4話:勇者とは
こういうときはどう答えるべきなのだろうか?
久遠は悩んだ。聞こえは良いかもしれないが、小さな頭(久遠の場合、中身がそれほど入っていないこと)を必死に働かせた。
確か、小説とかでは・・・。
「ええっと、東のほうから。」
こういうときのお決まり文句だったよね?と内心確信しながら自信満々に言ってみた。
「いや、方角じゃなくて・・・・。まぁいいけど。」
アルトは何やら違うことが聞きたかったらしいが、久遠は他に何を聞きたいのかが分からなかった。
だいたい、こことは違う世界から来ました~なんて言っても信じてもらえないだろうし。
そう久遠は思って、お決まり文句と言いながら適当な方角を言ったのが事実だが。
「ところで・・・なんで赤の他人である僕の住民登録なんかをしたの?それが疑問で疑問で・・。」
久遠はそのことがとにかく聞きたかった。
そのせいで、この村から出られないというのがあったからである。
もう一つの【巫女の旅立ち】は置いとく事にする。きっと聞いたらいけないような気がしたからだ。
「頼まれたから。」
アルトは苦し紛れのように呟いた。
それ以上聞いてほしくないのだろうが、それは無理があると久遠は思う。
だから、深く追求することにした。
「誰に?その頼んだ人?は僕に関わりがあるの?」
「関わりがあるというか・・・クォンは精霊が見える?妖精とか。」
精霊?妖精?いるんだぁーー!!世界の道なら見たことがあるけど・・・。
いきなり話が変わった気がしたが、きっと関係するのだろうと思い正直に答えることにした。
「ないよ。変なモノ?なら見たことがあるけど。」
「変なモノ?それは、精霊とか妖精じゃなかった?」
「うん。道。」
「道?・・・そう、精霊たちじゃなかったんだね。」
「精霊や妖精が見ることができたら自慢できるんだけどなぁ~。で、それがどうかしたの?」
久遠はアルトの方を見た。
アルトは窓の外を見ていたからだ。
マールは当たり前なのだがアルトも、久遠には直視できない存在だった。
イケメンの特殊能力ってやつ?などと勝手に解釈。実は親友と重ねて見てしまう傾向があったためだった。
外を見ていたアルトが不意に久遠を見た。
うっわ!!目が合っちゃったよ!!!
慌てて目を逸らそうとする久遠にアルトは言った。
「僕は見えるんだ。」
「え!!いいなぁ~。」
その一言で久遠はアルトから目を逸らすことを忘れ、逆に羨ましいという表情でアルトをみた。
あれ?もしかして言いづらいことだったのかな?と思い、爆弾発言なるものを言った。
「それがどうかしたの?精霊や妖精が見えるなんて羨ましい!」
「っつ!!」
久遠にはわからなかった。
勇者であるがゆえに精霊が見え、妖精が見え。
勇者であるがゆえに人々から意味もなく尊敬され期待され。
勇者であるがゆえに・・・・。
しかしその逆もあった。
勇者であるがゆえに迫害され、狙われる。
そう、それがただの濃い血縁であるがゆえに起こりうること。
そのことをこの世界に来たばかりの久遠は知る由もない。
「クォンは・・・君は勇者になりたいの?」
「ううん。僕なんかが勇者なんて、笑われちゃうよ!」
「勇者になったらどんな失敗をしても笑われないよ?何をしても許されるんだ。」
そんなことを真顔で言うアルトを久遠は不思議そうに見た。
そして何故か浮かんでくる親友もとい幼馴染のこと。
誰も笑わないっかぁ~・・・でもあいつならきっと笑うだろうなぁ~。僕がどんなに有名になっても。
たとえ、勇者であっても『してもいいことと悪いことの区別もできないのか!!』って言って怒るんだ。
「もし僕が我がまま勝手な勇者だったとしても、誰一人として怒らない。僕は怒られない。でも・・・たった一人の人物によってその倍に怒られるんだ。」
にこりと笑って久遠は言った。
「アルトは、本当に誰からも怒られたことない?勇者だからとかじゃなくて・・・一度も怒られたことがない?」
その言葉にアルトは固まった。
きっと思い当たる節があったのだろう。
「そう・・・だね。たとえ勇者であっても許されないこともあるんだよね。」
「う~ん。許す許さないではなくて・・・て言うか、みんなが求める勇者にならなくていいじゃないの?アルトは勇者に選ばれた。でもアルトはアルトなんだ。」
「・・・・・っ。」
久遠の言葉にアルトは顔を赤くした。
その赤さを隠すかのようにアルトは手で口元を隠した。
久遠の方は、なんかでしゃばっちゃったかも。と心配した。
何も知らないくせに!!って言われたら落ち込むかも。
と、久遠は肩を落とし落胆した格好になった。自分を自分でブルーにすることが得意な久遠であった。
「あのさ。その一人ってどんな人なの?」
そういうアルトはどこか救いを求めるような瞳で久遠を見ていた。しかし久遠はその視線に気がつかなかった。
ただその問いに驚きつつもアルトが怒っていないことを喜んだ久遠は幼馴染かつ親友の慣れそれをバカ正直に話し始めた。
そのせいか話がそれ始めていることに気がついていなかった。
話が飛んで飛んで飛びまくる可能性があります。