幕間「琥珀の書簡」
王宮の執務室。
重厚な書棚に囲まれた室内には、夕陽が琥珀色に差し込み、空気中の埃がきらめいていた。机には公文書や帳簿が整然と積まれ、その中にあって、一通の古びた書簡だけが異質な気配を放っていた。
窓辺に立つフリードリヒ国王は、遠く街を見下ろしながら、ひとりごとのように言った。
「……風が変わってきたな」
控えていた側近が、おずおずと口を開いた。
「陛下……本当に、あの青年に『例の装置』を見せてしまってよろしかったのでしょうか?」
声にはわずかな不安が滲んでいた。
「さて。どうだろうね」
国王はゆっくりと振り返り、飄々とした笑みを浮かべる。
「だが、十分に泳がせた方が役に立つだろう」
「……役に立つ、と申されますと?」
満足そうに微笑むフリードリヒに打って変わり、側近は怪訝な顔を浮かべる。
「そろそろ、かくれんぼにも飽きてきたからな」
意味を測りかねた側近が眉をひそめる。だが、国王はそれを無視するかのように机に戻り、古びた書簡を手に取った。
封蝋が施されたそれは、今なお上質な紙の手触りを保っていた。年季こそ感じるものの、明らかに貴族、それも高貴な家系によるものである。
「……ふっ。我が家の『呪縛』の話だよ」
そう呟いて書簡を懐に収めると、フリードリヒは再び窓の外へと視線を向けた。琥珀の光が、その横顔を照らしていた。




