第31話 白い影
神社へ続く階段。
小さい頃は、僕じゃ登り切れないぐらい長く感じた階段は、今はもっと長く感じる。
僕一人じゃ登れたとしても日が暮れちゃうので、龍哉くんに抱えて登ってもらう。
結構な長さの階段なんだけど、僕を抱えてもまったくぶれないし息も乱れない龍哉くんすごくない?
情けないぐらいに小さくて軽い僕だけど、それでもお米よりはずっと重い。
それだけ、鍛えてくれたってことを改めて感じると、つい顔がへにゃりとしちゃう。
僕がへにゃったのを見逃さなかった龍哉くんが、少しほほを緩めてくれた。
図書館の事故のあと、簡単に状況を聞かれただけで、怪我もなかった僕たちは解放された。
しばらく閉鎖して、他も劣化してないかの調査をするんだって。
僕も影ちゃんがいなかったら大惨事だったし、それがいいと思う。
僕としてもデートどころじゃなくなったけど、代わりに気になることがはっきりした。
なので、異世界探偵龍哉くんの捜査がはじまったよ!
あ、僕は事務所住みの猫役ね。
何の役にも立たないからちょうどいい配役だと思う。
癒しだけはお任せあれ!
……話がそれちゃった。
なので、思い出巡りは続行。
ただ、龍哉くんが従魔さんたちを準備してた。
影ちゃん達は増員してるし、僕たちの後ろにはフードを目深にかぶったコートの怪しい人影が一つ。
龍哉くんが司書って呼んでる、閉じられた眼だけが描かれた仮面のような顔をした人?型の従魔さん。
ものすごく頭が良くて、魔力関係にものすごく詳しいんだって。
見た目はかっこいいと怖いの間ぐらいだけど、現実だとさすがに大騒動になっちゃう。
だから残暑なのにコート着せちゃってる。
中身は気さくなおじいちゃんだから熱中症が心配になるね!
……僕がそういったら、龍哉くんが二度見してきた。
どっちが理由かは聞かないでおくね?
境内に到着!
龍哉くんに下ろしてもらった僕は、疲れてもないけど両手を広げて体を伸ばす。
……当たり前に抱っこしてもらってるけど、照れないわけじゃないからね?
そういう気持ちをリセットするためには必要なのです。
龍哉くんが、影ちゃん達に指示を出しているのを横目に、久々に来た神社を眺める。
お祭りのときとか以外は、本当に人が来ない場所。
今も、白くて長い髪の女の人かな。
その人がお賽銭箱があって、神様にご挨拶する場所にいるぐらい。
「誰もいないな」
「もう少しいてもいいのに、女の人一人は寂しいよね」
僕が何気なく言った言葉に。
龍哉くんの眉が寄るのが見えた。
「どこにだ?」
「え、あのお賽銭箱があって、神様にご挨拶する場所?」
「拝殿か?」
そうそう、それそれ!
僕が名前がわかってすっきりしていたら。
「俺には見えない」
「……え、あの長い髪が真っ白の人なんだけど」
僕は、はっきりと見えている人を指さす。
龍哉くんも、司書さんも首を振る。
それって、もしかして……。
「ゆゆゆ、ゆうれいさんとか!?」
「異世界基準の幽霊なら見える。なんなら倒せる」
わぁ頼もしい!
って、その龍哉くんにも司書さんにも見えないってどういうこと!?
日本の幽霊は世界的にも別物って聞くけど、異世界相手でも通用しちゃうとかかな!?
僕がそんな想像をして青ざめていると。
──重くて硬い何かが崩れ落ちる音が聞こえてきた。
とっさにそっちに顔を向ける。
あっちは……僕がここに来る目的だった灯篭がある方向!!
流石にこの音は龍哉くんにも聞こえていたみたいで、即座に影ちゃんを何人か向かわせる。
「あっちには、思い出の灯篭が……」
また、僕と龍哉くんの思い出が……。
ひどい。
ひどいよ。
大事な、大事な思い出なのに。
300年頑張り続けて、擦り切れちゃった龍哉くんには残ってない、思い出してほしい大事な思い出なのに。
僕は、涙が浮かんでくるのをこらえるので必死だった。
戻ってきた影ちゃんの報告を受けていた龍哉くんが、僕を見て沈痛そうにうなずく。
「その灯篭で、間違いない」
こらえきれなかった涙があふれる。
灯篭が崩れたことと。
僕が辛いから龍哉くんも辛い。
そんな顔をしてる龍哉くんには、それぐらいしか思い入れが残っていないこと。
二つが、僕の胸をぎゅっとさせる。
本当なら、龍哉くんに思い出せてもらえたのに。
涙をぬぐいながら、僕は拝殿のほうに向きなおる。
白い髪の人はまだいた。
振り返った姿は、この世のものとは思えなかった。
透き通るような真っ白な長い髪。
血のように真っ赤な瞳。
黒いワンピースは、喪服のようで。
それ以上に特徴的なのが。
左足を覆う、
「金色の、義足……?」
僕がつぶやいた言葉に、龍哉くんが慌てて振り返った。
僕と、僕が見ている先を何度も見ようと必死で。
龍哉くんがこんなに必死な顔をするのは、僕のことだけだった。
だから、よりはっきりと分かった。
何よりも。
「……僕?」
彼女は、僕の──八星沙穂の顔をしていた。
まっすぐ、彼女がこちらに向かって歩いてくる。
「来てる……」
僕は怖くなって、避けるように横にずれて。
龍哉くんが、僕をかばうように前に出る。
白い僕は、奇麗な金属音を響かせながら、軽やかに歩き。
すれ違う時に少しだけ、不思議そうに僕の顔を覗き。
龍哉くんや従魔さんたちが、まるで“見えていない”ようで。
僕の顔を見て首をかしげただけで。
そのまま神社から立ち去って行った。
僕はぺたりと座り込んで。
それを見送ることしかできなかった。




