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第17話 厄災と魔王と約束と……

これは俺の異世界の記憶、300年の続いた長い長い魔王との戦い、その結末だ。




白い津波。


それは、白い異形の群れが、国一つを蹂躙している光景だった。


大地を埋め尽くす、骨と肉でできた従魔達が、数の暴力で魔王の国を貪っていく。


抵抗を続ける魔王軍の手で一時勢いが削がれても、それ以上の数をもって押しつぶしていった。


津波が過ぎ去り赤黒い平野と化したかつての街並みを、踏みつぶしてゆっくりと俺は進んでいった。


なぁ、魔王。


お前とは長い付き合いだが、最後にしよう。


なに、お前の愛する国民も一人残らずついて行ってくれる。


寂しくはないだろ。


白い津波が消し飛ばされている魔王城に向かい、俺は進む速度を上げた。




数えきれない従魔を蹴散らし、膨大なはずの魔力を減らした魔王に、呼び出した従魔をさらにけしかけていく。


「一体、一体何なのだ貴様は!」


飛び込ませた巨大な黒鉄の狼の爪を弾き、返す刃で鋼鉄そのものの体を引き裂きながら魔王が叫ぶ。


「勇者でなくば余は殺せぬ!貴様は誰よりもそれを知っているはずだろうに、何故だ!」


あぁ、そうだな。誰よりも知っている。


三度も殺し損ねているんだ、嫌でも覚える。


「何故、罪もない余の民を執拗に狙った! 何故意味もなく余に挑む!?」


単純に素材補充に最適だったからだ。


意味はお前が死ねばついてくる、十分だ。


「もはや余以外では抗えぬ程の厄災と化してまで、この世で最も邪悪な魔獣に成り果ててまで、何故だ!?」


『お前を殺すためだ。一途でいいだろ?』


開いた口からは、最早人間らしい声は出てこなかったが、魔王の顔を見る限り伝わったんだ、なら上等だろう。



逃げようとする魔王の足に無数の骨の大蛇が絡みつく。


お前相手に長持ちはしないが、時間稼ぎには満点だ。



背中の巨大な翼腕で、脈動する竜翼の大剣を振り下ろす。


聖剣かと思うほどに美麗な剣でかろうじて受け流した魔王が、魔力を過剰に注ぎ込む事で強引に大蛇を振り切った。


「貴様、それは我が臣下の翼……!!貴様は、何処まで、何処まで我らを冒涜すれば気が済むのだ!!」


いい出来だろう?


魔力炉として埋め込んだ頭蓋から、恨めしい瞳が睨んでくるのが特にな。


その度に魔力炉がうなりをあげてくれるのが悪くない。


怨念増幅炉とか言うのを考えたあんたの部下の研究成果だ、喜べ。



巨大な骨でできた軍馬に蹴りを入れて加速させると、大蛇によって息が乱れた魔王との距離を一気に詰める。


「余の愛馬を、そのような姿で辱めるとは……貴様は、貴様は……!!」


魔界最高の名馬だったな。


死んだらお前には使い道ないだろう。


有効活用に感謝してくれ。


こいつも、お前に会えて泣くほど喜んでる。



アイテムボックスからもう一つ、似た形状の色違いの竜翼の大剣を取り出す。


素材は年代物だが、よく似ている。二刀流に最適だ。


たしか……この剣の母親だったか?


魔力炉もいい調子だ。



怒りのあまりに声も出なくなったのか、逃げることをやめた魔王がもう一本剣を取り出し襲いかかってくる。


なかなか格好いい剣だな。


嫌いじゃないぞ。


質量差をものともせず、2対4本の剣が拮抗する。



だけど悪いな、こっちの手は十分に足りている。


お前は人型。


俺は化け物。


3対6枚の翼は2対が翼腕。


それに元々ついてる手も空いている。


六刀流と洒落込もう。



新しい武器を取り出すたびに、魔王が驚愕と怒りが混じった顔で百面相だ。


槍に槌に剣に鎌。


よかったじゃないか魔王、感動のご対面だ。


俺はきれいに忘れたが、お前には忘れられない臣下だったか。


魔力炉も臨界寸前で機嫌がいい。



暴発前提で魔力が込められた武器が魔王の剣に叩き込まれ、砕け、ヒビを入れ、砕け、叩き割る。


いい剣だな魔王、特に砕ける時の甲高い音が気に入った。


是非もう一回聞かせてくれ。


「余の剣を奪うだけでなく、余に臣下の命を奪うことまで強用するのか、貴様はぁ!!」


そういやまだ生きているんだったな。


大丈夫だ、全員揃って使い潰す。


仲間はずれはない、安心してくれ。



みんな仲良く逝ってくれ。



残った4本を叩きつける。


3本目で魔王の剣が砕け散り、4本目が魔王の体に食い込んだ。


豪奢な鎧が引き裂かれ、その身に深く裂傷を刻む。


だが。


「甘いわ、この程度では余の心臓には届か、っ!?」


悪いな魔王。


俺には立派な尻尾もある。



全魔力と質量を持って振り抜かれた禍々しい槍尾が魔王の腹を貫き地面に叩きつけた。


血反吐を吐く魔王が、余計な動きをする前に、予備の槍でその四肢を縫い止めていく。


「だが、ここまでしても無駄よ……貴様では決してとどめを刺すことは出来ぬ……」


よく知ってるとも。


しかも、時間経過でリスポーンだろ、お前。


三度も逃してるんだわかっているさ。




その三度以内で死んでくれてればよかったのに。


そうすれば、俺はこんな事しなくて済んだのに。


『お前が、死なないのが、悪いんだよ』


俺は歯が砕けるほどに食いしばりながら、アイテムボックスの奥底に手を伸ばす。


我ながら禍々しい武器しか入っていないアイテムボックスで唯一。


俺の甲殻と鱗で覆われた手では、触れただけで砕けてしまいそうな、乳白色の華奢で美しい短剣を取り出す。



それを見た魔王が、驚愕に目を見開く。


「貴様、それは何だ……何故、それから勇者の気配がする……!!」



5本の腕で魔王を押さえつけながら、俺は短剣を握りしめて。



「まさか貴様、勇者を、勇者の亡骸を辱めたのか、貴様は!!それは貴様が何度も叫んだ求めるべき全てではなかったのか!?」


俺の事理解してくれて嬉しいよ、魔王。


お互い人生で一番長い付き合いだ。


俺がそうしたように、最後の最後で俺の一番痛い所を抉ってくれる。



そうだよ。



俺が救いたかったのに救えなくて。


救えなかった彼女が無意味になんてならないように。


その為にお前を300年も追い詰めた、俺の全部だよ。



だからな、お前が死んでくれば、俺はこんな事しなくてよかったんだ。



目に焼きついて取れなかったはずの、沙穂の死に顔が。


思い出せなくなっても、死に顔でもいいから忘れたくなかった顔がよ。


お前が死なないせいで、骨になって朽ちた沙穂の顔しかもう思い出せねぇんだよ、俺は!!



振りかぶった短剣を、力任せに魔王の心臓に突き立てる。



そんな沙穂の骨を、砕いて、砕いて、砕いて。溶かして、整えて。


何してんだよ俺は!?


誰よりも守りたかった女の子に、俺は何してんだろうなぁ!!



……だからよ。


全部てめぇが死なないせいだ。


お前が一度目で死んでれば、お前の家族に手を出す必要だってなかったよ。


お前の部下も、根絶やしにすることなんてなかったさ。


だから死ね、死んでくれ。


もう何でお前を殺したかったも忘れたが、死んでくれよ。


もう俺にはそれしか残ってないんだ。




何度突き刺したのだろうか。


あんだけしぶとかった魔王は、何も言わなくなっていた。


全く動かない魔王が、崩れていく。


四度目で初めて見る光景。


正直は三度目までにして欲しかったよ。



崩れて消え去っていく魔王の心臓に突き刺さっていた短剣が、砕けた石畳に落ちて綺麗な音を響かせる。


……ごめんな、沙穂。痛かったよな、乱暴にしてごめんな。


ガラス細工に触れるようにそっと掬い上げると、俺はアイテムボックスの奥深くに仕舞い込んだ。


生き残った従魔も、勝手にアイテムボックスに戻っていき、もう自分以外誰もいなくなった。



終わった。



終わっちまった。



何で俺こんな事してたんだっけか。



……あとは、そうだな。



何か、やり残したっけか。



……。



あぁ、そうだ。



こんなにしちまったけど。



沙穂をもう一回、墓に……。







そう思った時、気づいたら別の場所にいた。


初めて来た場所じゃない。


何処だっけか。


「見事だったよ、周防龍哉くん」


見覚えのある、光でできたような男が目の前に現れた。


「勇者の従者として、否ただの巻き添えとして呼び出された君が、まさか魔王を倒すとは、この目で見ても信じられないよ」


神。


そうだ、地震で死ぬ寸前の俺と沙穂を掬い上げてくれた。


「君のおかげで、ずっと煩わしいと思っていた難題も解決に向かっている。本当に感謝しかない。」


あの時、俺と沙穂に魔王を倒してくれと言ったこいつは、なんて言った?


「だから、あの時の約束通り」


あの時、確か。


「「どんな願いも叶えてあげよう」」


自然と口から出た言葉が、神の言葉と重なる。


「ぁぇ…?」


どんな願いも……?


「そうだ、どんな願いでもいい。不老不死でも、無限の冨でも、どんな願いでもだ」


なら、俺の願いは。


俺の、願いは。


気がついたら、人間だった頃の姿に戻っていた俺は。


膝から崩れ落ち、強張る体を丸めながら。


「沙穂に……」


何百年ぶりかの涙が溢れながら。


「沙穂に、会いたい……!!」


思い出した願いが、堰を切って溢れ出す。


「謝んなきゃいけないんだ!俺がガキで、あんなので喧嘩して、次にあったら謝ればいいやなんて、でも、次がないなんて思わなくて!!」


胸を掻きむしりながら、それでも胸の奥の痛みは誤魔化せなくて。


「遅くなった俺が、馬鹿だった俺が悪かったのに、沙穂は、俺が来てくれたって、笑ってくれて!!なのに俺、俺、震えて、声をかけることさえ、名前を呼ぶことすらできなくて……!!」


ようやく思い出せた沙穂の顔に、最後の笑顔が俺の胸を締め付ける。


「だから……だから、神様。一目でもいい、一言だけでいいから」


顔を挙げて、神様を見上げる。


何度も恨んだ。


クソッタレな世界だって、最低の神だって。


だけど。


本当に一目合わせてくれるなら。


ごめんって、言わせてくれるなら。


今までの全部水に流す。


感謝だってする。


だから。


「……沙穂に、会いたい。それだけが」


「俺の、願いです。」


神様は、とても優しい顔で。


「もちろんだとも。君の願いを叶えよう」


そう答えてくれた。


その言葉を聞いた瞬間、俺の意識はゆっくりと沈んでいき。


────


神の聞き取れなかった言葉を最後に、意識は途切れ。





「たつやくんっ!!」


急に、意識が覚醒した。


小さな手の感触。


目の前には、記憶よりずっと幼い女の子の顔。


急激に記憶が蘇る。


これは、あの時の地震の直後だと。


「沙穂!!」


考えるより先に体が勝手に名前を呼ぶ。


瓦礫に挟まれている、小さな女の子の姿。


沙穂だ。


……沙穂だ。


建物が焼ける熱よりも、熱いものが込み上げてくる。


「あぶない!!」


沙穂が叫ぶ。


上から燃え崩れた瓦礫が降り注ぐ。


そういえば、これに潰されて異世界に呼ばれたんだったな。


俺は、躊躇なく沙穂に覆い被さると、強く抱きしめる。


「たつや、くん…?」


「沙穂、ごめん……ごめんな。」


やっと、言えた。


背中に瓦礫が突き刺さる。


焼けた木材が、容赦なく俺の背中を焼いていく。


でも、そんな痛みより。


願いが叶った事に胸が痛くて。


でも、そんな火より。


沙穂の温もりの方が熱くて。


「やだ、たつやくんが、たつやくんがしんじゃう!!」


泣き叫ぶ沙穂がこれ以上傷付かないように。


強く抱きしめる。


そんな俺の胸を掴み返してくれる沙穂の手の感触で、俺はもう十分だった。


ありがとう神様。


もう、十分だ。


俺の300年は報われた。


だから、最後に一個だけわがままを言わせてくれ。


もう一回魔王を倒せって言われても構わない。


だから、これは正真正銘神頼み。


「どうか神様……沙穂を、助けてくれ」


俺の一番大事な人を。


俺の全てより愛しい人を。


どうか。


幼い俺の体が限界を迎える。


必死に堪えていた膝が、腕が崩れ落ちる。


最後まで守れなくて、ごめんな沙穂。


こっちには神様なんていなかったみたいだ。


その時、ふと聞き取れなかった神の声が頭によぎる。


──頑張った君へのお礼だ、少しオマケしておこう。


開くと思いもしなかったアイテムボックスが開き、周囲の瓦礫を弾き飛ばした。


背中に重圧から解放された限界を超えた膝が崩れ落ちる。


何が起こったのかわからない沙穂が、必死に俺の名前を呼んでいるのが聞こえる。


神様。


オマケにしては貰いすぎだ。


一生あんたを、拝んでやる。


俺の意識は、ここで途絶えた。

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