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第15話 風を感じる日

龍哉くんの実家があった街の上のほうには山が連なっていて。


山道を登っていくと、観光用の大きなつり橋がある。


あまり人が来ない密かな絶景スポット。


周囲には、蝉の音と、遠くの沢の音しか聞こえてこない。


汗をかく前に心地よく吹く風が包んでくれて快適だ。


僕たちは今、そこに納涼を兼ねてのデートに来ていた。


「ひゃー、絶景かな絶景かな!すごい眺めだね、龍哉くん!」


僕はいつも通り龍哉くんに抱っこしてもらいながら、山道から見える大きなつり橋の光景に興奮していた。


「興奮しすぎるなよ」


そんな僕に、優しく笑いかけてくれる龍哉くん。


いつもと変わらないように見える笑顔の龍哉くんに、僕はすこしほっとしていた。


朝起きたら、龍哉くんの顔が憔悴しきっていて、何事かと思ったよ!


心配しても、「俺が向き合わなきゃいけない」って真剣に言われたら、何もいえないよ。


でも、必死に気分転換に行こう!って誘ったかいはあったかな。


「それにしても、前来たときはもっとちっちゃい頃だったよね」


「そうだな。まだ、小学校低学年ぐらいか」


龍哉くんの家族と一緒のピクニックが思い出されて、懐かしく温かい気持ちと悲しさが胸を締め付ける。


あの時の僕は、ここまで貧弱じゃなかったから一応自分の足で挑戦していたはず。


「あの時は、沙穂がもう歩けないって、俺におんぶを強請って大変だったな」


「あれぇ!?僕ちゃんと歩いてなかった?」


ちゃんと歩いた記憶あるんだけどなぁ。


「最初の少しだけな。まぁ、俺も少ししかおぶれなくて、父さんが代わってくれたよ」


「あの頃は、そんな背も変わらなかったもんね?」


小さい頃は女の子のほうが成長早いし!


「いや?当時から小さかった記憶しかないんだが」


「そうだったっけ……?」


おかしい。小さい頃はもっとましという記憶すら勘違いだったのか……。


内心しょぼくれていると、いつの間にかつり橋の入り口にたどり着いていた。




「あれ、こんなにぼろかったっけ……行って大丈夫かな?」


「10年も経てば、多少は仕方ないだろうが……前と左程変わらない気はするな」


確かに、ただでさえ記憶力の怪しい僕だから、気のせいに思えてきた。


でも、観光用とはいえ大きいだけあってしっかりしてるよね?


ちょっと不安そうな僕を安心させるために、龍哉くんがロープとかを触れたり引っ張ったりして確かめてくれる。


「少なくとも、こちら側に問題はないな」


一通りの確認をしてくれた龍哉くんが結論付ける。


「それに、紅葉の季節は人気がある。人も多いはずだ」


「変なことあったらわかるし、もっと人が沢山乗ってるってことだね」


頷く龍哉くんに、肩の力を抜く。


大丈夫とは思ってたしね!


別に、思ったより高くて怖かったわけじゃないよ?


ほんとだよ?




「これは……風が気持ちいいね!」


いつもよりしっかりと龍哉くんにつかまりながら、程よい強さの風に目を細める。


なんなら僕のハーネスつきリュックは龍哉くんのベルトにつながっている。


どうでもいいけど、この可愛いハーネス付きリュックって子供用なのでは?


なんか補強入って実用品になってるけど、この可愛い熊のイラストとか完全にそうだよね?


自分の小ささにやるせなさを感じつつも、可愛いからいいかと思い直す。


それに、安心感は増すし。


「思ったよりも揺れないし、これならここでもう少し眺めるのもいいかもね」


「そうだな」


夏の青々とした木々が風で揺れてざわめき、下の方を流れる沢の水の音も心地いい。


遠くには、龍哉くんの実家のあった街が見えていた。


ふと、街に面した一角の山肌がむき出しなことに気づいた。


僕の胸がぎゅっとなる。


そっか、ここから見えちゃうんだ。


あの地震で崩れた山肌が、まだ当時のまま残されていた。


「沙穂、大丈夫か?」


龍哉くんは本当に僕をよく見てくれている。


目ざとく気付いた龍哉くんの優しい声に、僕はへにゃりと笑い返す。


「うん、大丈夫。ちょっと、地震で崩れたところが見えちゃっただけ」


「……そうか」


少し強く抱きしめてくれた腕が僕はうれしくて、ぴとっと龍哉くんにくっつく。


「少し風が強くなってきたな」


「確かに、ちょっと肌寒いかも」


だからか、さっきより龍哉くんのぬくもりが心地いい。


「いったん橋を越えたら上着を出そう」


「そうだね、いったんおやつタイムとかどうかな!」


僕がそう笑いかけて。


龍哉くんが笑い返してくれた。




次の瞬間。




バツンッ!という音が聞こえたと思ったら。


僕たちの体を浮遊感が包み込んでいた。

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