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第26話 いつも通りのはずの日常

夏休みが終わってすぐのまだ残暑がきびしい一日。


授業の合間の休憩時間に、僕はへにゃへにゃになって机に体を投げ出していた。


机のひんやりしたのが気持ちいい。


ほほを机にくっつけながら、先生に頼まれた荷物を運びにいっていない龍哉くんのことを思う。


「まさか、本気じゃなかったとは……!」


色々あった夏休みに、僕と一緒に辛い辛い過去を乗り越えた龍哉くん。


実は今まで強がって格好つけ続けていたという可愛い事実にときめいたりしたけど。


肩の力を抜いて自然体になった龍哉君は。


もっとすごかった。


まさか、今までの甘やかしが遠慮していたとは思わないよね!!


僕以外には分かりづらかった表情も柔らかくなって、そのギャップに大量の尊死が発生してるとかなんとか。


それに、従魔さんたちが密かに僕のサポートをしてくれてるからか、龍哉くんもだいぶ気を抜けるようになった。


その結果が、体育の授業とかを本気で楽しむ龍哉くんだった(もちろん無双してる)


しかも!


いつも通り見学してる僕に「見ててくれたか?」って無防備な笑顔を投げてくれるんだよ。


そんなの死んじゃうよね、主に僕が!!


なんか流れ弾で大量に尊死してる気がするけど見ないことにする。


そんなわけで、事件後の龍哉くんが強すぎる。


ただでさえ、恋心を自覚したばっかりの僕には刺激が強すぎるので、こうして机で頭を冷やしているのです。


それに。


ペンダントのお陰か、これぐらいなら体調を崩さなくなったのもとっても大きい。


前みたいに机ぐらいで冷えすぎてへなちょこになる心配はあんまりなくなったのだ!


もしも一人で転びそうになった時の為に、影ちゃんが僕の影にずっと潜んでくれてるしね。


僕もすっかり能力者気分だよ!


全部龍哉くんの子だけどね!




「戻った」


一人では持てそうもない、何往復も必要そうな大量の書類をあっさりと運び終えた龍哉くんが戻ってきた。


これがただの鍛えた肉体っていうのが恐ろしいね!


龍哉くん、異世界ぱわーで肉体強化とかしてないらしくて、純粋な筋トレの結果らしい。


……なんかあの時めちゃくちゃ跳びまわってたけど、あれただの生身でやってたの??


異世界よりファンタジーな気がするよ龍哉くん!


「おかえりー!」


机につっぷしながらへにゃりと笑う僕に、優しく微笑み返しながら、自然に僕の額に手を当てる。


「……大丈夫そうだな」


「うん、これぐらいで心配かけなくていいからすっごい嬉しい」


僕の言葉に頷き返し、額に当てていた手で自然に僕の頭を撫でてくれる。


「本当によかった」


ほどけるような優しい笑顔が浮かぶ。


その笑顔はだめだよ龍哉くん!流れ弾流れ弾!


後ろからなんか可愛い断末魔が聞こえた気がするよ!


免疫の強い僕でもきゅんきゅんするんだから普通の女の子には致死量だよ!




常に僕をサポートできるように、龍哉くんは僕の隣の席が定位置。


お昼になって机をくっつけっこして、僕は龍哉くんが持ってきてくれたお弁当を受け取る。


体幹とかいう言葉が存在しない僕が持つとぐちゃぐちゃになっちゃうからね!


特に、最近の龍哉くんのお弁当ならそれは避けたい。


従魔さんたちのおかげで家事に余裕ができた龍哉くん。


朝もかなり時間が空いてる。


その結果、龍哉くんはお弁当を凝りだした。


そう。


キャラ弁だ!!わーいかわいいー!!


食べれる量が少ない僕のお弁当箱は本当に小さい。


なのに、キャラの再現だけじゃなくて、場面が想像できるような工夫が凝らされている!


お弁当の中に物語が詰めてある……!


なのでお昼開始五分ぐらいは女の子たちによるキャラ弁撮影会が最近の日課です。


えへへ、いいでしょー!!


僕がどや顔でお弁当を掲げるとみんながいっぱい写真を撮ってくれる。


……ところで、なんで僕も含んでるの??


いまいちなっとくできないけど、みんながほくほく顔で戻っていくからいいか!


女の子軍団が去っていき、龍哉くんと二人でお昼ご飯。


見た目も最高だけど味も最高なんだよね!


……どれだけの手間暇かけてるんだろ?


僕には想像できない工夫がこらされているであろうお弁当。


うん。考えてもわからないし、おいしく食べるしかないね!


満面の笑顔でもぐもぐしている僕を、龍哉くんは優しい顔で見つめてくれていた。




お弁当がひと段落。


龍哉くんが小分けにしてくれているデザートのみかんのシロップ漬けをぱくり。


「……そういえば、なんかひどいいたずらが起きてるんだって」


「悪戯?」


女の子軍団から聞いた話だけどね。


「花壇とか、花畑とか、野花に除草剤が撒かれてるみたいで、枯れちゃってるんだって」


「それは、ひどいな」


結構無差別で色々な所のお花がいじめられているらしい。


僕も一応女の子、お花とか好きだからそういうのを聞くと心が痛む。


中には、小さいころに龍哉くんと一緒に見た花畑とかも被害に遭っているみたい。


「誰がそんなことするのかなぁ……」


お花をいじめて何が楽しいんだろうね。


「……悪戯だとしても、少し異常な気はするな」


一瞬、目つきが鋭くなる龍哉くん。


その300年を超えてきた鋭い眼光は格好良さ100点満点なんだけどさ。


後ろから、誰かが突っ伏した音が聞こえる。


流れ弾、多すぎないかな?


僕の龍哉くんが最高に格好いいのはわかるけど、みんな見すぎ!!

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