序
よろしくおねがいします
しょうがくせいのおんなのこ、ミサキちゃんは、あそぶのがだいすき。きょうもこうえんで、おともだちのコハルちゃんとリンナちゃん、そのほかおおぜいといっしょにあそびます。
ブランコ、シーソー、すべりだい。おにごっこにかくれんぼ。こうえんにはたのしいことがいっぱいです。
「たのしいね」
「たのしいね」
けれど、たのしいじかんはあっというまにすぎていきます。かぁかぁかぁ、とオレンジのそらをからすがとんでいくのがみえました。
「またあしたね」
「ミサキちゃん、ばいばーい」
おともだちはミサキちゃんにてをふってかえっていきました。ミサキちゃんもおうちにかえろうとしたとき、うえこみからガサガサとおとがきこえました。ふりかえってみると、そらとおなじオレンジにそまったこうえんに、ちいさなあおいろのボールがぽつん。
ミサキちゃんはボールにちかづいてみました。
とこ、とこ、とこ
ぽよん、ぽよん、ぽよん
ミサキちゃんのうごきにあわせて、ボールははねてとおざかります。
たっ、たっ、たっ
ぽよっ、ぽよっ、ぽよっ
ボールにばれないように、ミサキちゃんはゆっくりとちかづきます。
ぬきあし、さしあし、しのびあし
ボールはきづいていません。
そして、ゆっくりとてをのばして――
「つかまえた!」
ミサキちゃんのてのなかで、ボールははねまわります。ミサキちゃんは、ふしぎなボールをみぎからみたり、ひだりからみたり、ひっくりかえしてみたりしました。そこにあったのはめとくち。かわいらしいかおがありました。
「ボールさん、あなたはだれ?」
ミサキちゃんがきくと、ボールはこたえます。
「ぼくはすらいむ」
「すらいむちゃん、どうしてここにいるの?」
すらいむはくびをかしげるようにからだをかたむけました。
「わかんない」
「どこからきたの?」
「もりのなか」
ミサキちゃんはふしぎにおもいました。こうえんにはたくさんきがはえているけれど、もりなんてどこにもないのです。
「ひとりぼっちなの?」
「もりにはたくさんともだちがいたんだ。だけど、けんをもったひとたちにいじめられて……ぼくはにげてきたんだ。そして、きがついたらここにいたの」
「なんてひどいひとたち。でもだいじょうぶ。このまちにはけんをもったひとなんていないもの。それに、わたしがおともだちになってあげる」
それをきいたすらいむは、うれしくなってとびあがりました。それをみてミサキちゃんもうれしくなりました。
そのとき、ごじをしらせるチャイムがこうえんになりひびきました。ミサキちゃんはすらいむをしげみにおしました。
「わたし、もうかえらなくちゃ」
「そうなんだ。またあしたね」
すらいむはかなしげなえがおをうかべていいました。ミサキちゃんにはかなしそうなかました。ミサキちゃんは、すらいむをだきあげました。めをまるくして、きょとんとするすらいむに、ミサキちゃんはあかるくわらいかけます。
「すらいむちゃんもうちにきなよ! おともだちだもん!」
すらいむはまたうれしくなりました。けれどふしぎなことに、なぜだかなみだがでてきました。
「ただいま!」
「おかえりなさい。あら、それは?」
「すらいむちゃん、わたしのともだち」
ミサキちゃんはおかあさんにすらいむをしょうかいしました。おかあさんはすらいむをふしぎそうにみつめていました。はずかしくなったすらいむのからだは、まっかにそまりました。そのとき、すらいむのおなかからキュルルとおとがしました。
「あら、おなかがすいてたのね」
ミサキちゃんとおかあさんはわらいだしました。すらいむはまたはずかしくなり、さっきよりもあかくなりました。
そのひのよるごはんは、ミサキちゃんのだいこうぶつのカレーライスでした。すらいむもミサキちゃんからすこしだけわけてもらいました。たべたことのない、けれどとてもおいしいあじが、すらいむのくちいっぱいにひろがりました。ミサキちゃんもすらいむもたくさんたべて、おなかいっぱいになりました。
すらいむのからだはすこしだけおおきくなりました。
―――――
つぎのひ、ミサキちゃんはがっこうへいきました。けれどすらいむはがっこうにいけないので、おるすばんをしていました。おるすばんをしているあいだ、すらいむはさびしいきもちになりました。
「ミサキちゃん、はやくかえってこないかなぁ」
すらいむはだんだんこころぼそくなってきました。それに、おなかもすいています。きをまぎらわせるために、すらいむはおおきなこえでうたをうたいました。
どれぐらいたったでしょう。ガチャというおとがして、ミサキちゃんのこえがきこえてきました。すらいむはいちもくさんにかけよって、ミサキちゃんのむねにとびこみました。
「すらいむちゃん、さびしくなかった?」
「だいじょうぶだよ。はなれていてもミサキちゃんといっしょにいるってきがしたから」
ほんとうはさびしくてたまらなかったけれど、すらいむはうそをつきました。
キュルル
すらいむのおなかがなりました。ミサキちゃんはおやつのクッキーをもってきました。すらいむもいっしょにたべました。
すらいむのからだはすこしだけおおきくなりました。
そのひのよる、ねるまえにミサキちゃんはすらいむにききました。
「すらいむちゃん、ほんとうはおるすばんさびしかったでしょ」
「……うん」
「あしたはいっしょにがっこうにいこうね。おともだちもたくさんいるから」
「うん!」
すらいむはげんきよくこたえました。
「すらいむちゃん、ずっといっしょだよ」
―――――
ひがのぼり、あさになるとミサキちゃんはがっこうへいきました。きょうはすらいむもいっしょです。がっこうにつくまでのみちのりは、すらいむにははじめてみるものがいっぱいでとてもわくわくしていました。すらいむがしつもんするたびに、ミサキちゃんはそのなまえをおしえてあげました。
がっこうにつくと、そこにはたくさんのこどもたちやせんせいがいました。すらいむがはずかしくてモジモジしていると、ミサキちゃんがみんなにしょうかいしました。
「このこはすらいむちゃんっていうの。わたしのおともだちで、とにかくたべることがすきなんだよ」
みんなははじめはめをまるくしておどろいていましたが、すぐにすらいむにやさしくしてくれました。すらいむとみんなはすぐになかよくなりました。
おひるになり、きゅうしょくのじかんになると、おなかをすかせたすらいむのためにみんなはきゅうしょくをわけてくれました。
すらいむのからだは、またおおきくなりました。
かえりみち、すらいむはミサキちゃんのランドセルのなかでねむっていました。ミサキちゃんは、おとなりにすむケントくんといっしょにはなしていました。
「なあ、すらいむってどこからきたんだ?」
「わからないの。でも、もりのなかにいて、けんをもったひとにあったって」
「けんだって? そんなものだれももってないし、もりだってないからこのまちじゃなさそうだな。ひょっとして、べつのせかいからきたとか――」
「そうなのかなぁ」
―――――
すらいむは きょうもおなかをすかせています。
「ミサキちゃん、おなかがすいたよ」
ミサキちゃんはすらいむにイチゴをあげました。
「ミサキちゃん、おなかがすいたよ 」
ミサキちゃんはすらいむにミカンをあげました。
「ミサキちゃん、おなかがすいたよ」
ミサキちゃんはすらいむにリンゴをあげました。
「ミサキちゃん、おなかがすいたよ」
ミサキちゃんはすらいむにメロンをあげました。
「ミサキちゃん、おなかがすいたよ」
ミサキちゃんはすらいむにスイカをあげました。
すらいむのからだは、ぐんぐんおおきくなりました。
すうかげつご――。
すらいむのからだはなんばいもおおきくなっていました。たべたぶんだけおおきくなるすらいむは、たくさんたべるようになったのでどんどんおおきくなりました。けれど、ミサキちゃんはかわらずすらいむにやさしくしていました。
「すらいむちゃん、すっごくおおきくなったね」
「うん。ミサキちゃん、こまってるよね……ごめんね」
「そんなことないよ!」
ミサキちゃんはおとうさんのいったことをおもいだしました。
「あんなにおおきいと、おうちはせますぎるんじゃないかな。どこかひろいところへはなしてあげたらどうだい」
ミサキちゃんはすらいむとおわかれするのはいやでした。せっかくともだちになったのに、そんなことをすれば、すらいむはまたひとりぼっちになってしまいます。ずっといっしょににいるとやくそくしたのに……。
「すらいむちゃん、ずっといっしょにいたいな」
「ぼくも」
ミサキちゃんはすらいむをだきしめました。すらいむにはうでがないので、ミサキちゃんをだきしめることはできません。かわりにすらいむはくちをおおきくひらくと、ミサキちゃんをゆっくりと、やさしくつつみこみました。
「ミサキちゃん、ずっといっしょだよ」
お疲れ様でした。まだ余力があれば続きもよろしくお願いします。
誤字など気づいたことがあれば指摘していただけたらうれしいです。