問いを超える存在?いや、昼飯のことで頭がいっぱい ~船長の深淵なる(?)葛藤~
――夜。海は静かだった。
さっきまで嵐で死にかけていたとは思えないほどの、満天の星と静寂な波。
シー・チキン号の甲板には、一人、思索にふける影があった。
我らが船長である。
彼は、手すりにもたれ、空を仰ぎながら、深く、そして非常に深く考えていた。
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「問いとは、我を突き動かす原動力……」
「宇宙の成り立ちにおいて、解かれぬ問いこそが存在の価値を担保する……」
「我々は何処から来たのか。何を求めて航海するのか……」
「その果てにあるものが、もし“答え”ならば、それはすでに問いではない。問いは、絶え間なき旅だ……」
――と、ここまで完璧に哲学者の独白だったのだが。
次の瞬間、彼は苦悶の表情を浮かべた。
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「……しかし、問題は――」
「――昼飯である」
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真顔で、空に向かって言い放った。
「トランフォードが出してきた“プレミアム・プリン(カスタード濃度20%増し)”……あれは確かに豪奢だった。が、後味に微妙な甘味料の違和感が……」
「おそらく“上質風”なだけの、“下民グレード味覚偽装成分”を加えている……という仮説が立つ」
「だとすれば、あのプリンは――プリンにあらず」
「これは……問いだッ!!」
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(何の問いなんだ)
そう、静かに心の中でツッコんでいたのは、柱の陰からこっそり覗いていたトランフォードである。
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「殿下……まさか、“昼飯の謎”をそこまで哲学的に分析しておられるとは……」
「……なにが“果てなき旅路”ですか……“舌の旅路”でしょうが……」
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そのとき。
ダリオが突然スケッチブックを持って現れた。
「見えた……見えたぞ船長!あなたの内なる問いの形が……!」
「これを見てくれ!“カスタードの迷宮に差す天啓の光”だ!!」
「……どう見ても、プリンの上に三角の光が射してる絵じゃないか!!」
「そうとも言う!」
「じゃあそうだよ!!」
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そこへ、ノエラの透き通るような歌声が響きわたる。
「♪おやつの時間は至高の時……税も苦役も忘れよう……プリンを一口運ぶたび~命が再構築されてく~」
「おい!今度は“癒し系なようで栄養管理系の歌”か!?」
「“再構築”って……言葉選びが妙に怖いんですけど!?」
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ソーラが空を見上げて呟く。
「うん……今日の星、ちょっとプリン色っぽい……」
「絶対ちがう!!!」
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そんな中、船長は依然として空を仰いでいた。
「問いとは甘美である。だが、プリンは……さらに甘美だ」
「……いやもう完全にそれ、“思考回路:デザート脳”だよね!?」
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その後、トランフォードがそっと問いかけた。
「殿下……その、問いというのは……“本当に答えを求めている”のですか?」
船長は、ふと微笑んだ。
「答え?いや、違うな。私は――“問いそのものに、意味を見出している”」
「つまり、“疑問を持つという状態”を保ち続けることに価値があると?」
「そう。そして、解けない疑問が、私を生かしている」
「……なるほど。“答えのない昼飯の記憶”こそが、殿下の燃料なのですね……」
「違うな、トランフォード」
「え?」
「それは……“プリン”だ」
「やっぱりそっちかぁぁぁああああ!!!」
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こうして、星の下。
船長は今日も問い続ける。
それがプリンでも、トイレットペーパーでも、昼飯でも。
**“問いがある限り、彼は進む”のだ。**
(※ただし進路は“フィーリング舵”)