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第16話 ここで覚悟も決めれねぇなら!!

俺には、何かが切れる音の直前に。


視界の端で、黒い何かが瞬いたのが見えていた。


だが、それが何か気づく前に、吊り橋の片側のケーブルが切れ飛び、底が抜ける。


「沙穂っ!!」


浮遊感を感じた瞬間、左腕で抱えていた沙穂を全力で抱き寄せる。


右手で辛うじてロープをつかむと、右腕に二人分の体重が一気にのしかかる。


思った以上の衝撃が右手に襲い掛かり、一緒に握りこんだ破片が手のひらに食い込む。


それがどうしたと、俺はさらに強く握りこみ、姿勢を安定させる。


……俺が、何のために鍛えてきたと思ってんだ。


「大丈夫か、沙穂!」


「う、うん……びび、びっくりした」


青ざめた沙穂が、恐る恐る下を向いて息をのむ。


俺も確認のために下を覗くが、高すぎる。


俺でも耐えられるかわからない高さだ。


俺がかばっても、体が弱い沙穂が無事で済む高さじゃない。


「大丈夫だ」


「で、でも」


少しでも沙穂を安心させようと精一杯の強がりを込める。


問題は、俺の片腕が沙穂を抱えるので塞がっていることだ。


両腕が使えれば、このロープを伝っていくのは余裕だ。


だが、沙穂の握力だけで俺にしがみつくのは不可能だ。


念のために用意した程度の沙穂のリュックのハーネス一本に、沙穂の命を乗せれない。


こんなことになるんだったら、背負子でちゃんと背負ってくるべきだった。


「でも……龍哉くんの手から、血が」


震える声で沙穂が赤く染まっていく俺の右腕を指す。


掴んだところが悪かったから、確かに痛みも出血もあるが、それは問題ない。


「薄皮を切っただけだ」


俺の痛みなんてどうでもいい。


あのころに比べればないも同然だ。


何か打開策は……。


そう思って橋の両端に視線を向け。




黒い線のようなものがケーブルに侵食していることに気づいた。


身に覚えしかない現象に、俺の全身が逆立つ。


まさかこれは、俺の所為か……!!


当時の俺が侵食捕食とか名付けてたのと類似した現象に血の気が引く。


俺が異世界から持ち込んだ何かが今回のこれを引き起こしたのか?


だが、そんなことを考えている暇はない。


ケーブル切断はあれが原因だ。


となれば、次は橋そのものが落ちる!!


「龍哉くん、大丈夫……?」


ぎゅっと腕をつかんだ沙穂が、俺の顔色をみて声をかけてくれる。


こんな時でも、お前は俺のことを心配するのか。


胸が温かくなる。


なら、もうあの手しかない……!




大きく深呼吸をして、俺は目の前の空間をにらみつける。


「アイテムボックス!!」


目の前の空間に黒い亀裂が走り、昨夜よりは滑らかに箱状に形状を変える。


初めて見る異能に、沙穂の目が見開かれる。


その表情を見る余裕もない俺は、続けて叫ぶ。


「開け!!」


昨日より少しだけ箱が軋み。


俺の腕の中の沙穂の顔が、朽ち果て、頭蓋を晒した遺骨と重なり。


俺は必死で胃液を飲み込むことしかできず。


アイテムボックスは、開かなかった。




「なんでだ、なんでだよ!!」


涙が滲みながら、俺は自分に叫ぶ。


「沙穂の命がかかってるんだぞ!?」


腕の中の温かさを感じたくて、より強く抱きしめ。


「なんでこんな箱一つ開けられないんだ、俺は!!」


必死に叫ぶ俺に、沙穂がぎゅっと抱き着く。


「僕のために、ごめんね」


俺のつらそうな顔をみて、沙穂が泣き笑いを浮かべる。


遠くから、ケーブルがちぎれる音がもう一度響く。


「でも、龍哉くん」


支える力を失い、今度はつかむところのない浮遊感が俺たちを襲う。


「僕、龍哉くんと一緒なら、いいよ」


へにゃりと、笑った。


「龍哉くんと一緒なら、僕死んじゃっても平気だよ」


怖いはずなのに。


そこには、俺のことを信じ切った。


へにゃりとした笑顔が浮かんでいた。




湧き上がるあまりの熱に、全身が焼けるようで。


「沙穂がここまで言ってくれて……」


呼ぶまでもなく、眼前にアイテムボックスが現れ。


「それでもここで覚悟も決めれねぇなら!!」


俺は、全力でアイテムボックスを殴りつけた。


「周防龍哉、俺はお前を許さない!!」


アイテムボックスを縛っていた何かが、確かに砕け。


黒い稲妻が周囲に飛び散る様に空間が裂けていく。


その中から、俺には馴染みの深い墓所のような冷気があふれ出す。


「来い!!」


その一言で。


裂け目から、白い大蛇が鉄砲水のように飛び出した。




両腕で沙穂を抱えなおし、飛び出した大蛇の頭の上に着地する。


既に全身が出現した、数百メートルはある骨の大蛇は、しっかりと二人分の体重を支えてくれた。


相変わらず、骨でできてて乗り心地は悪いが……本当に助かった。


眼窩から除く瞳替わりの赤い光が、忌々しそうに俺を見ているが、それは前からだ。


こいつを作るのにやらかした所業を考えれば当然だな。


しかし、さすがに肝が冷えた。


「大丈夫か、沙穂」


腕の中で震えてる沙穂に声をかける。


着地こそできたが、まだ空中だ。


怖くても仕方が……。


「すっごいかっこいい!!」


目を輝かせて、骨の大蛇を見つめていた。


……興奮で震えてらっしゃったらしい。


おい、お前もなんだその顔は。俺への恨み顔以外もできるのかお前は。




元の山道に戻ると、沙穂を抱いたまま俺は骨の大蛇から飛び降りる。


沙穂も降りると、二人まとめて丸呑みできる顔と正面から向かい合う。


じーっと大蛇と見つめあって沙穂。


「……どっか奇麗で、かっこかわいい感じ……?」


なんだお前、目を閉じるように光量調節するんじゃない。


「助けてくれて、ありがとね」


そういいながら、無防備に近づき、骨の大蛇をなでる沙穂。


俺の命令には絶対服従だから問題はないはずだが、無警戒すぎて心配になる。


おい、喉を鳴らすな。


付き合い長いが、初めて聞いたぞお前。


おい、心地よさそうに沙穂の手に擦り寄るんじゃない。


憎悪の塊みたいなお前はどこに行った。


ひとしきり撫でた後、沙穂は俺に向きなおる。


「……助けてくれて、ありがとう」


沙穂の視線に合うように膝をつく。


沙穂は俺の頬に触れ、にじんだ涙のあとに触れてくれる。


「開けれなかったんだよね」


「……あぁ。沙穂のお陰だ」


俺が心からそう答えると、へにゃりと返してくれる。


「えへへ。よかった」


それだけで、俺は報われた気がした。




アイテムボックスに、骨の大蛇が帰っていく。


大質量が消えていく光景に隣ではしゃぐ沙穂を横目に。


余りにも久々に開けたアイテムボックスだ。


中に何が入っていたかも覚えていない。


「少し確認するか」


アイテムボックスに触れ、全体を把握すると。


薄れていた記憶でも感じる違和感が背筋をなぞる。


階層管理しているアイテムボックス、その奥に、妙な空白があった。


まるで、何か――そう、封じられた巨大な“何か”がそこにずっとあったかのように。


俺には、その何かに、強い既視感を感じ。




──鼓動のような、魔力の脈動を感じた。




事故の起きた橋を侵食していたのと、同じ気配だった。


「まさか……」


俺の口から声が溢れるより早く、遠くで、風が逆巻いた。




どこかで――


何かが、目覚めた。

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