第32話 僕と君とのすれ違い
女の子が一人で神社に来るとか、お守りかな?
なんて、一人で来てる僕が言うのもおかしいかな。
泣いていたみたいだし、失恋でもしたのかもしれない。
失恋は一大事だからね。
その割には、僕を見る目が怖がっていたような?
……まぁ、白髪赤目だし、自分のことながら浮世離れしてるとは思うけど。
ちょっとショックかもしれない。
なんて。
あれだけのことをしでかした僕が、この程度でショックなんておこがましいかな。
それにしても、どこかで見たような気がした子だったけど……。
僕の知り合いには、いないはず。
……なんて、知り合いなんて、龍哉クン以外誰も覚えていないんだけどね。
龍哉クンの家族は大丈夫。
ちゃんと覚えてる。
みんな、元気にしてるといいけど。
そう想いを馳せながら、僕は境内をあとにした。
どこに行こうかと迷っているうちに、駅にたどり着いていた。
お休みなのか、駅前には人が溢れている。
小さい子から学生さんに、大人にお年寄りまで。
こんなに人がいっぱいなのはいつぶりだろうか。
その流れに混ざりながら、僕はそれを眺めていた。
そういえば、電車に乗って遠出とかは、龍哉クンの実家に行ったときぐらいかな。
早くにお父さんが亡くなって、病弱なお母さん一人だった僕には家族の思い出はない。
僕にとっての家族の思い出は、龍哉クンの家族との思い出だけだ。
家族同然に可愛がってくれたみんなは、僕にとっても家族同然で。
その中でも、龍哉クンはやっぱり特別だ。
小学校に上がりたての頃に、僕が龍哉クンにべったりで。
普通なら、邪険にされてもおかしくないのに、大事にしてもらえた。
それを見ていたおじさんに「沙穂ちゃんは龍哉のお嫁に来るか?」と言われて、必死で頷いたっけ。
駅前の家族の中に、そのころの龍哉クンぐらいの男の子がいたから、思い出しちゃった。
思い出に浸りながら眺めていたら。
無邪気に駆け回っているその男の子が、僕の前で躓いた。
僕は慌てて抱き留めようとして。
──僕の身体を、男の子がすり抜けた。
「あ、れ?」
背中から、男の子の泣き声が聞こえてくる。
慌てて追いかけてきたお父さんが。
僕を避けようともせず、そのまますり抜けていった。
そして。
続けて追いかけてきた、おじいさんががすり抜けるとき。
抵抗を感じて、僕はふらりと揺れて。
おじいさんはそのまま膝をつき。
慌てて、お父さんが抱き留める。
僕は、それをまともに見れなくて、人波から離れたビルの近くに逃げるように駆けて。
鏡のようなガラスの窓に。
僕が映っていないのに気が付いた。
「あは」
乾いた笑いが、僕の喉奥からあふれ出た。
崩れ落ちた僕の手が、タイルの隙間から生える雑草に触れて。
緑色だった雑草が。
じわじわと色褪せ、茶色く朽ちて、崩れていった。
それどころか。
タイルすら、徐々にひび割れはじめた。
──花畑から去った時に、視界の端に映った、風に舞った乾いた花弁。
──本棚にしまうときに、色褪せていた動物図鑑。
──神社で聞こえた、何かが崩れ落ちた音。
気にしていなかった。
気にしないといけなかったことが、いくつも浮かんでくる。
僕が持つ、命を奪う異能。
元々神様がくれたのは、命を分かち合う異能だった。
それを、僕は間違った使い方をして。
そして、僕は望んだとおりの力を得た。
僕を庇って死んでしまった龍哉クンの願いを叶えるために。
魔王を倒して龍哉クンの死なない世界を願うために。
癒しの力を捨ててまで、僕は命を奪う方向に異能を振り切った。
……魔王を倒すのに、すべての命を奪わないと届かないとは思わなかったけど。
僕は魔王の命を奪った。
そして世界にたった一人残った僕は、もはや死そのもので。
死ねなくなった僕は長い間遺された世界でずっと一人だった。
まさか、文字通りの死神で、見えなくなってるなんて思わなかったけど。
そしてきっと、命にあふれているものには触れれない。
僕の纏う死に耐えられない、小さな命か、死が近いものを除いて。
だから、きっとあの花畑は見る影もなくなって。
動物図鑑は塵になって。
灯篭は崩れてしまったんだろう。
僕がしでかしたこと事実が、僕の胸に突き刺さる。
──そういえば。
神様は、僕が龍哉クンに会えるかって言葉に何も言わなかったな……。
それに気づいてしまった時。
僕は、あんなに楽しくて仕方なかった世界が、急激に色あせて見えて。
しまい込んでいた力が、あふれ出しそうになって。
「もう……会えないのかな」
こぼれた自分の声が、震えているのに気が付いた。




