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第9話 笑ってほしいだけなんだって

まず、僕と龍哉くんは学校を休んだ。


というか僕が休ませた。


僕が体調を崩すのなんて日常茶飯事だし。


龍哉くんがいないと僕が生きていけないのも周知の事実。


僕が「体調を崩しました!」と送ったメッセージで先生はすぐに納得してくれた。


少なくとも、今の龍哉くんを離してはいけない。


それだけは、間違いないと思ってる。




リビングに移動した僕らは、ソファに隣り合って座った。


俯いて必死に言葉を探している龍哉くんに、僕はそっと触れて。


「ねぇ、龍哉くん」


声をかけると、顔を上げてくれた。


弱みなんて見せたことのなかった龍哉くんが、見せてくれる弱さに胸が痛い。


だから、僕から話を振ろう。


「僕ね、夢を見るんだ」


「夢……?」


僕が何を言っているか、理解が追い付かない龍哉くんが繰り返す。


「その夢は、僕の胸がぎゅってなった日にみる悲しい夢でね」


目の前の龍哉くんが、どうしても夢の龍哉くんとダブって見える。


「倒れて動けない僕を、ちっちゃい……中学生ぐらいかな。龍哉くんが抱きかかえてるの」


僕の言葉が続くたびに、龍哉くんの目が見開かれていく。


やっぱり、関係あるんだね。


「僕は、指一本動かせないんだけど。いつもみたいに、笑うことだけはできてね」


作り笑いのへにゃり顔を浮かべると。


龍哉くんが、痛くて、つらくて、泣きそうで。


今手を離したら、どこかに行ってしまって、もう帰ってこなくなる。


そう思えるほどに、悲しい顔をして。


僕の胸が、痛くて、痛くて。


「夢の中の龍哉くんも、今の龍哉くんみたいな顔で、ずっと泣いてるの」


僕がふれると、龍哉くんは震えていた。


絶対に離しちゃいけない。そう感じたから、ぎゅっと抱き着く。


「……僕の夢は、いつもここで終わりなんだ。これが、龍哉くんがつらいのに関係してる?」


僕の言葉に、龍哉くんがゆっくり頷いたのが分かった。




「……今から信じられないような話をする」


「大丈夫。僕、龍哉くんが嘘言ってたらすぐわかるから、信じるよ」


龍哉くんの嘘は僕には通じないからね。


まいったな、って顔してるけどさ。


僕が龍哉くんをまいらせれるのはそれぐらいだからいいでしょ?


改めて、まっすぐに僕に向き合ってくれた龍哉くんが語りだす。


「異世界に行っていたんだ」


本当に信じられないような話するね!


さすがにびっくりした僕の顔をみて少し笑みを浮かべてくれる。


「地震があっただろ。あの時だ」


「あの時の、地震の時に龍哉くんが?」


いつの間にか異世界いって救って帰ってきてたのか!


まぁ龍哉くんなら?


とか思っていたら。


「いや、俺だけじゃない。沙穂、お前も一緒だった」


「ふぇっ!?」


僕もご一緒でしたか!


……ということは、もしかしてあの夢も?


「正確に言うなら、勇者として召喚されたのが沙穂だ。俺は、沙穂を助けようと手を伸ばした時に巻き込まれた」


「僕が勇者なの!?」


世界終わりじゃん!


へっぽこ勇者がスライムに瞬殺されて負けてゲームオーバーだよ!!


僕の百面相に、少し力が抜けた龍哉くんが続きを語ってくれる。


「いや、あの時の沙穂は特別な力も貰ってたし、おかげで元気に走り回ってたよ」


「ぎぶみーちーと!」


おおう、切実に欲しいよぎぶみーちーと。


少なくとも日常生活ぐらいしたいんだ。


「俺のほうは、まぁ、一応勇者の従者として、一般人よりはまし。もらえた力はアイテムボックスだけだった」


おぉ、よくある勇者スキル!


いっぱい入る、現実にあったら最強のやつじゃん!主に旅行のときとか!


「だけど、俺にとっては、どんなに強くなったとしても、沙穂は守る対象だった」


そこは、変わらないんだ。ちょっと、いやだいぶうれしい。


「三年ぐらいか。沙穂と、ほかの何人かで旅して。俺も、それなりに強くなっていた」


それなりなんだ、って聞いていたら。


龍哉くんの体が震えだした。


きっと、これからが大事なんだ。


僕は胸がぎゅっとなりながら、龍哉くんの言葉を待った。


「あの日、あの日な。俺が、意地張って、沙穂と喧嘩になって、街に残って」


見上げる龍哉くんの瞳が、揺らいでいく。


「俺、ガキで。明日になったら、追いついて、謝ればいいやって、軽く、考えてて」


血が出るぐらいに、強く手を握り締めて。


それに、僕は手を重ねて握ることしかできない。


「次の日、沙穂たちが向かった町が襲われてるって聞いて、走って」


重ねた手に、ぽたぽたと涙が零れ落ちてくる。


「俺、追いつけなくて、間に合わなくて!」


「たつやくん……」


痛いよ、痛い。


胸が、痛い。


でも、それ以上に。


龍哉くんのその顔が、僕には痛いよ。


「ついた時には、全部終わってて……沙穂が、沙穂が、倒れてて」


僕はここにいるよ。


でも、龍哉くんは一つも嘘を言ってない。


わかっちゃうから、嘘がわかっちゃうから。


僕の中の夢の記憶が、本当にあったことだって、分かってしまう。


「俺、駆け寄って、でも、沙穂が酷いけがで、でも俺は何もできなくて」


重ねた手に、ぽたぽたと、龍哉くんと、僕の涙が零れ落ちる。


「なのに、沙穂が、沙穂が、俺の顔を見て、いつもみたいに、いつもの笑顔で」


僕は、必死で龍哉くんを抱きしめた。


こんなに大きいのに、今はこんなに小さい龍哉くんを。


「俺を見た瞬間、安心して、へにゃって、笑って。でも、俺、喉が震えて、なにも、なにも」


ずっと、ずっと龍哉くんがしまい込んできたものが、あふれてくる。


「何も言えなかった! 沙穂って、呼ぶことも、ずっと、ごめんて、謝らなきゃって!!」


胸が焼ける。


龍哉くんの慟哭に、僕の胸が焼けるように熱かった。


「さほは、笑いかけてくれたのに、おれ、ごめんって言うこともできなくて!」


そっか。


だからなんだね。


僕の忘れられない、大事な思い出。


あの日、僕を助けてくれた龍哉くんが。


ずっと謝ってたのは。


「最後なのに、さほの名前を、よぶこともできなくて……」


あんなに、僕を見てうれしそうな顔をしたのは。


「……ごめん、ごめんな、さほ」


そこで死んでしまった僕が、なんで今生きているのか。


僕が死んでから、何があったのか。


それは、まだわからないいし、そんなことはもっと後でいい。


僕は、震える足で、立ち上がる。


こんな時には素直に言うことを聞いてくれる義足に感謝しながら。


龍哉くんの頭を抱きしめた。


「夢の中の僕はね」


なんて、愛おしい人なんだろう。


なんて、かわいらしい人なんだろう。


「何度も何度も、こう思ってたよ」


なんて、強い人なんだろう。


なんて、格好いい人なんだろう。


「龍哉くんには、笑ってほしいだけなんだって」


「……っ!」


こんな、こんなつらい想いを抱えて。


こんな、こんな悲しい記憶を抱えて。


ずっと、ずっと僕を守ってくれて来た。


ずっと、ずっと僕を安心させてくれた。


「僕と、一緒だったよ」


だから、龍哉くんには、笑っていてほしい。


僕たちは、そう思ってた。


やっと、僕は心から。


へにゃりと、笑顔を浮かべた。


龍哉くんは僕に縋りついて。


ずっと、ため込んでいた涙を吐き出し続けた。

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