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第34話 言いたかっただけなんだよ

息が荒い。


今、僕はどこにいるのだろう。


逃げるように。


気が付いたら、走り出して。


誰にもぶつからないように、人のいない場所へ。


誰の命も奪わないように、どこか遠くへ。


抑えきれない力が、溢れないうちに。


もう、奪いたくなんてないんだよ。


ただでさえ、罪に塗れた僕が。


こっちでまで、罪を重ねたら。


もう本当に、龍哉クンに合わせる顔がないんだよ。


僕は必死に走った。


走って。


走って。


いつの間にか、暗い場所に沈み込む感覚に包まれて。


懐かしい、声が聞こえた気がした。


僕を、本当の娘のように可愛がってくれた、おばさんの声。


不器用だけど、優しかったおじさんの声。


孫が増えたと、喜んでくれた龍哉クンのおじいちゃんとおばあちゃんの声。


懐かしくて。


懐かし過ぎて。


気が付いたら。


最後にみんなと話した、龍哉クンの実家の前に僕は立っていた。


立っている、はずだ。


だって。




実家があったはずの場所には。


大量の土砂に埋もれた家だったものが、残されたままだったから。


あの角に、昔みんなで写真を撮った小さな庭があったはずで。


みんなでスイカを食べた縁側も、その種を植えた小さな畑も。


でも、今はもう、どこだったかも分からなかった。


「あは」


そして。


死に敏感な僕は。


分かってしまった。


分かりたくないのに、分かってしまった。


そこに、誰が居たのか。


誰が、そこで終わったのか。


僕を呼んだのが、誰だったのか。


あの時。


僕と龍哉クンが召喚されたときに、みんながどうなっていたのか。


能天気に、元気だったらいいな、なんて。


僕は、そんな、ありもしない妄想を、僕はずっと。


「みんな、僕は……」


返ってこれたのだから。


あの時に、戻れるって。


僕は、馬鹿だ。


僕は、馬鹿なんだよ。


あんなことをした僕に。


世界一つ分の幸せを踏みにじった僕に。


幸せな未来が待っているはずなんてないって。


そんな、当たり前のことから、目を背けていたんだ。


「言いたかっただけなんだよ……」


だから、当たり前のことも許されない。


「ただいまって……」


当たり前の言葉さえ、僕にはきっと。


崩れ落ちた僕が、地面を握り締めて。


ずっと枯れていたと思っていた涙が。


溢れて、零れ落ちて。


涙とともに溢れた力が。




建物の痕跡を残していた、土砂に埋もれた龍哉クンのお家に、とどめを刺した。




「……ぁっ」


目の前で、土が砂に還っていく。


侵食していく力が、土砂を、建物を、砂に還していく。


僕の力は、止まらない。


与える力を捨てて、奪う力に振り切った力は、止めるすべはなくて。


胸を抉るような思い出でも、大切な思い出の場所を。


僕は、自分の手で終わらせた。


「あは」


もう。


乾いた声しかでなかった。


龍哉クン。


僕、もう。


君に合わせる顔がないよ。




せめて。


これ以上誰も傷つけない場所へ。


そう必死に自分に言い訳をして。


何か巨大なものが這ったような、山に向かって抉れた跡に導かれるように。


僕は、逃げ出した。

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