第25話 もう一人の
崩れきった世界に、僕の鼻歌が響いている。
「――♪」
僕は、何も言わない白い短剣を撫でていた。
ずっと、ずっと。
何百年も、ずっと、ずっと。
知りえない願いの先を妄想している。
願いを託した僕は、龍哉クンを助けられたかな。
龍哉クンは笑顔でいてくれてるかな。
僕以外のいい子を見つけられたかな。
そう思ったら胸が痛むけど、龍哉クンが幸せならいいかな。
龍哉クンは大きくなれたかな。
大きくなる前に僕をかばって逝ってしまったから、大人の龍哉クンを見ることはできなかった。
きっと、すっごく格好いいんだろうなって。
結局大きくなれなかった僕と並んだら、見上げるぐらい大きいんだろうな。
いいな。
すごくいいな。
とっても素敵な光景だと思う。
でも、僕の龍哉クンは、こんなに小さくなってしまった。
両手で抱えられるこの短剣しか、龍哉クンだったものは残っていない。
長い年月が経っても変わることなく愛おしいけど、甘やかしてくれることはない。
やっぱり寂しいな。
数えきれないほど繰り返してきた妄想の、その締めはいつも寂しさだった。
死ねなくなった僕は。
僕が終わらせた世界で。
終わることも許されず、ずっとこの日々を繰り返していく。
そう思っていた。
崩れきって止まっていた世界が、動き出した。
崩れた世界の破片が、空へと昇っていく。
解けて光に還っていく世界。
その光景を、僕は呆けた様に見上げていた。
奇麗だな。
そう思いながら見上げていたら。
いつの間にか、扉があった。
扉の隣には、光でできた人影――神様の姿。
「彼のお陰で、しがらみは解けた。だから、これからこの世界を作り直す」
龍哉クンはすごいな。
僕ではできなかったことを成し遂げたんだね。
「だから、君にはあちらに戻ってもらうことになる」
神様は優雅な動きで扉を開く。
「ボクは、戻れるの?」
いつに?
「君がいた場所ではないが、彼がいる世界だよ」
龍哉クンに、会えるの?
いつの間にか僕は立ち上がっていた。
会える。
龍哉クンに会える。
永い事凪いでいた心が、荒れ狂っていくのが分かる。
「会いたい」
荒ぶる心のままに、僕は歩き出す。
変わり果てた僕に気付いてくれるかわからないけど。
透けるように白くなった髪も。
色が抜けて血のように赤い瞳も。
あの頃の僕とは違うけど。
「きっと、気付いてくれるよね」
待っててね龍哉クン。
君が覚えていなくても。
会いに行くから。
僕は、神様の扉をくぐり。
消え去る世界を振り返ることなく。
世界を渡った。




