒の帰り道。


僕は今日の体調を診断した龍哉くんに、歩行禁止令を出されました。


なので、今龍哉くんの腕の中にお邪魔しております。


「うぅ、今日こそ10分こえれると思ったのにぃ」


学校からの帰り道は、いつもなら僕のリハビリの時間。


最長歩行記録がどうしても10分に届かないんだよねー。


歩行記録って立派なこと言ってるけど、亀さんにも負けるんだけどね。鈍行記録?


「……あの時の衝撃で、接合部痛めてるだろ」


「うっ」


僕のへなちょこなよわよわぼでぃはお見通しですか。


「……うん、ちょっと痛い」


こういう時強がると、龍哉くんの顔が険しくなる。


怒ったりはしないんだけど、心配させたくないから強がるのはだいぶ前にやめた。


「帰ったら見るから、もう少し我慢してくれ」


ほんの少し、龍哉くんの歩く速度があがる。


龍哉くんは僕を抱えてるときほとんど揺れないから、分かりづらいんだけどね。


そんな龍哉くんのやさしさに、顔が勝手にへにゃりと緩む。


「そんなに痛くないから、大丈夫だよ」


そう伝えても、歩く速度を緩めることはなくて。


僕がちょっと早くなった龍哉くんの心臓の音に集中していたら、あっという間にお家についていた。





「ただいまー!」


「……ただいま」


龍哉くんが手慣れた動きで鍵を開けると、誰もいないお家に声をかける。


誰もいないから声は返ってこない。


だから。


「おかえり、龍哉くん」


「……おかえり、沙穂」


こうして、お互いにただいまとおかえりを言うことにしている。発案は僕!


迷うことなくリビングに直行する龍哉くん。


当然運ばれている僕はくっつき虫。


電気をつけた広々としたリビングの中の、オットマンつきのソファにぽふっと僕は座らせられた。


龍哉くんは迷うことなく棚から僕の義足のメンテナンスキットを持ってくる。


僕の義足を、まるでガラス細工でも扱うようにそっと持ち上げ、オットマンに乗せる。


「……痛くなかったか?」


手は迷うことなく動いているのに、視線は僕の表情の変化を見逃すまいと見つめてくる。


「うん、全然。さっきからじんじんしてる痛さだけだよ」


僕が強がっていないのを確認した龍哉くんが作業に戻る。


僕は龍哉くんが外しやすいように、スカートを少しめくる。


膝上からなくなった僕の足の義足は太ももでつながっている。


流れるような手つきで義足を外すと、龍哉くんが真剣な目で接合部を診断する。


「……少し赤くなってるな」


「やっぱり?」


体力も筋力もなさすぎる僕用にあつらえた義足はとっても軽い。


軽いんだけど、それでも僕が扱うのは大変だ。


そもそも義足になる前からころころ転ぶのが当たり前だったからね!


「薬を塗る……少し触るぞ」


「お願いします!」


優しく、本当に優しく龍哉くんの手が触れる。


じんじんと痛むところに、龍哉くんの温かい手が触れてすこしむず痒い。


ちらりと、僕の顔を覗き見た龍哉くんが、痛がってないとわかったのだろう。


すぐに視線を戻すと丁寧に薬を塗り、保護用のカバーをかぶせてくれる。


「今日は義足はなしだ。明日は、朝確認してからだな」


「はーい」


僕は返事をしながら、両手を龍哉くんに伸ばす。


僕の意図を汲んでくれた龍哉くんが、抱き上げて僕の部屋まで運んでくれる。


龍哉くんは僕を部屋の椅子に座らすと、クローゼットから部屋着一式を取り出し僕に手渡し部屋を出ていく。


別に、着替えぐらい平気なのに。


そうは思うけど、少しだけ開いたドアの外で待ってくれてることを知っている僕は。


大事にしてくれてる幸せを感じながら、待たせすぎないように急いで着替えた。




龍哉くんによってソファに宅配された僕は、ソファに寝転びながらキッチンに立つ龍哉くんをぼんやりと眺めていた。


我ながら情けないことに、苦手なたべものが多いし、食べる量もへなちょこな僕。


そんな僕のために、いつも龍哉くんは量は少なく種類は多く作ってくれる。


本音を言うと?


苦手なのはもうちょっと減らしてほしいなぁなんて思うけども?


……でも。


僕のためにあんなに作ってくれる龍哉くんを見てるから、そのわがままは一度も言えなかった。


苦手なものを食べさせようとものすっごい工夫してくれてるし。


苦手なのを飲み込んだらほめてくれるし。


すごい嬉しそうな顔するし!


……うん、頑張ります。




……あれ、今日は少ない?


僕の苦手なものが少ししかない。


ちろっと龍哉くんのほうを見ると、苦笑を浮かべた龍哉くん。


「……まだ調子悪いだろ?」


う、ばれてる。


熱が上がったり下がったりするのは僕にはけっこうつらい。


特に今日は英語と古文と数学くんたちが頭の中で踊ってたから頭も茹ってたし。


「……食べれるだけでいい」


「そういわれると、頑張りたくなっちゃう」


今日の苦手なのはニンジンくんとブロッコリーくんだけだ。


どっちも一口だけだから、頑張ればすぐ終わる……!


ニンジンくんはかなり甘く煮付けてあって、味付け自体はおいしいと思う。


でもどうしても特有のにおいが僕の鼻の頭をきゅっとさせる。


でも、いける、飲み込めそう!


両手でコップをつかむとごくごくと水で流し込むと、ふぅと息をつく。


次はブロッコリーくんだ。


新たな強敵に立ち向かおうと覚悟を決めていると、こっちを見ている龍哉くんと目が合う。


本当にうれしそうに目が細められている。


「がんばったな」


優しい、その低い声が心地よくて。


僕はへにゃりと笑い返した。

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