感電
「それでは今日も、レビューしていきたいと思います!」
画面の向こうへ僕は明るい表情を向ける
趣味丸出しの内容なのに、僕の幼い美貌のせいか配信は今日も賑わっている様だった
部屋の床には買い求めたスタンガンとナイフ、折り畳み式の警棒や催涙ガスが、押収品の陳列の様にカメラ側に向けて並べられている
これらを実際に自分に対して使用して威力を測定するのが、僕の配信スタイルだ
当然表では流せない映像ばかりになるので、視聴はアンダーグラウンドな場所でしか出来ない
にも関わらず、世の中には変わった人も多くていつの間にか僕は人気配信者になっていた
「まずはこのスタンガン!これは牛の屠殺にも使われる事があるやつで……」
喋りながらスタンガンの電流を腕に当てる
爆発の様な音を上げながら、僕の躰は大きく跳ねた
一瞬意識を喪失していたので解らないけど、悲鳴も上げていたみたいだった
「………今のは電圧を抑えたから死ななかったけど、みんなは真似しちゃ駄目だからね?」
顔を液体が伝う感覚がある
汗では無い
両眼から出血が有るみたいだった
コメント欄は開幕から大きな盛り上がりで、既にお金を投げてくれている人も居る雰囲気だ
経験から来る勘だけど、さっきの場面の切り抜きは直ぐに作られて、しかも結構流行る様な気がする
なんか、悲鳴が好きってコメントしてくれてた人が居た筈だし…
「それじゃあ、次はこの警棒をレビューしていきます!」
折り畳まれた警棒を手にして一振りする
小気味良い音と共に、握り手だけだった警棒が一本の純然たる武器になった
「まずは足の指から!」
足の指を打ち据えるべく、警棒を振りかぶる
恐らく、指が砕けて爪が飛び散る…かと思ったけど、振り上げた手は掴まれて振り下ろす事が出来なかった
「えっ…………?」
この家には僕しか居ない
両親も死んでいるし…
相手の顔を視るため振り返ろうとした時、僕は頬を勢い良く殴られて床の上を転がっていた
「こんな風にされたかったんだよね」
声がする
僕と同じ位の歳の、男の子の声だ
立ち上がって相手の姿を視る、予想は大体当たっていた
「君、痛いの好きなんでしょ?」
大体状況は解った
たまに居るヤバいファンだ
問題は、そいつが僕の家を特定して乗り込んできている
はっきり言って、初対面のやつから暴力を振るわれて気持ち良い筈が無かった
「………好きじゃないんだけど」
腕を軽くスナップする
着ていたシャツの袖の中から、細い筒が掌の中に滑り出た
催涙ガスの小型缶だ
僕はそれを侵入者の眼に向けて噴霧した
立っていられなくなり、男の子は仰向けに倒れて手足を滅茶苦茶に動かし始めた
多分いま、彼は痛みの事以外何も考えられなくなっていると思う
倒れて暴れる少年の頭を掴んで、瞼を無理やり開くと、僕は更に彼の眼球に催涙ガスを吹きかけた
「こんな声が人間に出せるのか」と思う様な悲鳴で、彼は四肢をばたつかせて苦しんだ
僕はそれを最初は冷ややかに見詰めていた
しかし、少年が泣き叫びながらのたうっている額に伝う汗を視た時、心の内に湧き上がる気持ちがある事に気付いた
それは、昂揚だった
僕は床に落ちていた警棒を拾い上げた
振り上げ、振り下ろす
鞭の様な音を出しながら警棒は少年の躰を打った
聞いた事の無い音だった
熱にうなされた様に、僕は彼の躰中に警棒を振り下ろした
振り下ろす事を止める事が出来なかった
以来、『僕たち』は二人で配信を行う様になって更なる人気を博する事になる
その話もいつか書くかも知れない