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第33話 勇者の力

尻もちをついた沙穂を助け起こしながら、俺は自分が震えているのに気付いた。


――沙穂と同じ顔をした、金の義足の女性


沙穂にしか見えていない、その人物の特徴的な義足。


それは、俺が助けられなかった異世界の沙穂がつけていたものだった。




金の義足は、召喚前の事故で足を失っていた沙穂に、王様が譲ってくれたものだ。


事故の状態のまま召喚された俺たちは重傷で、特に沙穂は瓦礫に挟まれて左足が潰れていた。


治療によって一命をとりとめたが、欠損した部位を再生するような便利な技術はなく。


代わりに勇者のためにと、沙穂に譲ってくれたのがあの金の義足だ。


国宝の魔道具の一種で、慣れれば運動音痴の沙穂でさえ健常者のように走り回れるすごい代物だった。


……本来は超人的な力を授けるらしいのだが、沙穂の身体能力が低すぎて健常者程度が精一杯だっただけなのだが。




だが、それは沙穂が死んでしまった後俺が直々に王様に返還したし、


その後の魔族と人類との決戦の際に使用され、魔王との戦いで失われたはずだ。


だから、存在しないはずなんだ。


そもそも、勇者の沙穂は死んだ。


俺が、この手で短剣に加工し、その短剣で魔王にとどめを刺したんだ、間違うはずがない。


それに。


「白い髪の、沙穂だったのか?」


「うん……白い髪で、赤い瞳の、僕だった」


抱きかかえて腕の中で震えている沙穂が、間違いないと頷く。


ただ、すぐに沙穂の眉が落ちこみ。


「でも、僕みたいなへなちょこ感がなかったというか……今の僕より、ずっと大人というか、強キャラ感が!」


沙穂の感想に、思わず肩の力が抜ける。


「それは、俺の想像できる沙穂じゃないな」


「どういうこと!?」


少なくとも、勇者の沙穂は、今の沙穂より覚悟は持っていたが、へなちょこなのは一緒だった。


想像上ですらへっぽこと言外に語った俺に小さく抗議してくる沙穂をなだめつつ。


俺は、さっきから痕跡を調べている司書に視線を向ける。




さっきまで不審者の姿をしていた司書が、その姿を露わにして全力で調査していた。


白いロボットにも、白いミイラにも見える細い長身が、異様に長い複数の腕を動かしている。


俺の従魔の中でも最も頭がいい……というか、頭のいい奴全部混ぜた存在だから、正直敵わない。


従魔作成も魔道具の管理も、異世界知識はこいつに頼り切りなぐらいだ。


中核になってるのが、人間側の恩人だから素直に頼りになるのだが……今はいい。


検分が終わった司書から、情報を受け取る。


「魔力が、ない?」


地球は、異世界ほどではないがうっすらと魔力が存在している。


燃費に気を付ければ、異世界の道具も従魔も稼働できる程度には。


それが、この一帯から消えている。


正確には、その白い沙穂らしき人物が移動したと思われる場所の魔力が、だ。


俺でも、強引に周囲の魔力を吸収することはできるが、薄くなっても消えはしない。


そのうえで、その痕跡の場所の無機物の劣化が進んでいるらしい。


戻ってきた影喰いからも、灯篭の一つが、特にその根元が異常なまでに風化して崩れ落ちていたと報告があった。


──魔力を消す力、風化させる力


どういうことだ?


だがこれで少なくとも、沙穂の見間違いや幻覚という線は消えた。


間違いなく、何かが居たのは確実だ。




「ねぇ、龍哉くん」


俺が考え込んでいると、沙穂が俺の腕を引く。


「どうした?」


「龍哉くんは、神様からアイテムボックスって力をもらったんだよね」


その問いに、俺は首を振る。


「いや、本当はアイテムボックスも沙穂の力だった。沙穂が、俺に譲ってくれたんだ」


「そうだったの!?」


沙穂が、自分に巻き込まれた俺に、何の力もないのは駄目だと。


神様に強く主張した結果、神様が沙穂から俺に移し替えたのだ。


「おぉ、それは僕にしてはナイス判断!」


「それがなかったら、俺はここにいないからな」


本当に、沙穂には救われてばかりだ。


俺が沙穂への感謝をかみしめるのを、沙穂が嬉しそうに眺めて。


「って、そうなんだけどそうじゃなくて!」


思い出したように、小さく手でその話題を遠くに置く動作をする沙穂。


「異世界で勇者として召喚された僕の力って、なんだったの?」


沙穂が、胸元のペンダントのある場所をぎゅっとする。


「そう言えば、話したことはなかったな」


当時の沙穂の説明を思い出す。


……沙穂が説明してたから、感覚的なんだよな。


「確か、“元気を貰う力と、元気を渡す力”だったかな」


「……元気を移動させるってことかな?」


難しいことに頭が痛くなってる顔をしている沙穂に、少しほほが緩む。


「敵のスタミナを奪って、疲労している味方を回復させたり、切り傷ぐらいなら癒したりしていたな」


「回復職だったの!?」


弱体役も兼ねてたから、支援職が正しいかもな。


長期戦でも疲労とは無縁で戦えたりと、大活躍だったよ。


「相手の元気を奪えるってことは、それで奪いつくして倒したり?」


「いや、それはできなかったみたいだな」


奪うたびに、味方に分け与えていたはずだ。


「確か“元気を奪うと寒くなる、元気を分けると温かくなる”だったか。そんな制約があったらしい」


実際、奪い過ぎた時は真っ青になって震えていたからな。


「寒くなるのは無理無理!寒さに震えるのって本当に辛いんだよ……」


「そうだな、だから支援しかさせなかった」


一人で寝ることすら危ない沙穂には、使うたびに寒くなっていく力は想像するだけで怖いのだろう。


ぷるぷると、震えていた。


……。


おい司書、「可愛い姿が見れてよかったですな」じゃねぇよ!


思ったけど、確かに可愛いなって思ったけど、黙ってろ。




それにしても。


白い沙穂と、風化して崩れた本棚に灯篭。


関係があるとしたら、勇者の異能だが……。


元気を奪う力を際限なく使ったとして、風化するものなのか。


なぜ俺たちには見えないで、沙穂にだけ見えるのか。


そもそも、何故沙穂と同じ顔で、金の義足をしているのか。




俺の知らない、何かがまだあったってことかよ、神様。

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