第1話 プロローグ:僕の自慢できる唯一のもの
──あの時、君を失って、それでももう一度会いたくて。
全てを壊した先で、君が笑う場所に辿り着けた。
これはその、奇跡の先の日常の話。
僕には、自慢ができることが一つだけあるんだ。
へなちょこな僕だけど、一つだけ。
「うわーん、ぜんぜんわかんないよー!」
数学ってなんでこんなに難しいんだろうか。
しかも、授業は待ってくれない。英語と古文でいっぱいいっぱいだった僕のちいさな脳みそに、さらに数式がはいってぐちゃぐちゃだ。
「って、あれ、ちょとまっ!?」
運動神経なんてどこにもない僕が勢いよく頭を抱えたから、傾いた椅子がバランスを崩す。
倒れる!
そう思った瞬間、僕の背中に暖かな大きな手が触れて、僕の背中をそっと押してくれる。
倒れずに済んで、ほっと息を吐いた僕は、その大きな手が誰かを知っている。
「ありがとう、龍哉くん!」
自分でもゆるんでるとわかるへにゃりとした笑顔を向けると。
「……気をつけろよ」
凄く優しい視線を向けてくれる、小さな小さな僕には不釣り合いな、大きな大きな男の子。
そして、当たり前のように椅子をもって僕の隣に腰掛けると、奇麗にまとめたノートを僕の机に広げてくれる。
「……どこが、わからないんだ?」
「どこ、って言われると英語と古文と数学なんだけど……」
自分でも情けないとわかってる答えに、龍哉くんの口角があがる。
「なら、まずは頭の整理からだな」
そういって、僕の絡まった頭の中を、ひとつずつ解いてくれる。
お互いに座っているのに見上げるほど高い目線と目が合う。
目が合った、それだけなのに。
龍哉くんの目が、すごく優しくて。
僕も、思わずへにゃりと笑顔になってしまった。
僕の自慢できる唯一のもの。
世界で一番恰好いい、僕のヒーロー。
そんな彼が、僕を彼女にしてくれたことだった。




