第27話 僕と君の思い出の場所
こんな日が来るなんて、思ってもいなかった。
静かで、何も変わらない日々が永遠と続くと思っていた。
左足の金属製の義足が、コンクリートを踏みしめる。
当たり前だと思っていた地面の感触に、こんなにも心が浮き立つ日が来るなんて。
僕は昔に住んでいたアパートに送り届けられた。
住んでいた部屋の表札が変わっているのに物寂しさを感じながらも、それ以上の興奮を胸に街へ飛び出す。
道端の花壇に咲く花にさえ、懐かしさで涙がでそうで。
そっと触れた花の感触にほほが緩んでしまう。
目につく野花にさえ、こんなにも目を奪われる。
そんな驚きに胸が温かくなる。白いちいさな野花をつつく。揺れる花が可愛い。
そうだ。
小さい頃に龍哉クンと一緒に行った花畑を見に行こう。
時間はいっぱいある。
それにこの調子だと、会えたらその場で気を失ってしまいそうだよね。
だから、思い出していこうかな。
色褪せた記憶に色を塗る様に、一つずつ。
思い出が色づいたら、会いに行ける気がする。
久々に見る街並みは、懐かしさと新しさでいっぱいだった。
思い出の駄菓子屋さんはもうなくて、コンビニになっていたり。
でも一緒に本を探した図書館は変わらず残ってる。
商店街はどうだったかな。
印象に残ってるお店は覚えてるけど、いっぱいあってよくわからないかも。
小学校は流石に変わってないね。そういえば結局小学校も卒業できなかったな、僕。
かくれんぼして遊んだ神社はどうだろう。あそこの灯篭にした落書き残ってるかな?
ハイキングに行った吊り橋は、変わらずあそこにあるのかな。
どうしよう。
僕今、楽しくて仕方ないや。
王様に貰った金の義足は、今も変わらず僕の足以上に軽やかで。
小さい頃はすぐにばてて、龍哉クンにおんぶをねだっていたけど、今なら隣を歩けそうだ。
鼻歌に合わせるように、金のかかとを踏みしめて。
澄んだ金属音が、軽やかなリズムを告げてくれる。
こうして踊る様に歌ったら、君は合わせてくれるかな。
龍哉クンは歌が得意じゃなかったから、駄目かもしれないね。
それとも、大きくなって今なら格好良く歌えるようになってるのかな。
会いたいな。
会いたいな。
誰にも届かない歌とリズムを奏でながら、僕はその時に思いをはせる。
気付けば、記憶と変わらない花畑が広がっていた。
僕の好きな白い花が、一面に広がっている。
夏が終わったばかりだから、記憶よりも青々しいかな?
僕は躊躇なく、花畑に寝転んだ。
龍哉クンとも、こうやって隣り合って寝転んだんだよね。
小さかった龍哉クンと、もっと小さかった僕が、手をつないで。
ずっと、つないでいれると思ってたんだけどな。
でも、また会える。
だから、大丈夫。
思い出は色づいた。
次に向かって、僕は歩いて行ける。
起き上がった僕は、次はどこに行こうかと思いをはせる。
そっと立ち去った花畑から、乾いた花弁が風に舞った。




