第30話 僕の君への恋心
久々に読むと、絵本も面白いね。
本なんて読むのが、いつぶりだったかわからないぐらいなのもあったかな。
図書館では、龍哉クンと読んだ絵本を読んだ。
大人げなく、あの時みたいに、寝転がって。
大きくなっても、絵本って意外と面白いんだなって。
動物図鑑もすごくよかった。
異世界の動物や魔獣しか思い出せなくなってたから、地球の動物ってこんなのだったんだって。
不思議な新鮮さがあったのがよかった。
本棚にもたれかかりながら、思わず読み切っちゃった。
行儀悪かったかもだけど、人のいない時間にこっそり入ったし、迷惑かけてないからいいよね。
神社へ続く階段。
小さい頃は、僕じゃ登り切れないぐらい長く感じた階段も、軽やかで。
金の義足で石の階段を上るたびに、澄んだ金属音が響く。
異世界にいかなかったら、たぶん今でも一人では登れなかったと思う。
龍哉クンだったら、昔みたいに僕を待ってくれるかな。
それとも、抱きかかえて登ってくれたり?
なんて、それはないかな。
だとしたら、それはあまりにも夢を見過ぎだと思う。
いくら僕が小さくても、それを抱えて階段上るなんてふつうはしないよ。
それでも、龍哉クンだったらって思っちゃう辺り、僕は彼に夢を見過ぎだね。
もっとも、今の僕なら隣を歩けるから、待たせることはないけどね。
短く感じた長い階段を登りきると、懐かしい光景が広がっていた。
それなりに大きな神社は、昔の思い出そのままで。
かくれんぼしたあの時の姿が、目に浮かぶようだった。
あそことか、あそことか。
小さな僕が隠れた場所が思い浮かんでいく。
今だったら、隠れきれないかな。
昔は、すっぽりと隠れられた場所をめぐりながら、そんなことを思う。
色々な所に隠れたけど。
僕の思い出の場所は、外れた場所にある灯篭だ。
表からは見えない場所を、しゃがんでのぞき込む。
「まだ、あったんだ」
小さい落書き。
相合傘で、ひらがなで。
──さほ、たつや
僕が隠れながら書いた、小さな落書き。
ちっちゃい頃から、僕は龍哉クンが大好きだった。
呆れられたし、文句もいっぱい言われたけど。
僕がへっぽこすぎていっぱい迷惑かけたけど。
それでも。
離れることも、置いてくこともなく、ずっと待っていてくれた。
手が届くところに、いつもその背中があった。
目だけは僕をずっと見ていてくれた。
そんな龍哉クンを、好きにならないわけないよね。
幼い恋心でも、大好きなのは間違いなかった。
「会いたいよ……」
僕の口から、思わず想いが零れ落ちた。
灯篭に指を這わせながら、小さな相合傘から目を離さずに。
「龍哉クンどこにいるの……?」
龍哉クンの気配が、感じられない。
“命”に敏感な今の僕が、誰よりもずっと触れていた龍哉クンの気配を感じられないなんて。
もしかして、引っ越した?
地震で龍哉クンの家族にも何かあったのなら、それもありえる。
……考えても、僕の足りない頭じゃわからないや。
僕の力は、地球で使うのにはあまりにも危なすぎる。
それに使っても、龍哉クン探しには何の役にも立たないから使ってないんだよね。
有り余ってる時間で地道に探す?
それも悪くないけど、僕と違って龍哉クンの時間は有限だ。
死ねない僕だけど、龍哉クンが生きてる間には会っておきたい。
うー、でも龍哉クンがほかの女の子と一緒になってるのは見たくないー!
龍哉クンが幸せだったらいいとは思ってるけど、それはそれこれはこれ。
僕だって恋する女の子だ、嫉妬ぐらいさせてほしい。
まぁ、何百年も経ってるから、女の子って年でもないけどね。
成長は止まったままだけど。
とりあえず、神様がいるのはよーく知ってるから。
こっちでも神頼みかな?
神社の本殿に向かい、お賽銭はないから手を合わせるだけで。
龍哉クンに会えますようにとお願いをしていると。
どこかで、重いものが崩れた音が聞こえた気がした。




