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第37話 僕と僕

お話ししましょうと意気込んだはいいけど。


何を話せばいいのだろうか!


色々と考えておけばよかった!!


なんて。


考えても僕はきっとうまくいかない。


だから、僕が思ったことを伝えることにする。


「僕は、最近思い出の場所巡りをしてて」


僕の言葉に、彼女がびくりと震える。


「そこで、思い出の場所が崩れてるのを沢山見てきた」


辛そうに、申し訳なさそうに伏せられた瞳が、口よりもはっきりと伝えてくれる。


伏せた瞳ににじむ後悔が、僕にはよくわかった。


「あなたも、思い出の場所をめぐってたんだよね?」


「……うん」


小さく頷く彼女は、うん。


びっくりするぐらい僕だった。


だったら、簡単だよ。


「崩れるなんて、思わなかったんだよね?」


驚いたように、彼女が僕を見つめてくる。


「だってそうなるってわかってたら、僕が行くはずないよ」


僕がそう笑顔で断言すると。


彼女の目から、ぽろりと涙が零れ落ちる。


「ボクが、こんなにも力を制御できないなんて、思わなくて」


「うん」


彼女は僕が胸がぎゅっとしてる時と同じように、胸元をぎゅっと握りしめる。


「龍哉クンとの思い出の場所を、終わらせるつもりなんてなかったのに」


「うん」


その痛みが、僕には自分のことのようにわかって。


「ボクの所為で、たくさんの思い出が、なくなっちゃった」


そんな泣き笑いを浮かべる彼女に、僕はなんて声をかければいいかわからなかった。




心配そうに僕が見ていたからか、彼女は一度大きく息をつくと。


何事もなかったように、落ち着いていた。


……一人でそれができるのは、僕には無理。


それだけでも、彼女が僕とは違うと思い知らされる。


「情けないところを見せちゃってからするのも変だけど、自己紹介まだったね」


金色の義足とかかとを合わせて、奇麗なお辞儀を披露される。


「ボクも沙穂、八星沙穂。魔王を倒すために世界を一つ終わらせた“死神”で、死ねなくなった死にぞこないだよ」


皮肉気に歪んだ口からそう語られた瞬間、冷気のようなのが膨れ上がって。


寒気が僕の全身を震わせた。


冷気に触れて、無事だった草花が砂のように崩れていく。


「……ごめんね、向こうでは力を抑えたことなんてないから、コントロールできないみたいなんだよ」


元気を奪う、なんてものじゃなかった。


死神って名乗った通り、文字通り命を奪ってる。


……っていうか、死神な僕強すぎない??


龍哉くんが300年かけて必死に倒した魔王倒しちゃってるし!


「君は、なんともないの?」


「うん、ぞわっとぶるっと寒気がしたけど……」


それだけかな。


「今のぐらいの力を受けたら、健康な人でも倒れて動けなくなるのに」


「ひぇ」


よよ、よくわかんないけどセーフ!?


龍哉くんがいっぱい持たせてくれた魔法の道具のお陰なのかはわかんないけど!!


……って、健康な人でも倒れるなら、僕だったら死んじゃってるのでは?


僕が慌てて後ろに視線をむけると、明かりを持っている龍哉くんも大丈夫そうだ。


「……同じ、ボクだから?」


「き、きっとそうだよ!」


そうであってください!




「それで、君は?」


「ぼ、僕は……」


ちょっと動揺している頭を落ち着かせながら、余り動かさない頭を考える。


……僕の説明すると、龍哉くんの説明が欠かせないぞ?


龍哉くんが見えてない彼女に、龍哉くんがいるってことを知らせて大丈夫なのかな。


遠くで何かがメキメキいってるけど、僕はそれどころじゃなくて。


「沙穂っ!!」


「ふぇ?」


慌てた龍哉くんが、僕を抱きかかえてその場を飛びのく。


直後に、轟音とともに砂がまき散らされる。


さっきまで僕がいた場所に、根元が崩れた木が倒れこんでいるのが見えた。


「ひぇ……ありがとう、龍哉くん」


僕は、いつものように当たり前に龍哉くんの名前を呼んで。


「龍哉クン……?」


能面のような顔になった彼女が、僕を見つめていた。


きっと、彼女の目には僕が不自然に浮かんでいるだろう。


「そこに、いるの?」


その声は震えていて。


冷気が、溢れる。


暴風のように荒れ狂う冷気が、僕の全身を震わせる。


倒れた木が暴風にさらされると、一瞬で崩れさった。


震える僕を心配そうに見つめる龍哉くんには、何故か効果はないみたい。


龍哉くんが無事なことに安堵したけど。


僕に向かって、ゆっくり近づいてくる彼女が怖かった。


「なんで、なんで」


溢れる冷気が、僕の全身を震わせるけど。


さっきの、同じ僕だから聞かない説が正しいのか、今のところ寒いだけだ。


周りは大惨事だけどね!


「なんで、ボクには見えないの」


彼女が、懐から一本の短剣を取り出した。


僕の遺骨の短剣と同じ色をした、違う形の短剣を。


「こんなに、大事に思っているのに」


彼女は、その短剣を愛おしそうに撫でながら。


ふと、風が彼女の義足に集まったように見えた。


金色の義足が、光った気がして。


「なんで、ボクじゃ駄目なの!?」


瞬間。


彼女の義足が地面を蹴って。


爆音とともに、すさまじい速度で僕にとびかかってきた。


「しゃがんで!!」


僕のとっさの言葉に、龍哉くんが即座に応えてくれる。


ただ、それでも。


すさまじい速度で振り抜かれた短剣が、反動で宙ぶらりんだった僕の義足を切り飛ばした。


「っ!?」


「沙穂っ!?」


その衝撃で、僕は龍哉くんの腕の中から転げ落ちる。


「……守ってもらったの?」


すぐそこに、短剣を持った手を振り上げた彼女がいた。


同じ僕だけど。


彼女は、龍哉くんと同じぐらいすごいんだって、あらためて思い知らされる。


僕なんかと違う、自分の力で乗り越えた人なんだって。


でも。


両手で、僕は短剣を握り締める。


僕だって。


「守られてるだけのボクじゃ、そばに居ちゃだめなんだよ!!」


「守られてるだけの僕でも、そばにいなきゃダメなんだよ!!」


この気持ちだけは、絶対に負けない!


もう二度と、龍哉くんにあんな顔をさせないから!!




振り下ろされた彼女の短剣を、僕の短剣で必死に受け止めて。


その瞬間。


世界が凍り付いたように動きが止まって。


彼女の短剣から、ボクの後悔が流れ込んできた。

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