第2話 冷えた手を温めてくれる人
「やっと終わったよぉ~」
一日の授業がおわり、へにゃへにゃになった僕は、机に体を投げ出す。
机のひんやりしたのが気持ちいい。
ほほを机にくっつけながら、日直で黒板をきれいにしている龍哉くんを眺めてみる。
改めてみてもおっきいなぁ。
すれ違うクラスの男子と比べても全然違う。
(たしか、この前の身体測定で190cm超えたって言ってたっけ)
肩幅もあるし、筋肉もすごい。
なんか、体力測定で学校記録全部更新したんだったっけ。
でも、あの背中を見てるとなっとくしちゃう。
今日のノートもすっごいわかりやすかったし、教えるのも上手。
それに比べて、僕はどうだろう。
まだ140cmにもとどかないちびっこで、全身ぷにぷに。
体力測定は倒れるからと測定不能!
お情けでやらせてもらった握力測定は驚異の一桁を記録した。
頭もへっぽこだし、家事もできないないないずくし。
うぅ、自分で言ってて悲しくなってきた。
……でも、龍哉くんはそんな僕がいいって言ってくれる。
いろいろとほかにも面倒くさい僕なのに。
でも、龍哉くんがいないと一番困るのは僕だから、ありがたく甘えておこうかな。
「……すまん、待たせた」
日直の仕事を終わらせた龍哉くんが、まっすぐに僕の所にやってきてくれる。
「ぜんぜん。ずっと見てたから、すぐだったよ。」
へにゃりと笑う僕に、ふっと笑い返してくれる。
当たり前のように僕の鞄を背負ってくれた龍哉くん。
待たせちゃいけないと、立ち上がろうとして。
力の入りようのない左足が崩れ落ちた。
「ひゃっ」
運動神経なんてどこにもない僕には、どうしようもなくて。
でも。
天井がぐるりとひっくり返ったと思ったら、龍哉くんの胸の中にいた。
あんなに遠かった龍哉くんの顔がすぐそこにあった。
「……少し冷えすぎだ。」
僕を抱きかかえたまま、額を合わせて熱を測る龍哉くんの声がすぐ近くで聞こえる。
目の前にある龍哉くんの瞳の奥が揺れている。
「うん、ごめんね」
冷えきった体が、龍哉くんの熱でぽかぽかしてくる。
その温かさをもっと感じたくて、龍哉くんに体を預ける。
少し、僕を抱える腕の力が強くなった。
力強い龍哉くんの心臓の音に、安心して僕のちからは抜けきってへにゃへにゃだ。
「……左足から踏み出したら危ない」
「……うぅ、気を付けます」
何度目かわからない注意に、へんにゃりしてしまう。
恨めし気に睨んだスカートから覗く左足は、真珠のような白色をしている。
失った僕の足の代わりではあるけど、運動神経が家出した僕ではどうにも使いこなせない。
まぁ、もし足があっても転んでた気はするけどね!僕だし!
……だから、そんなにつらそうな目で見ないで、龍哉くん。
龍哉くんは顔の左半分を、もっといえば左半身を覆う火傷をしてまで、僕を助けてくれたんだから。
僕の命を助けてくれたのは、龍哉くんなんだから。