第23話 閑話:アイテムボックスのお話
少し前、厄災さんが還った後の夏休みのある日。
龍哉くんがアイテムボックスをいじっているのを眺めていた。
「整理まだまだかかりそうー?」
「あぁ……どんだけため込んだんだ俺」
灰色の小箱をいじくりまわし、時々違う色に変わっていくのを不思議そうに見つめていた。
「色分けに何か理由とかあるの?」
「細かい分け方はあるが、ざっくり三色に分けてるな」
龍哉くんが青、黄、赤の三色の小箱を取り出す。
「安全な青、注意の黄、危険の赤だ」
順番に並んでるのが、どう見てもあれにしか見えない。
「信号機みたいだね?」
「そりゃ、信号機が元だからな」
分かりやすさを重視したんだね。
そういえば、当時の龍哉くんは小学生だっけ。
「で、灰色は未分類だな」
黒いアイテムボックスの中に、みっちり詰まった灰色の小箱を見せてくれる。
「うえぇ、そんなに入ってるの?」
それは時間もかかるってもんだね!
「どれだけ入るの?」
「容量は無制限だな。ただ、入口の大きさに限界はある。教会の尖塔とかはほぼ上限だな」
なんで教会の尖塔が入ってたか聞かないけど、聞けば聞くほどとんでもないね異世界。
「ただ、俺が無理なく管理できる範囲は限りがあるから、整理は大事だ」
「ピンチの時の未来のロボットさんみたいになっちゃうわけだ」
「そういうことだ」
箱からあれでもない、これでもないと色とりどりの箱を取り出す龍哉くんを想像したらちょっとかわいかった。
「従魔さんたちは?」
「他のと同じように色分けして、従魔用の区画に整理してある感じだな」
龍哉くんが、青色の小箱を取り出し、そこから一匹の従魔さんを呼び出した。
猫サイズの、真っ黒な子狐さんだった。
額の赤い印以外は全部真っ黒。くりっとした瞳もふっさふさの尻尾も真っ黒だ。
「かわいい!え、龍哉くんの従魔さんに普通に可愛いだけの子いたんだ!」
「身に覚えしかないから反論できないが……」
龍哉くんが子狐さんに手を伸ばし……前足で叩き落とされた。
あ、しょんぼりしてる。
表情は変わってないけど、雰囲気でわかるやつだ。
「おいでー」
僕が手招きすると、飛びつくように跳んできた。
「わぁ、ふっさふさだー!」
僕の腕の中に飛び込んできた子狐さんを撫でると、想像以上にふさふさもふもふだ!
ちょっと、動きが時折おもちゃみたいにかくかくするのを気にしなければ普通に可愛い!
……うん、だから慣れるまではびくっとするのは許してほしいな。
とりあえず夜は気を付けたいと思う。
ちょっとびっくりしてる僕を見ていた龍哉くんが、目を背ける。
「……製造時に、ちょっと」
「そのちょっとがすごい気になるんだけどぉ!」
理解できそうにないし聞くの怖いから聞かないけどね!
「そいつは、ざっくり言うと悪い空気を吸って浄化してくれる」
「わぁ、ざっくりだー」
でもすごくない?
可愛いペット兼空気清浄機とか、世界狙えるよ?
「量産とかできる?」
「国際指名手配されてもいいなら」
「中止で!!」
真顔で言わないでほしいなぁ!
まったく、龍哉くんったらダークヒーローにもほどがあるよね。
でも。
それを当たり前に受け止めちゃってる僕も僕だよね。
子狐ちゃんにお手をしつけてみると、当たり前のようにお手をしてくれる。
え、何この子頭良すぎない?
他の芸もすぐにこなしてくれるとか、どれだけ頭がいいのかな。
ちらりと龍哉くんを見ると、口を固く結んで首を振っていた。
うん、知らない方がよさそう。
とりあえず可愛いからよし!
「とりあえずそいつは家の中を縄張りに設定して常駐させる」
「わーい、ペットだ!」
子狐ちゃんがずっといてくれて嬉しいので、思わず子狐ちゃんとハイタッチ。
ぷにぷにの肉球がとってもいいね!
うん、かくかくと首をかしげるのはもうちょっと待ってね、可愛いって思えるようになるから!
「じゃあ、おトイレとかいろいろ買わないとだね!」
「……いや?そいつは食事も排泄もないぞ」
……生き物?
むしろロボット説ある?
「一応、悪い空気をエネルギーに動いてる、と思ってくれれば」
「エコだね?」
世界が変わっちゃうよねそれ!
……そもそも、異世界帰りの時点でそれどころじゃなかった!
うん、今更だったね。
「他の従魔さんたちも?」
「一応、魔力で動いている。幸いにも、こっちにもあるみたいだな」
こっちにもあるんだ!
「え、魔力があるってことは、魔法とか使えるの!?」
「いや、魔法とかは無理だな。道具を使えば似たようなことはできる世界だった」
あ、そういう系だったんだ。
意外と現実的な異世界ってやつ。
そういえば、龍哉くんのアイテムボックスは神様からもらったやつだって言ってたもんね。
「だから、燃費の悪い従魔は補充兼ねて大体小箱の中だな」
「とがちゃんとかも出せないもんね」
僕が初めて会った従魔のとがちゃんは、数百メートルとかいうとんでもサイズ。
街中でだしたら大災害だからね!
「あとは、そうだな。出すだけでやばい奴が何体か」
流石手段を選ばなかった龍哉くんだ。
存在がバイオハザードな子がいるらしい。
「そういえば、あの時に小箱を持ってくれてた、半透明の触手の子は?」
龍哉くんの超格好いい連続攻撃を支えていた子だ。
厄災さんに切られて大変なことになっていた気がする。
「今は小箱で再生中だな。魔力与えておけば生えるから大丈夫だ」
「生えるんだ……」
すごいな触手さん。
「従魔関係はそんなところか」
「なんとなくわかったよ!」
なんとなくね!
僕のへっぽこを甘く見ないでもらいたい。
「なんとなくで十分だ」
そういって僕の頭をぽんぽんとしてくれる。
そして子狐ちゃんが龍哉くんの足を前足でしばいてる。
思わず、僕は笑ってしまって。
龍哉くんも、苦笑いを浮かべてくれて。
従魔さんたちが増えても、結局僕たちはかわらない気がした。
「……家事は楽になったな」
影が家中を走り回って掃除洗濯と大立ち回り、
影ちゃんたち大活躍だね!
……やっぱりかわってるかも?




