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第28話 思い出の味

龍哉くんに抱きかかえられての帰り道。


今日はちょっと寄り道して、今は数が少なくなってきた商店街に来ている。


最近龍哉くんは、こっちで異世界の技術の再現とかに挑戦してるんだよね。


それで、利用頻度が上がったのがお肉屋さん。


普通なら捨てるような骨とかを安く譲ってもらってるらしいよ。


龍哉くんの実験は小箱の中でするから何してるかはよくわからないけどね。


僕にわかるのは、最近お肉料理や、骨のお出汁のスープを使った料理が増えてうれしいぐらいかな!


まずおいしい部位を優先的に料理に回して、残りを実験に使ってるみたい。


僕が喜んでくれるのが優先なんだって。


その気持ちがうれしくてほっぺは緩むし、おいしくてほっぺは落ちるしで僕のほっぺはもうだめかも。


元から緩みっぱなしだから、あんまり変わんないかもだけどね。




お肉屋さんの前のベンチに並んで座って、そこで買った出来立てのコロッケをもぐもぐ。


ソースもいらない、味がしっかりついたここのコロッケ好きなんだよね。


ちっちゃい頃に、ここ通るたびにわがまま言った気がする。


「やっぱり、美味いな」


「ね、美味しいよね!」


お店だから出せる味には、さすがに龍哉くんも敵わないんだって。


やろうと思えばできるけど、手間とお金を考えると買うのが一番だって言ってた。


何より、思い出の味には勝てないって、ほころんだ顔をした龍哉くんの横顔に、胸がぎゅってしたのを覚えてる。


「それにしても、お肉屋さんのマスコット代わりの人形さんなくなってたね」


カウンターの上に置いてあった、昔からずっとあったぶさ可愛い人形さん。


前来たときは、くたびれてはいたけどあった気がするんだよね。


「経年劣化か、ひび割れて崩れたらしい」


「そうなんだ……残念」


龍哉くんがちょっと悲しそう。


僕らがちっちゃい頃からあるから仕方ないけど……」


「形あるものはいつか終わるっていうけど、当たり前にあったのがなくなるのは悲しいね」


「あぁ」


龍哉くんは、僕より思い出を大事にしている。


僕にとっては当たり前だけど、龍哉くんは間に300年を挟んでるからね。


当たり前の光景が、本当に懐かしくて仕方ないんだと思う。


……僕との思い出の場所しか懐かしさを感じないあたり、筋金入りだけど。


龍哉くん本人はそれが当然らしくて、無自覚らしいのが卑怯だと思う。


当たり前のように剛速球を投げられる僕の身にもなってほしい。


受け止めきれなくて毎回デッドボールだよ!


しかも、肩の力が抜けた龍哉くんは、昔の話を僕によく聞いてくれる。


どうしても300年が濃すぎて思い出が霞んでいるのが寂しいらしい。


へっぽこな僕の頭でも、龍哉くんとの思い出はしっかり覚えているからね。


それに。


僕が思い出話を語ると、龍哉くんは噛み締めるようにうれしそうな顔をしてくれる。


その嬉しそうな顔を見ていると、異世界がどれだけ大変だったかを感じられて泣きたくなってくる。


でも、喜んでる可愛い龍哉くんのためにも、そんな気持ちはぎゅっとしまっちゃうけどね。


──だから。


最近少し嫌な感じが続いてるのが、気になってる。


お肉屋さんの人形さん。


小さい頃に一緒に見た花畑。


それがなくても、花壇とか野花とかが枯れたりって、少し変だ。


たまたま悪いことが続いてるだけだとは思うんだけど……。


そう言い切れない何かが、僕の胸をぎゅっとし続けていた。


「ねぇ、龍哉くん?」


「どうした?」


そういう不安は、解消するに限るからね!


僕は龍哉くんに提案することにした。


「あいてる時間にさ、思い出の場所巡りとかしてみない?」


「いいのか?」


龍哉くんの頬が緩む。


これはかなり喜んでる顔だね!


「僕が話すだけより、見たほうが龍哉くんもはっきり思い出せるでしょ?」


帰ってきた後の龍哉くんは、あまりにもよわよわの僕に付きっ切りだったからほとんど行けてないらしいし。


「そうだな」


ほころんだ笑顔で応えてくれた龍哉くんに、思わず僕もへにゃりと顔が崩れる。


前より破壊力が爆増した龍哉くんの笑顔に、胸が高鳴って痛いぐらい。


それに、僕としても。




龍哉くんとデート、したいし?

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