船上の不協和音 ~混ぜるな危険!個性派クルーの日常~
シー・チキン号は、再び静かに航海を続けていた。
嵐は去り、問いは残り、プリンは――誰かが黙って食べていた。
しかし。
それ以上に残っていたものがあった。
**混沌である。**
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朝の甲板。
爆発音と共にマジシーの叫びが轟く。
「でぇぇきたぁぁああ!!!“ビスケット加速式・論理貫通型マルチショック砲Mk-II”!!」
「ちょっと待って!?その名称の9割、意味不明なんだけど!?」
「これでプリンの硬度を飛び越えられる!未知のグミすら撃ち抜けるぅ!!」
「なにその“おやつ特化型兵器”!?用途が局所的すぎる!!」
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そこへポンデン登場。
彼は、例によって優雅にお茶を片手に語り出す。
「……考えてみたまえ。ビスケットとは“砕けやすい哲学”なのだよ」
「いやそれは違う。“物理的に砕けやすい”だけだからね!?」
「口に入れて溶けゆくあの瞬間……問いが問いであることを手放すが如き快楽……」
「誰かこの人から哲学を取り上げてぇぇぇ!!」
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一方、ソーラが観測報告。
「今日の海、ちょっと“しょっぱい思念”が混じってる気がする」
「え?感想!?観測じゃなくて!?!」
「あと、空の“青さ指数”は昨日より2プリンくらい高いね!」
「単位が“プリン”なのは誰のせい!?いや我々か!?ぷりぷりプリン団のせいか!!?」
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ノエラのリュートが鳴り響く。
「本日のリクエスト、いきまーす♪“滞納者のための応援歌・デスメタルver”!」
「なにそれ!?だれが頼んだの!?完全に誰も頼んでないやつ!!」
「♪払えええぇぇぇぇぇえぇ!!今すぐ!!愛と共にいいいいい!!!」
(※その日、船上ではなぜか3名が自主的に確定申告を始めた)
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ノートンは静かにすべてを記録していた。
「本日、船内混沌度:理想的カオス指数8.4
歌による士気変動:乱高下。音楽療法に対する再考の必要性あり
ソーラの観測値:物理的根拠、ほぼ皆無。だが本人は満足そう。記録終了」
(※ちなみにこの記録は、数日後“シー・チキン号珍行動記”として広く配布されることになる)
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そして、トランフォード。
彼は、ただ……ただ、見ていた。
マジシーがビスケットを弾丸にして、なぜかプリンに向けて発射しようとしているのを。
ポンデンがその様子を見ながら「これは思考実験だな」とか呟いてるのを。
ノエラがその背後で“税金ビートボックス”を始めてるのを。
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彼は、そっと薬包を開いた。
「……あ、やばい。胃薬……残り、2錠……」
(早くも底が見えた)
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そのとき、船長が颯爽と登場。
「各員、報告を。“昼飯”はどうなっている?」
「え、それ今このタイミングで!?このカオスの渦中で!?!?」
「昼食には、あえて“無銘のカンパン”を選んだ。“答えのない噛みごたえ”が、問いの深さを喚起する」
「それ、単に湿気ってただけですからぁぁぁあああ!!!」
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シー・チキン号は、今日もぶれない。
方向性がない、という意味でぶれない。
問いを抱え、プリンに執着し、税を歌い、空の色にプリンを感じる。
それぞれがそれぞれの“理”を持ち、**だいたいその理が破綻している。**
でも、どこかで――
誰もがこの船に、**“目的地にない何か”**を見出しているのかもしれない。
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たとえば、それは――
「一緒に突っ込んでくれる誰かがいる」安心感。
あるいは、「プリンがある限り、生きていける」希望。
「……いや、どっちも正気じゃないよ!?」とツッコむ声が、今日もどこかから聞こえてくる。