第十九話 暴かれた陰謀
今日の王都は均時祭で賑わっていた。
豊作を願い皆で一つの火を囲むような村の祭とは異なり、王都の祭は貴族たちの情報交換の場でもある。
中央神殿での祈りの後、タウンホールでパーティーを行う流れとなっている。
もちろん神学生は参加だけでなく、事前準備や終了後の片付け、当日の運営などさまざまな仕事に駆り出される。
四回生となったルーシュたちも例外ではない。
一回生のときのように力仕事をさせられることはないが、儀式の手伝いは四回生に回ってくる。
このような祭りでは礼拝も複数回に分けて行われるため朝から夕方まで働きっぱなしである。
日が傾きかけ、西陽が時計塔を照らす頃、やっと最後の礼拝が終わった。
夕刻から始まるパーティーに参加するためタウンホールに移動する信者たちを見送りやっと肩の荷が降りた。
「お疲れ〜」
後ろからいつもの声がした。
「おお、アウグストお疲れ」
「はぁ、流石にこの長時間は疲れたな」
中央神殿を出て、中央広場を並んで横切る。
「アウグストはこの後、パーティーだろ?」
「もう帰って寝たい……けど、そう言うわけにもいかないよな〜」
空に手を伸ばして伸びをしながら、アウグストはうんざりした顔を浮かべる。
「なんだかんだ真面目だよな。悪いけど僕は帰って寝るけど」
「おい、ルーシュも参加しろよ」
「やだよ、貴族たちのパーティーだろ」
そんなやりとりをしながら神学校の中庭に差し掛かったとき、いきなりルーシュは袖を引かれた。
驚いて腕の先を見るとそこにはエルザがいた。
「こっちきて!」
声を抑えつつも切迫した様子で、ルーシュを中庭の柱の影へと連れていく。
「ちょっと話があるんだけど……」
エルザがそう言いながら、ルーシュの後ろにいるアウグストに一瞥をくれた。人に聞かれたくない話らしい。
「前に話した件なんだけど」
「ああ。なら、彼はいても大丈夫」
エルザはアウグストを訝しげに見てから頷いた。
「今、抜け出してきてて時間ないから」とエルザはルーシュに羊皮紙を数枚手渡した。
「何?これ」
「見ればわかる。ラインベルクの邸宅で見つけた」
ルーシュは手渡された羊皮紙に視線を向け、そこに記された内容に息を呑む。
それは、クロイツ家領地での暴動計画書、前王朝の印が押された勅令草案、王軍への賄賂記録など、ヴェルツ正教が虎視眈々と革命に向けて動いていた証拠の数々だった。
「何で、こんなものが……?」
先に声を漏らしたのはアウグストだった。目を見開き、驚きと困惑が入り混じった声だった。
エルザは一度アウグストを見てから、視線をルーシュに戻して早口で説明した。
「ディートリヒ伯爵のお祖父様が保管していたものみたい。それ以上のことはわからないけど、明らかにクロイツ王家を利用して、正教側が謀反を起こさせてる」
ルーシュは想定していなかった情報に声を出すことを忘れていた。
「ごめん、私もう戻らないと。あとは、あなたに任せる」
そう言って一歩踏み出したエルザの腕をルーシュは掴んだ。
「これは……だめだよ」
ルーシュは懇願するように、エルザの目を見つめた。
「そう、許されないことだからあなたに託したの」
「そうじゃなくて」
エルザが口を閉じた。
「こんな証拠が世に出たら、ラインベルク家だってどうなるかわからないよ」
エルザは表情を変えない。
「僕は、君に苦しんでほしくない……」
しばし沈黙が訪れた。風が優しく木々を揺らす音が静かに流れる。
先に口を開いたのはエルザだった。
「私は大丈夫。手、離して?誰かに見られたら困る」
ルーシュはそれでも手を離さずエルザの目を見つめた。彼女の本音を探りたくて。
「……ただ清算するだけだから。昔の罪を」
そう呟いた後、エルザは少し明るい声を出した。
「それに、私はもう一人じゃないから。今後どうなったとしてもディートリヒ伯爵と一緒にラインベルク家を立て直す」
その言葉が胸に重くのしかかった。ルーシュは視線を地面に下ろし、手を離した。
「それじゃあ」
そう言ってエルザは早足に去っていった。
その後ろ姿を見ることすらできず、その場にしゃがみ込んだ。
「大丈夫か?」
(ああ、僕は心のどこかで、まだ彼女の一番でいられてるんじゃないか、何て淡い期待を抱いていたんだな。時は流れ続けているのに、僕だけ針が止まったままだったのか)
ルーシュは自嘲気味に笑ってから顔を上げた。
「大丈夫。これからどうするか、だな?」
見上げた空は、ちょうど茜色から群青色に変わるところだった。




