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第八話 刻印を継ぐ者たち2

 邸宅への帰路。

 ウルリヒは歩きながらも、先ほどの話が頭を離れなかった。


「……ウルリヒ殿は、先の革命をどうお思いですか?」

「と申しますと?」

「なぜ前王朝は突然ヴェルツ正教を弾圧したのか?なぜクロイツ家が突然、王を裏切ったのか?そして……なぜ王家あれほどあっさりと降伏したのか?」


 それはずっとウルリヒが心の中で問い続けていた疑問だった。


「こんなに……幕切れの悪い革命はありませんよ……」


 ウルリヒは、下を向き苦い表情をするルプレヒトに視線を向けた。


「あなた方からしたら、すぐにクロイツ家に忠誠を誓った我々を信用できないでしょう。しかし、それは我が領地と民を守るためには必要だったこと。あなたもお分かりになるでしょう」


 もちろん、理解はできていた。ただ、感情が追いつかなかっただけで。


「……それで、私にそんな話をして、何を求めているのですか?」


 その言葉に、ルプレヒトは顔を上げ、ウルリヒの目を真っ直ぐに見た。


「……それだけではないんです」


 ルプレヒトの話によると、革命の一年ほど前、ヴェルツ正教の管理する火薬製造所から購入した火薬の質が著しく低下していたことがわかったという。

 火薬は湿気に弱く、時間の経過により劣化するため定期的入れ替えを行う。本国はヴェルツ正教の開発した反応性の高い高性能火薬を国王公認で採用しており、どこの領主もヴェルツ正教管理の火薬製造所のものを購入している。

 ルプレヒトの見解では、ヴェルツ正教が騎兵よりずっと前に王に味方しそうな地域に質の悪い火薬を回していたのでは、というものだった。


(どうだろうか……一地域だけで判断できる話ではないが、もしそうであれば、あの革命はヴェルツ正教が準備した上での騎兵ということになる……)


 ウルリヒはいつの間にか歩を進めることさえ忘れ、立ち止まっていた。


(……知りたい。なぜ、あの日──フェルディナント陛下が命を落とさねばならなかったのか)


 もう、心は決まっていた。


 翌日、ウルリヒは再び教会を訪れた。

 黒衣の男に案内され、小部屋へと入る。


「……お聞かせ願えますか?」


 静かに問われた声に、ウルリヒは背筋を伸ばして応じる。


「先の革命の真実を明らかにしたいと存じます」


 その言葉に、ルプレヒトは満足げに微笑んだ


「では、私もできる限りの支援を約束しましょう」


 ウルリヒは一瞬、言葉を選ぶように視線を落とし、そして尋ねた。


「……ルプレヒト伯爵は、なぜここまで我々に力を貸してくださるのですか?」

「なに……私にも忠誠心というものがあるのですよ。老いた身、最後は納得のいく形で終わらせたい」


 そこからは、今までの引きこもり生活と比べると、驚くべき速さで進んでいった。

 まず、前王朝の忠臣たちに声をかけるため、ルプレヒトの名でヴェルツ正教の祭事を装った招集状が出された。

 表向きは聖職者の集まりや修復事業への協力依頼として通せば、監視下にある身であっても移動の理由は立つ。

 最初にウルリヒに声をかけてきた黒衣の男──彼もまた、かつてアデルハイト王太子に仕えていた忠臣であり、聖職者として神学校を出た人物だった。

 さらに、ルプレヒトは丘陵地帯の奥まった、少しばかり山がちな場所にひそむ古い洞窟を、密会の場として提供してくれた。

 かつては修道士の隠遁所として使われていたというその空間は、人目を忍ぶにはうってつけだった。

 とはいえ、反応は一様ではなかった。

 招集に応じない者。

 あるいは、来てはみたものの心を閉ざし、正気を失ってしまっていた者もいた。

 それでも、少しずつ──確かに、あの革命に疑念を抱いていた者たちが集まり始めた。


「……しかし、先の革命の真実を暴くといっても、我々に一体何ができるのか……?」


 集まった面々の誰かが漏らしたその言葉に、室内の空気が重く沈む。


「ルプレヒト伯爵と同様に、火薬について調べてみればどうですか」

「だが……十年以上も前の話です。痕跡が残っているとは思えません」


 すでに王家と国教となったクロイツ家とヴェルツ正教の内情を簡単に探ることはできない。

 その時だった。

 扉が開き、一人の男が姿を現した。

 彼の出現が、すべてを変えることになる──

 テオドール・シュタルク、その人である。

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