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第29話 崩れていく思い出の地

待ちに待った休みの日。


今日は朝から龍哉くんと一緒に思い出の場所を巡る日だよ!


口には出してないけど、僕はデートだとこっそり思ってます。


と言っても、デート用の服とかないからいつも通りなんだけどね!


生きるのに精一杯な僕にはそこまで気を回す余裕がなかったんだよね。


体温管理最優先だったし。


でも、最近は余裕出てきたからそういう服も欲しいかも。


……ただ、ぜんぜん気にしてこなかったからおしゃれがわからないんだよね。


今度クラスの女の子達に聞いてみようかな?




「最初は駄菓子屋さん……って思ったけど、今はコンビニになってるよ」


「仕方ないが、残念だな」


元駄菓子屋さんのコンビニで買った駄菓子のチョコをもぐもぐ。


駄菓子屋さんほどじゃないけど、コンビニでも駄菓子が買えるのは嬉しいよね。


「でもあのコンビニ、駄菓子屋さんのおばあちゃんのお孫さんがやってるんだって」


だから、コンビニなのに駄菓子コーナーが充実してるんだって。


僕の好きだった駄菓子もあって満足です。


「そうか」


思い出が今に繋がってるのがわかって、龍哉くんがうれしそうで僕もうれしい。




僕が喜んで駄菓子を選んでいるとき、龍哉くんは眺めているだけだった。


多分、龍哉くんは自分が好きだった駄菓子を覚えていない。


駄菓子を選ぶのに喜んでる僕を見て、微笑んでただけだ。


だから、僕はカートに龍哉くんが好きだった駄菓子も山ほど入れました。


帰ったら思い出の駄菓子パーティーだ!


うん。


買い物袋がぱんぱんです。


買いすぎたかもしれない。


駄菓子買うのひさしぶりだったからつい!


ちなみに買い物袋は龍哉くんが人目のないところでアイテムボックスにしまってくれました。


便利!!




身軽になった僕らが次に向かったのは。


「図書館か」


「そうそう、小っちゃいころに夏休みの自由研究で一緒に本を探したよね」


地元のそこそこの大きさの図書館だ。


難しい本はさっぱりだし、中高の勉強は龍哉くんが教えてくれたので来ることはなかったけど。


小さいころに二人で絵本を探しに来たのを覚えてる。


よし、図書館の中は足元がしっかりしてるから、歩くぐらいは僕でもできる。


龍哉くんに下してもらって、図書館の中へ歩いて入いろうと思う。


無理せず、ゆっくり。


ペンダントのおかげで体温管理が楽になったけど、運動神経さんはいまも行方不明のまま。


こういう時、龍哉くんは隣で見守ってくれるけど、手を出さないでいてくれる。


転びそうになったらすぐに助けてくれるけどね。




久々に来た図書館は、本の匂いがして懐かしく感じる。


小さい頃とは配置がかわってたりするけど、よく覚えてる。


子供向けのコーナーで本を広げて、龍哉くんと二人で寝転びながら読んだっけ。


ただ今子供向けコーナーは、ロープで仕切られてはいれないようになってる。


立ち入り禁止の立て札まであるね。


「どうしたんだろ?」


「聞いてくる」


龍哉くんが、職員さんにお話を聞きに向かってくれた。


こういう時の判断は早いんだよね。


これは異世界の経験かな。龍哉くん、昔は意外と人見知りしてた気がするし。


僕は待っている間、一人で記憶にある背の高い本棚に近付いた。


動物図鑑が見たくて、この本棚の手の届かない所にあったんだよね。


今だったら届くかな?


確かあの辺りにあったような……。


色褪せているけど、見覚えのある背表紙が見えた。


背伸びすれば届きそう。


動物図鑑に向けて、背伸びするために棚に触れた時、感じたのは本棚の木の感触じゃなくて。


乾ききった粉の感触だった。


頑丈なはずの棚が、僕の手の中で簡単に崩れて。





「え?」


目の前で、棚そのものが崩れた。


僕に向かって、高い本棚から雪崩のように棚と本が崩れてくる。


時間が引き延ばされたように見える僕には、崩れているのが棚だけじゃなくて。


その周囲の本も、同じように崩れているのが見えて。


色褪せた動物図鑑も、衝撃で崩れていくのが見えた。


それに、胸が痛む暇もなく。


次の瞬間、僕の身体が足元から何かに引っ張られる


「ひゃぁっ!?」


急加速に体が悲鳴を上げる。


でも、轟音とともに迫ってくる本の雪崩にそれどころじゃなくて。


間一髪、僕は雪崩に巻き込まれずに済んだ。


呆然と足元を見ると、僕の下半身に黒い影が纏わりついているのが見えた。


「影ちゃん……」


僕の護衛として、ずっと付き添ってくれていた影ちゃんが助けてくれたみたい。


「沙穂っ!!」


ものすごい勢いで龍哉くんが駆け寄ってきてくれて、即座に僕を抱き上げる。


「怪我はないか!?」


「う、うん。影ちゃんが助けてくれたから平気。ありがとね、影ちゃん」


僕の影が、手を振る様に揺れていた。


龍哉くんが、ほっと息を吐いた。


僕を抱き上げている腕が少し震えている。


影ちゃんいなかったら大惨事だったからね。


大丈夫だよ。そう伝えたくて、僕は龍哉くんの手をそっと握った。




静かだった図書館が騒然となり、職員さんたちが慌ててこちらに向かってくるのが見えた。


「ねぇ、龍哉くん。子供向けコーナーが閉鎖されてたの、本や棚が崩れてたから?」


「……そうらしい。もしかして、あの棚も?」


「触ったら、粉みたいだったよ」


普通じゃなかった。


何をどうすればあんなふうになるのか、僕には想像もつかなかった。


だから、これはきっと。


「異世界がらみ、だと思う」


「……俺もそう思う」


枯れた花。


割れた人形。


崩れた本と棚。


たぶん、全部関係してる。


それに。


「全部、僕と龍哉くんの思い出の場所が関係してる気がしてる」


気のせいかもしれない。


たまたまかもしれない。


でも、僕の中の何かが、そう強くうったえていた。


僕はぎゅっとペンダントを握りながら。


崩れた本棚をみて、大きくため息をついた。


──デートは終わりだよね。


それどころじゃないんだろうけど。


それが僕には一番残念だった。

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